変わらないもの 1
ABC
DEF
*このお話には 原作と違う生き方をしたリンが登場します
「な・・・ 何やってるんですか!! 先輩!!」
「!!!!」
「・・・・・がはっ!! げほっ!! げほっ!!」
ボクは自分の目を疑った。 あの尊敬するカカシ先輩が・・・・イルカの首を絞めていた・・・
先輩はボクに肩を掴まれて始めて、自分がした事を認識したようだった。目を見開いて、硬直している。
一度に酸素が入ったせいか、イルカが血を吐かんばかりに、もんどりうってむせた。
ボクはすぐに、イルカを先輩から離した。 今のこの様子だと、先輩は幻術にかかっている。
「オレは・・・・ オレが・・・ やったのか?」
「・・・・。」
「げほっ! ごほっ!!」
いまだ硬直の解けない先輩は、まるで何かに耐えているように、ゆっくりと呼吸を繰り返していた。
先輩が敵の幻術にかかったまま帰って来るなんて、信じられない。
震える自分の手を見つめながら、先輩はなんとか、ボクとイルカに謝った。
「イルカ、ごめん・・・ オレ・・・なんかの術を喰らって帰って来たみたい・・・」
「げほ、ごほっ・・・」
「先輩・・・・ 早く、三代目に調べてもらった方がいいです。」
出会った時は、恐ろしく冷めてて厳しい人だったが、だんだん変わっていった。
ボク達はその変化を間近で見て来た。だから知ってる、先輩ほど、強い人はいないと。
先輩が、オビトさんを亡くして写輪眼を移植されて返って来た時も、
リンさんと四代目を亡くした時も、ココまで弱々しく感じたことはなかった。
ちょっと三代目のとこ行ってくる・・・ゴメンね、と謝ったその声は、今迄聞いた事がないほど小さい。
はたけカカシはボク達の自慢の兄貴だ。 特にイルカは絶対的な信頼を置き、慕っている。
ボクとイルカは頷き合い、追いかけて行くことにした。 猿飛家の母屋へふたりで向かう。
あんな先輩は、見た事がない。 兄貴が心配だ、イルカの顔にもそう書いてある。
先輩とボクとイルカと三代目の実子のアスマは幼馴染だ。小さい頃のボクの家は、火影屋敷だった。
というのも、ボクは抜け忍大蛇丸の実験体で、処分寸前に三代目が待ったをかけ、保護してくれた。
三代目火影、猿飛ヒルゼンは、ボクにとって火影様というだけでなく、育ての親だ。
四代目に火影を任せ引退した後も、猿飛家に引き取り、それからもずっと親代わりだった。
木の葉の三忍のひとり、ジライヤ様の弟子。三代目からみると、孫弟子にあたる四代目火影波風ミナトの、
スリーマンセル仲間がイルカの両親だ。そんな関係で、イルカはよく猿飛家に遊びに来ていた。
年は離れていたが、彼らは実に信頼を寄せ合っているのが、子供のボクにも伝わって来た。
父親を亡くしたカカシ先輩を、四代目は引きずるようにして、連れて来ていたっけ。
名付け親はもちろん三代目だ。 自分の幼馴染の、志村ダンゾウさんを参考にしたらしい。
≪テンゾウ≫古風な名前だが文句は言えない。チンゾウやツンゾウ、トンゾウでなくて本当によかった。
ボクの正式な生年月日は不明だが、四代目の何気ない一声を発した日で決まった。
“イルカちゃんと同い年でいいんじゃない?”8月10日、その日がボクの誕生日になった。
『かっこいい年上の男の事を、先輩と言うらしい。おれ達は今日からお前達の先輩だ、いいな?』
『はい。 アスマ先輩! カカシ先輩!』
『はーい! アスマ兄ちゃん先輩!! カカシ兄ちゃん先輩!!』
『いや・・・イルカは・・・なんか、兄ちゃんのままでいいや、ね、アスマ?』
『おう、そうだな・・・ってか、カカシ、お前もおれさまを先輩とよべ!』
『やーだよーだ。 オレのが強えーもん。』
『がーっ! 可愛げねー弟だぜ、お前だけは!!』
『やーい、可愛げなーい』
『可愛げないー おとおとー』
『うっせー、このチビども!!』
六つ上のアスマ先輩、四つ上のカカシ先輩、同い年のイルカ。 ボクは本当に恵まれていた。
大蛇丸の実験体など、一体誰が育てようと思うものか。 三代目にいくら感謝しても、し足りない。
任務のスリーマンセルとは違い・・・ ボクにはいつも、木の葉の仲間が一緒だった。
四代目が亡くなるあの日まで、隠居の猿飛家は、それはもうにぎやかな毎日だった。
先輩が猿飛家に始めて来た日を思い出す。 先輩の父親は、木の葉の白い牙サクモ、里の英雄だ。
その当時は、第三次忍界大戦終戦直後でもあったから、表立ってはそう声をあげる人は少なかった。
命令違反をして、仲間を助けた、それは忍びの恥さらしだという人たちが大半を占めていた。
助けた本人にまで、木の葉の為に散る機会を奪いやがってと、罵られた。
でも言葉は、本当にそういう意味で言っているのかどうか、その表情で確認できる。
サクモさんはもの凄く真面目な人だったから、言葉通りに受け取ってしまった。
周りから目をそむけ、下ばかりを向かず、顔をあげて人の顔をみて見ればよかったんだ。
そうすれば、皆の裏の本当の気持ちを理解できたと思う。