緋の記憶 2   @B CDE




もう、ずっと前だけど、私には命を懸けてもいいと思える相手がいた。
その男は忍びではなかったが、安心して寄り添える・・・まるで大樹のような人だった。
あのヒトのそばでは、ただの女でいられた。何でも話せた。けど、あのヒトの愛情の深さを見誤った。

暗部の隊員は、ほとんどが他国のビンゴブックに載っている。もちろん私も、例外ではない。
あるとき、私の首を狙って、賞金稼ぎが里に侵入した。心当たりがありすぎて、誰の差し金かわからない。
そんなことは、全ての上忍や暗部にとって、日常茶飯事だった。
だから、あのヒトが人質にとられても関係なく、返り討に出来る自信はあったのに。

「君は里にとって、なくてはならない人だ。 僕がいる事で、君の足枷にだけはなりたくない。」

そういってあのヒトは、血だらけの私をその場に残して、いなくなった。
川から水死体が発見されるまで、私は捨てられたと思っていた。  自殺だった。

遺書があった。  『先に行って待っているよ、君だけを、ずっと愛している。』と。
私のお腹にあのヒトの子が宿っていなければ、耐えきれずに狂っていたかもしれない。

私にはあのヒトの忘れ形見がいる。そう思うと、どんな任務でも耐えられた。
あの子には少しだけれど、チャクラが感じられた。私に似たのだ。
けれど、素直で、何でも思った事を口にするのは、あのヒト似。 彼と私の宝物。

6歳のある日、あの子の中のチャクラが急に大きく覚醒した・・・・と思った私は、
忍者アカデミーへの入学を希望し、火影様にご挨拶に伺った。 そして・・・・

「木の葉の影だな?  ・・・覚悟!!!」
「むぅ!!!」
「火影様!!  危ない!!」

それは一瞬の出来事だった。 私は暗部。火影直属部隊だ。反射的に火影様を守るべく体が反応した。
私の放った風遁で、小さな体が真っ二つに裂けた。 声が違った。 気配が違った。
でも、切裂いたのはまぎれもない、彼の残してくれた私の子供だった。

私は火影暗殺の容疑を懸けられ、捕縛されたが、三代目自らが無実の証人となって下さった。
何かしらの暗示、もしくは洗脳であると思われる、ハスナには非はないと。

「里は九尾襲来の痛手から、完全には立ち直っておらん。おぬしの力をまだ貸してくれ。よいな?」
「私は・・・ なに、を・・・   私を・・・ あのヒトの元へ、この子の傍に・・・火影様!!」
「ならん!!!  忘れるな、里の民もおぬしの家族じゃ。・・・家族の為に耐えてくれ。」
「・・・・。 ハスナ、・・・その任、拝命致します。」
「すまんの・・・。 ワシを許すな、責めて生きよ。」



小さな子供が巻き込まれた火影暗殺未遂事件は、それほど表に出る事もなく、過去の出来事になった。
火影様と、私をその場で取り押さえた、この、ジン以外、あの事件を知っている者はもういない。

「行かせんぞ。」
「・・・・。」
「ちょと、ジンさん! ハスナさんも! 超殺気立ってるんですけど?!」

ただやりあっただけじゃ、ジンにはかなわない。 なら・・・ジンの戦力を削ぐしかない。
私はアラシ君に狙を絞った。 彼をかばいながらじゃ、いくらジンでも私と対等には動けない。

「わわわ、やめて下さい、ハスナさん! オレを殺る気なんですか?! わっ!! ジン隊長!!」
「ハスナ!・・・くっ、!! 馬鹿なことはするな!!」
「ゴメンなさい。だって、あなたは見逃してくれないでしょ?  ・・・立ちはだかれ、火牢錠っ!!」

私は風遁と火遁を、同時に扱える。 火の勢いは風の煽りを受けて、左右に広り、地面を炎が走る。
その炎の上には火柱が吹き出し、二人を囲んだ。さながら炎で出来た牢獄のように。
炎は中から出ようとすると襲いかかる。 ジンは、アラシ君を守って技を繰り出せずにいる。
もし、炎から飛び出ても風遁に切り刻まれるだけ。 それはジンが良く知っているはず。

もともと、敵の足止めと、捕獲の為に開発したオリジナルだ。 時間がたてば、やがて炎も風も消える。
これでしばらく、ふたりを足止め出来る。 火影様、お叱りは帰ってからいかようにも受けます。

はやる気持ちを抑えられられない・・・大名『水望』に向かって、私の足はただ突き進む。
部隊長達がいなくてよかった。 もし彼らだったら、足止めも出来なかっただろう。
私の為に泣いてくれた、うみの中忍・・・ 彼なら反対せずに、行かせてくれただろうか?

この時の私は、まさかジンが火牢から抜けだして、部隊長達に式を飛ばしてたなんて思いもしなかった。
ましてや、彼らが私を追ってくるなんて、考えもつかなかった。