『もしも、 〜だったら…』 という言葉は戦いの中では使ってはいけない。
ボク達隊長がタラレバで行動してしまうと、それは仲間の生死に関わる問題へ発展してしまうからだ。
ここまで生き残れた忍びには、決断の時は何かしらの確信がある。
経験だったり、計算だったり、人によっては予感だったり…
その判断を誤ると、死ぬだけだ。 簡単なことだ、他には何も無い。
生死にかかわる問題でない時はどうなのか?
あいにく、そんな無駄なことはなかったし、これからだってないだろうと思っていた。
だから気がつかなかった。 確かにボクの何かが警告を発し続けていたのに・・・
先輩と先生がいるボクの日常
「ヤマトさ〜ん! 今からですか〜?」
小さいアカデミー生をたくさん連れて、その人は屈託なく笑う。
たくさんの人がいろいろと彼を表現する。
忍者アカデミーの熱血先生、里の受付の看板、これは最も多い。
ラーメン一楽の宣伝マン、故三代目火影の書類係、五代目火影室のマスコット、その様に見えるらしい。
九尾の人柱力うずまきナルトの保護者、上忍はたけカカシの恋人、プライベートでこう認知されている。
「だれ?イルカ先生!」 「イルカ先生のお友達?!」
忍者の卵たちが我先にチョコチョコと走って来た。
彼が親しく声をかけたから、子供たちの中でボクは安全な人であると認識されたらしく、
あっと言う間に周りは、先程の彼と同じくひよ子だらけだ。
「これから任務に就かれるヤマト上忍にご挨拶!!」 彼がそう言うと、
子供たちは皆姿勢をただし、「ご帰還をお待ちしています!」 と言った。
ボクはなぜか子供たちの目線までかがんで、
頭をなでたり、小さい肩にふれたりしながら、行ってくるよと挨拶をしていた。
なぜか・・・そう、彼が前にそんなふうにしていたから真似てみたのだ。
そしてボクはその場を後にする。振り返らなくても彼が見送ってる気配がした。
「いってらっしゃ〜い!!」と、子供たちの甲高い声がいつまでも聞こえていた。
瞬身で移動しなかったのは、彼の視線も子供たちの声も嫌じゃなかったから。
嫌じゃない? ・・・違うな、嬉しいのか・・・
ボクはその時、今は亡き三代目の『木の葉の民は皆、家族じゃよ。』という言葉を思い出していた。
大蛇丸が里抜けする時、破壊した実験室で、
まだかすかに息のあるボクを抱きしめながら、三代目が言ったその言葉は、
うみのイルカという人物によって、今ボクの中にしみ込んできている。 あふれそうなほどに。
こんな事で目の前が薄っすら霞んできたのは、その証拠だ。
「ああいうコト、普通にやっちゃうからなぁ〜 あのヒト。 後輩泣かせたお礼はきっちりしとくから。」
里から少し出たところで、すれ違いざまカカシ先輩がぼそりと言った。
いつから見てたんだとかは愚問だろう、彼にかかわる事は、先輩にとって何より重要だからだ。
「先輩、任務お疲れ様でした。」
「単独か・・・無理しすぎるなヨ。行って来い。」
「はい。ありがとうございます、では・・・」
ちゃんと通常の挨拶に聞こえただろうか。 あえてそれ以上何もいわない先輩にボクも何も言わなかった。
ただ、ボクの気持ちは先輩にばれてしまったかもしれない。
はたけカカシ・・・彼もまた多くの人に形容されている。
千の技をコピーした天才忍者、最年少記録を全更新したエリート忍者、
ビンゴブック高賞金首、華々しいのもあれば、
裏切り者の白い牙の息子、写輪眼を親友から奪った冷血漢、
故四代目の稚児などなど、やっかみや嫉妬からくる呼ばれ方もある。
元暗部部隊長の彼は『仲間を決して見捨てない』を有言実行できる最高の忍びだ。
ボクの大先輩。そして、うみのイルカの恋人。
