緋の記憶 1   ABC DE




「ただ今、戻りました。」
「うむ。・・・ハスナや、よくやった。 そして、よう帰って来た、よう帰ってきたの・・・」

火影直属 暗殺戦術特殊部隊の隊員が、私情で動いたのに・・・
大陸中探しても、こんな『影』はいない。 自分の事を、私たちの・・・忍びの、父親だと言う。
もし水の国、霧隠れの里の水影だとしたら?  私は裏切り者として、追い忍を向けられていた。
その父親の顔に、泥を塗ったんだから、どんな罰でも受けるつもりで帰って来た。
火影様の 第一声は“よくやった”だった。

「あ!! ハスナさんだ!! ご挨拶も出来ずに行ってしまわれたので、
 ずっと気になってたんですよ。その節は、本当にお世話になりました!
 ・・・・・それと、お帰りなさい。 長期任務お疲れ様でした!!」

火影室を出たところで、わき水の様なチャクラを持つ、彼に声をかけられた。
カカシ・テンゾウ両部隊長達の、専属世話人になるはずだった うみの中忍。
今は火影様の承諾書があるとかで、重婚生活を、おくっていると、聞いている。

「・・・・ただいま。 ふふ、まるで、旦那さまの失態を謝る、よく出来た奥さんみたいよ? 」
「・・・それに関しては、否定しません。」
「うふふ、否定しないの? なら、うまくいっているのね?」
「ええ、そりゃぁもう、不本意ながら。」
「じゃぁ、部隊長達が言ってた事は本当だったのね、安心したわ。」

私に、3人が重婚したと教えてくれたのは、他でもない部隊長達だ。
仲良く新婚生活をおくっていると、ふたりが嬉しそうに話してくれた。

「なんか、凄い話になっていたんですって?」
「そうなんですよ! 養子縁組画策が発覚して、飛ばされるって・・・あり得ないでしょ? !」
「ふふふ。・・・養子かぁ・・・ん〜 残念だけど、ちょっと育ち過ぎ・・・かしら? 」

そう、今回の私のとった行動は、部隊長達のフォローがなければ、私闘で同胞を傷つけた上、里抜け。
けっして『長期任務』としては、扱われていなかったと思う。
それに相手が誰であろうと、任務依頼無くして民間人を殺めれば、ただの殺人、犯罪者だ・・・


隊長達の支援に行った紫の里。あのすぐ後、水の国の小さな町、緋沼〈ひぬま〉へ向かった。
その名の通り、赤い沼がある町。先の大戦で激戦地区のひとつだったところだ。
何人もの死人が、この沼に放り込まれた。あまりの数の多さに、美しい赤沼が黒く染まったらしい。

木の葉がビンゴブックに載せている『人喰いジュウザ』が、この町に潜伏している。
何も本当に人間を食べる訳ではない。 人の記憶を喰らう。
洗脳や暗示とは違い、喰らった記憶を別の人間へと移すことが出来る。
記憶を喰われた人間は、植物状態になり、記憶を移された人間も上書きされ、元の人格は殺される。
だから『人喰いジュウザ』と、呼ばれている。 その人喰いジュウザ討伐命令。
今は元の色を取り戻した緋沼へ、私達はまた、ジンを隊長として任務に就いた。

ジュウザは、声に出すだけで術を使う事が出来る。まともにやりあったら勝機はない。
それに、雇われればどの国にも付く『人喰いジュウザ』は、忍五大国にあって、里をもたぬ忍び。
忍五大国諸大名は『人喰いジュウザ』を、なかば公認で放置、また、利用して来た。

もし、刺客を差し向けた国があるとしたら、どうなるだろうか。
万が一、記憶を喰われてしまえば、どんな優秀な忍びも植物人間にされてしまう。
たとえ運よく倒せたとしても、それにより、ダメージを受けて戦力が落ちてしまっては、
他国に攻め入る隙をあたえてしまうので、そんなリスクは侵せない。
君子危うきに近寄らず。 あえて刺激をして、寝た子を起すことはない。

「・・・ もう終わりだジュウザ。」
「時代は変わるものよ? 口唇で印が組めるあなたに、天敵が登場したのよ、残念。」
「おれ読唇術めちゃ得意なんですよ、人喰い術を発動させる前にあんた殺せるよ?」

そう、満を持して討伐に踏み切ったのは、読唇を得意とする、アラシの入隊があったから。
完璧な読唇術。印が完成するより早く、常に防御態勢をとれる。
前もって解っている攻撃を喰らうほど、私たちは馬鹿ではないし、弱くもない。
適材適所の采配。犠牲を一人も出す事なく、確実に、任務は成功するだろう。

「・・・その声、そうか、ははは、こりゃいい! どこかで見たと思ったら、お前さん、
 あの子の母親だ、まちがいない。俺が、霧隠れの忍の記憶を入れてやった、あの子供の・・・ 
 あれは傑作だったな、お前たち、甘ちゃんの木の葉の里には、なかなか良い刺激だったろう?」

「!!!」
「・・・・。」
「ハス・・・ナ、さん?」

「ふはは、これも因果応報。オレもここまでの様だから、最後にいい事を教えてやろう。
 あの時オレに人喰いを頼んだのは、ここ、水の国の大名『ミズモチ』だ。」
「だからお礼に、楽に殺してほしいなんて言わないで? ・・・・・って、もう言えないか。」
「あれ、不味かったですか? 生け捕りにして、拷問部へ持ってった方が良かった?」
「・・・いや、火影命令は抹殺だ。 それでいい。」

私が全てを聞き出すまで待たず、アラシ君が首を落としていた。
ミズモチ〈水望〉それだけ聞ければ問題ない。 私の・・・あの子の仇がこの国にいる・・・・
相手は水の国の大名、そう簡単にはいかないだろう。 でも、知ってしまったら無視はできない。