緋の記憶 4   @AB DE




ターゲットの殺害は、なるべく自然に、または、事故的に見せかけなければならない。
市井で情報を集めること4ヶ月。相手は好色な男で、私はくのいち。ならば手段は決している。
なんとか床に上げてもらうよう、色仕掛けで気に入られるとしよう。

私は水望がよく出入りしているという廓 『華野屋』 を調べ上げ、潜入した。
遊郭は身分を問わず、人の出入りが有る為、結界がかなり強固に張られている。
廓の中ならば、あまり大きな術は使えないが、少しくらいの忍術を使っても さほど目立たない。

「影分身の術! ・・・・変化の術!・・・ よし。・・・今日、ここで終わらせる!」

私は影分身を二体作り出し、それぞれに変化の術を加えた。
一人がちょっと怖面の木の葉の上忍。 もう一人が 『椿』 の付き人の少女。
ここ華野屋では遊女のことを 『花』 と呼ぶ。 皆、花の名前が付いているからだ。

「椿、俺はお前に惚れてるんだ、オレと一緒に木の葉に行こう。な?」
「冗談じゃない! 悪いケド・・・木の葉の里って気に入らないの。」
「木の葉はいいところだ! きっと好きになるよ。オレは上忍だ。お前一人なら・・・」
「しつこいわ! もういいかげんにして。 おタエ、塩まいて! はやく!!」

「は、はい! 姉さん! ゴメンナサイ忍者さん・・・・  エイッ!!」
「げほっ! お前ら、何見てやがる!  ごほっ! 見せもんじゃねえぞ!! どけよ! どけっ!!」

男がしつこく遊女に言い寄って足蹴にさる。 塩をまかれ、周りに当たり散らしながら帰って行く。
そう、全部が私の一人芝居だ。 これだけやれば、水望の目に止まるだろう。

私は水望が入郭し、奥へ続く階段を上がったところを見計らって、一芝居を打った。
階段を下りて角を曲がり、人目を確認してから、上忍の影分身を消すのも、もちろん忘れない。


「ちょっと、そこのお譲ちゃん、その部屋にいる花は誰だね?」
「・・・? あ、あたし?? お部屋は椿姉さんのお部屋ですけど・・・」

「そうかい、椿という花かい。よし、今夜は椿を座敷に呼ぼう。そう姉さんに伝えておくれ?」
「はい! えぇっと、あの・・・お名前を聞いてもよろしいでしょうか?」
「はは、それはすまなかったね、水望だ。 『花月の間』 で家来と飲んでいるから、椿に接待を任せるよ。」
「解りました! 水望さまで、花月の間ですね? おかみさんと姉さんに、言ってきます!!」

引っかかった。火影暗殺を企てるほどの人物。木の葉と聞いただけで虫唾が走るだろう。
奴の嫌う木の葉の忍び、それも上忍をこっぴどく振った花の顔を、見たくなるのは当然だ。
塩をまいたのはおタエ。私は部屋に入って行き、後ろ姿しか見せていない。余計に気になるだろう。
おタエの出番はこれで終了。部屋に呼ばれたら軽く暗示をかけてしまおう。私に夢中にさせるのだ。


「水望様、ご指名頂きありがとうございます。椿でございます。」
「おお、やっときたか、待ちかねたぞ? 左近、さっき話していた花だ。」
「・・・左近だ。そなた、木の葉の忍びを袖にしたそうだな? なかなか良い気質だ。」
「!! お恥ずかしいところを、お見せしてしまって・・・申し訳ありませんでした。」
「はははは、コレは愉快! 私もぜひ見てみたかった、その振られ男を! はははは!」

「わ、笑い事じゃありませんよ! 仕返しされるかもしれないって、後から気が付いて・・・」
「なに、心配はいらぬ。 椿、そなたを囲ってやろう。 ワシの城に来ると良い。」
「城?・・・水望・・・水望!! ひょっとして・・・ 大名様? 大名の水望様ですか?!」
「ははは、女将から聞いて来なかったな? この方こそ、水の国の由緒あるお家柄、水望様その人だ。」

なんと、いきなり召し上げの話が出た。 暗示をかけて腹上死させるつもりが・・・
どうやら、本当に気に入られたようだ。 今日は床入りはないかもしれない。計画変更だ。
城の中はたくさんの忍び・侍で一杯だろう。 いよいよ、チャクラを完全に封印しなければ。
さらに時間がかかりそうだ。でも、自然死に見せかけるのなら一番いいかもしれない。

「水望様? まさか、本気ですか?! あたしみたいなのが、城だなんて・・・」
「そなたのようなオナゴは、なかなかいない。 わしは、一目で気に入った。 良いな? 左近。」
「はっ。仰せのままに。 ・・・私も彼女とは、話が合いそうだ。」

彼らに、なぜ木の葉の里が嫌いかと聞かれた。
私は、忍界大戦の時、両親を木の葉の忍びに殺されたから、と答えた。
実際は逆だ。私の両親は忍界大戦の時、霧隠れの忍びに殺されたのだけど。
すると彼らはさらに機嫌を良くし、今迄、木の葉に対してやった嫌がらせなどを
さも、それが生きる楽しみだと、自慢するがごとく、次々と私に話し出した。
その度に私は、いちいち彼らに賛同して、あるいは、感動して見せた。
悪だくみを楽しむ仲間が増えて、よほど嬉しいのか、このまま城に来いと言い出す始末だ。


「まぁ!それは!・・・くすっ!キレイゴトばかり並べて現実を知らない、年寄りにはイイ薬!ふふふ。」
「奴らの善人面が気に入らぬ。この世は綺麗なだけではない事を、わしが教えてやっているのじゃ。」
「ここ何年かは刺客を雇っていない。 あの人喰いジュウザを雇っても失敗したからな。」

吃驚したのは、昔一度、火影暗殺を試してみた事があるという事を、二人が話したこと。
結果は失敗だったが、かなり面白かったと・・・教えてくれた。
私は指が白くなるまで手を握りしめながら、その話に大いに共感して見せた。

次の日、本当に城から迎えが来た。女将さんは、またとない出世だと、喜んで送り出してくれた。