ボクは、先輩を迎えるであろう彼の、暖かいチャクラを感じる前に瞬身で移動して任務へ向かった。
先輩にばれてしまったかもしれないこの気持ちは、もうずいぶん前から自覚していた。
三代目がまだご健在だったころの火影室で、彼に逢った。
「こりゃ、テンゾウ! 血を落としてから報告に来いと、いつも言うておろう! お主もじゃ、カカシ!」
三代目は目にもとまらぬ速さで、ボクとカカシ先輩の頭をキセルでこずいた。
「いでっ! もう! 【次ノ任務ガ入ッタ急ギ帰還サレタシ】って、どうせ次も汚れるから一緒でしょ?」
「たわけがっ!!」
「何でボクまで・・・」
カカシ先輩が式の一文を三代目の声色で言ったら、もう一発づつくらってしまった。
三代目のキセル攻撃はわかっているのに決して見切れない。 二発目はかなり痛かった。
「ここは、日中、来客もあります。皆一般人とは限りませんので、
火影様は余計な詮索をされないようにと配慮されているのです。
・・・ていうのは一応の理由。 本当はご無事な姿を一目で、確認したいんですよねー 火影さま?」
現れた青年は部屋を横切り、火影室の奥にある客間の浴室へ、真新しい暗部服と面を持って消えていった。
声をかけられた火影さまは、急に下を向いて、何度も大きな咳をした。
そして同時に、防音完璧なはずの客室から、独り言が聞こえてきた。
「ったく、返り血なんだか怪我してんだかわかんねぇー、じっちゃんじゃなくても心配になるだろ!」とか、
「お、いい感じになってきた」とか、「俺が入りてー」とか、
「いっちょ、サービスして【桜のほのか】入れてやるか・・・
まてよ、これから任務じゃ、ほのかでも匂いはだめだな。 」とか。
その後、彼が客室からひょっこり顔を覗かせて、
お待たせしました! どうぞこちらへ! と爽やかに言ったけど、
先ほどの独り言とのギャプがありすぎて、ボクは思わず笑ってしまった。
見ればカカシ先輩もつぼに入ったらしく大笑いしてた。
火影様はそんなボクたちを見て、いたずらが成功した子供の様に笑らった。
「おもしろい奴じゃろ?」と言って。
カカシ先輩はまだ笑ってたけど、こらえながら、彼とすれ違う時に何か言ったらしい。
青年は、つかつかと火影様の前まで行き、言い合いをはじめた。火影室の机をバンバン叩きながら。
「火影さまっ! 客室の防音結界、勝手にとかないで下さい!
本音ばらされたからって仕返しですか? 大人げない!! 」
「おぬしが昔、やったいたずらに比べたらかわいいもんじゃろ!」
里長に向かってなんと命知らずなと思った・・・ が、三代目は言い合いながらも嬉しそうだった。
二人の子供じみたやり取りをみいて、ボクは自分が日常に引き戻されている事に気付いたんだ。
・・・びっくりしたよ、本当に。
出たよ〜と、先輩が戻ってくるまで、自分が血まみれなのを、すっかり忘れていた。
ーあの日ー
あの日の事を、ボクは今でも鮮明に思い出せる。
血まみれのボクも、いつものボクも、どちらも日常で木の葉の一部なんだと知った。
新しい暗部服に着替えて、ツーマンセルで行った任務の後は、
先輩もボクもなぜか汚れを落とし、それから木の葉の門をくぐった。
部隊長のボクたちがすることは、後輩が真似る。
暗部の仲間内では、自然とそうすることが浸透していった。もう何年も前のことだ。
結果、『木の葉の暗部はきれいに的確に任務をこなす』尊敬と信頼を込めて、こう言われる様になった。
日常とはこんなに近くにあったのだ。 気持ちひとつで自分を取り戻せる。
外道な任務で痛む心も、木の葉に帰ってくるたびに、里の日常と里の家族を守ってきたんだと知る。
もっとも、それに気がついた時は、もう三代目は亡くなってしまっていたし、
うみのイルカは先輩の唯一の人になっていた。
里外でも木の葉の息のかかった宿はたくさんある、敵の血を木の葉に持ち帰らない様に休んでいるんだ。
あれから怪我も少なくなったし、ボクにとって汚れを里の外に置いてくることは、もう習慣の様なもの。
暗部内だけでなく、今では上忍階級連中のマナーのようになっきている。
ボクが傷を負わずに生還したら、あの子たちはきっと笑ってくれる。飛び切りの笑顔で。
そして彼はいつものように、あの陽だまりのようなチャクラで迎えてくれるのだ。
ボクは馬鹿ではない。先輩を裏切ることは出来ない。絶対に。
彼のしぐさも、好みも、行動も先輩から聞いた。 先輩がいかに彼を大切にしているのかも知ってる。
ボクの尊敬するカカシ先輩は、彼も、彼の大切にしているものも全て守っているのだ。
「まいど、おこしやす。ご贔屓して頂いてほんま、おおおきに。お発ちになるまでどうぞ、ごゆっくり。」
人の良さそうなお婆さんは、何十年も前にはきっと美しいくノ一だったに違いない。
胡桃の入った饅頭とお茶を置いて、無駄話はせず、音もなく出て行った。
今だけ彼のことを考える。最近ではこの時間が一番好きだ。
声、表情、匂い、肌触り、味、五感を想像でいっぱいにする。
「くっ・・・、はぁ、・・・あ・・うっ」
女なんかいらない、こんなにも気持ちが良い。
「・・・ッ・・ル・・カッ・・・」
ボクの頭の中ではイルカ先生がボクのものを、頬張っている。
全身でお帰りなさいと言っているように、愛しそうに。
「・・・はっ・・・ っっ! ・・・くっ!!!」
『ん、テン・・ゾ・・・・さ・・・んっ』
想像の先生に本名を呼んでもらうと、すぐにイッてしまった。
何度も呼んでもらう。
テンゾウさんお帰りなさい、怪我はしてないですか、テンゾウさん・・・
「・・・・・あー・・・気持ちイイ。」
ボクは充実感で満たされている。
先輩もボクも女のほうがよかったのに・・・ひどいや、イルカ先生・・・
『俺だって、そうですよ!』
イルカ先生が頭の中で答えてる。
ご丁寧に、ボクが出したものが先生のいろんなところに付いている。
『俺は、今のあなたを作った、あなた自身を誇りに思います。』
ボクのイルカ先生が優しい目で、そう言った。
「ありがとう、イルカ先生・・・ ・・・うみのイルカ・・・ 大好き・・・」
里では決して言えない言葉を口に出す。
そしてこの気持ちは、汚れと一緒に置いていくんだ。
帰ったらまたすぐに、あふれてしまうけど。
うみのイルカは見かけで人を判断しない。
かといって、裏を読む事も必要以上にしない。誰にでも普通に接しているだけ。
里長も、天才忍者も、人柱力も、生体実験の被験者も、さっきのお婆さんやあの子たちにも、普通に。
すぐにその懐に入れてしまう。忍びとしてでなく、人として対等に向きあうんだ。
それがどんなにすごいことなのか、わかってないのは本人だけ。
【木の葉の仲間は、みんな家族】彼の中ではそれこそが【木の葉隠れの里の姿】だから。
そんな彼をいち早く見つけ出し、手に入れたのはさすがというべきか、里一番の忍び、はたけカカシだった。
先輩はうみのイルカのいる日常を勝ち取った。もう手放すことはないだろう。あるはずがない。
初めて逢った日は同じだった。 スタートラインは同じだったはずだ。
これが戦いの中ならば、ボクはもう死んでいる。
自分は警告をさらりと聞き流したのに対し、カカシ先輩はしっかりと聞き、耳を傾けた。
もしボクがもっと経験を積んでいたら、生死にかかわる問題以外でも勘が働いただろうか?
駄目だ、タラレバを考えちゃイケナイ。そんな考えは部下を持つ人間には命取りだ。
お土産に買った胡桃饅頭を手に、先輩の家へ向かう。
任務報告をちゃんと済ませてから、彼の家でもあるそこに行く。
以前、任務報告の前に寄って、イルカ先生に、めちゃくちゃ怒られたことがある。
ボクがはっきりと、今の気持ちに気づいた日だった。
「任務報告はあなたの生の証でしょう?! あなたの帰りを・・・
うぅ・・・・ 火影様やカカシさん、沢山の人が待って、るん・・・ですよ?」
先生は泣きながら怒ってて、ポロポロ溢れる涙を前にどうする事も出来ず、ただボクは立ちつくした。
だって、この時初めて気付いたんだ。 ヤバめの任務でやっと帰ってきた時、誰に逢いたかったかを。
任務中ここまでかも・・・って思ったら、
イルカ先生のあの暖かいチャクラを思い出して、気がついたらココにいた。
たかだか顔見知りのために、本気になって怒ってくれて、心配してくれて・・・
彼に心配されるほど弱くはない。 ボクは暗殺戦術特殊部隊の部隊長なのに・・・
いや、そうじゃない。ボクは彼にとって、家族のひとりなんだ・・・
・・・こんな人、他にはいない。
彼はカカシ先輩に会いに来たんだろうと思ったのかもしれない。
「かかしさん!! ヤマトさんの様子がおかしいです! 医療班を呼んだほうがいいかもしれません!!」
ボーっとして動かないボクをみて、真っ青になったイルカ先生が叫んだ。
先生の涙でぐちゃぐちゃの顔は、カカシ先輩が丁寧にタオルで拭いてあげてたっけ。
「・・・ヤマト、綱手様に見てもらおう、行くヨ。 イルカ先生、オレこいつ連れてちょっと行ってきます。」
五代目のところへ連れて行かれた時は、自覚した心が悲鳴をあげそうだった。
幸い、先輩も先生も、五代目すら、任務後の後遺症か敵忍の術かと、思ってくれたようだ。
結局、あの時は過労という診断になり、数日の休暇をもらった。 体に何ら変化はないのだが。
休暇中、イルカ先生の事が頭から離れなかった。
自分は泣いてるのに、どこか怪我してないか一所懸命探ってる瞳。
涙をぬぐいもせず、そらさない視線。 そしてダダ漏れのチャクラ。 包みこんでくる暖かいチャクラ。
彼は無意識だろうが、人と向き合うときはこのチャクラをジンワリとまとっている。
正面から向き合った彼のチャクラは、泣きそうになるほど心地良かった。
カカシ先輩が彼の横にいてくれなかったら、ボクは彼に泣いてすがっていたかもしれない。
ボクのそばにずっといてくれだの、特別な愛をくれだの言い出しかねなかった。
そして力いっぱい、この腕で抱きしめていただろう。
カカシ先輩の信頼を裏切り、イルカ先生を悲しませていたに違いない。今思い出してもゾッとする。
「オレの仲間は何があっても見捨てない。忘れるな、オレ達は皆、木の葉の忍びだ! 散!!」
カカシ先輩の任務の号令はボクに染み付いている。
ボクだけじゃなく、皆、先輩に力づけられた。 先輩の生き残ろうとする執念と強い心に。
あの強さのもとが何であるか、ボクは知ってしまった。
ボク自身もこれからもっと強くなる。彼の愛する里と全てのものを守ることで。
闇に沈みそうなボクの心は彼に守ってもらおう。 あのチャクラを思い出せばいい。
先輩がそうして来たように、ボクも守っていこう。 ボクの気持ちは、先輩にも先生にも言ってはいけない。
特別にもらえた休暇中、ずっと考えて、考えてぬいて、そう決めた・・・はず・・・だった。
「ヨ! さすがだねぇテンゾウ、Sランクこなしても傷ひとつこさえてな〜いし! いや〜ぁ、立派、立派!
ん?・・・饅頭?!・・・自分の好きな胡桃さえ入ってりゃイイってもんじゃないでショ、お前?
・・・ま、先生が好きそうだから別にイイけどネ。」
「・・・ただ今、戻りました。」
先輩の家に向かう途中、本人と一緒になってしまった。目ざとく胡桃饅頭を見つけて、眉をしかめている。
先輩は甘いモノが苦手だ。もちろん知ってる。
ボクはこのお土産を先輩に渡し、イルカ先生によろしくと言って、この場を立ち去ればいい。
でも、手も足も、動かなかった。
「・・・・。」
「・・・・・・・・。」
先輩! カカシ先輩!! ボクは心からあなたを尊敬しているんです!
いつも前を行く先輩の背中を見て、いつか追い越そうと頑張ってきました!
でも彼がそばにいる日常を手に入れている先輩は、もっともっと強くなる!
ボクは絶対に追い越せない! 追いつくことだって出来ない!!
先輩・・・ 助けてください・・・ ボクはどうかしてる!!
「ボクは先輩が・・・ 心底、羨ましい・・・ 先輩になりたいです・・・」
「・・・・・・。」
体は動かないのに、思わず出てしまった言葉に自分でびっくりした。
ボクは今、何を口走った? 嫌な予感が背中をかけぬける。
先輩のような忍びを目指して来た、と続けよう。本当のことだ。
「・・・相手がお前でも容赦しないヨ。」
「先輩の・・・・っ!!」
ボクが言い逃れをしようとするより先に、先輩が言った。
さっきの言葉の意味も取り違えることなく・・・
昨日、門で会った時も、今日、帰り道で会った時も。
きっと偶然じゃない・・・
「そろそろ限界だと思ってね・・・ まあ、お前にしちゃ、よく耐えてたと思うよ。」
「・・・・・・。」
あぁ・・・ はたけカカシは、やはり最高の忍びだ。
ボクより先に気がついていたんだ。ボクの気持ちに。
自分でコントロールができなくなる前に先輩が暴走を止めてくれた。
今日は飲みに行くかと先輩が誘ってくれたので、ありがたくご馳走になる事にした。
めいっぱい飲んで食べて、絡んでやろう。
「お前の本当の名前は、先生には教えないよ?」
「・・・まいったな・・・。 ・・・でも、・・・・・・ありがとうございます。」
おかずにしてたイルカ先生に名前を呼んでもらっただけでイッたのに、実際のイルカ先生に呼ばれたら?
今度こそボクは自分自身を止められない、先輩がまた止めに来るだろう。 それはつまりボクの人生の終焉。
先輩は容赦しないと言った。 先輩がそういうなら “楽には殺してやらないよ” という意味だ。
先輩が否定したのはボクの本名だけ。 ボクの気持ちは否定しなかった。
裏切るような事をしなければ、好きでいることは許してくれているんだ。
ボクの枯渇しきった心が求めるものは、先輩が一番良く知っているんだろう。
カカシ先輩もボクも、底なし沼の様な暗闇を這いまわり、ヘドロまみれで生きてきた。
これからも暗闇はついてまわるし、このヘドロもボクたちの一部だ。
けれど、それすらも日常なんだ。 だだ胸を張って、自分を認めれば良い。
そう感じさせてくれる存在を、先輩とボクは見つけた。 たまたま、同じものだっただけだ。
「オレはなるべく早く、後輩の本名を教えてあげたいんだけど・・・ ネ?」
「・・・ないですから。絶対!」
「・・・そりゃそうか、ま、一応、確認。 ・・・わかってるから。」
先輩はボクの心変わりを期待してみたらしい。
イルカ先生を思う気持ちだけなら、だいぶ出遅れたけど、先輩に負けない自信がある。
なにしろ、爆発一歩手前だったんだから。
ただボクを始末する口実が、ほしいだけかもしれない。 でも先輩にとって、まだボクは守るべき対象だ。
イルカ先生の家族だから。先生が愛する里の民で、大事な後輩だから。
カカシ先輩は、先生を無駄に悲しませることは絶対しないはずだ。
そう、ボクが一線を越えなければ、だ。
自分の生死にかかわる事なら、また今回のように回避できるはず。 ボクはここまで生き抜いてきた忍び。
ふいに、先生を悲しませた事のある奴の末路を思い出した。
裏切り者とはいえ、あの相手に同情した。 あの時の先輩には、ボクでもちょと・・・ 近寄れなかった。
今なら先輩の気持ちに同調する。 これからはボクも同じ事をしそうだよ・・・。
先輩と先生がいるボクの、この日常を受け入れよう。
そして今度は、暴走しそうになる前にご馳走してもらおう。うん、決定。
イルカ先生に甘えるのもイイ。 先輩に本名をばらされない程度に。
先輩に、たくさん聞いてもらいたいことがある。
教えてくれるかわからないけど、先輩しか知らないイルカ先生の話も聞きたい。
先輩だって、ボクにしか話せないイルカ先生絡みの話があるはずだ。
「・・・テンゾウ、お前はやっぱり・・・ オレが認めた男だヨ。」
「先輩、里の中では、今後もヤマトでお願いします。」
* 草の根運動さまへ投稿した処女作です。(坂道を転げ落ちるきっかけ:爆) ちょいと修正してあります。(笑)