変わらないもの 5   @AB CEF




隠居していた三代目が、火影に再任。 里はまた新しい未来へ歩き出す。
生を全うした忍び達に代わり、火の意志を託されたオレ達が、今度は木の葉を守って行く番だ。


テンゾウの木遁チャクラが開花した。三代目はオレの下につけると言って、暗部に入れた。
暗殺戦術特殊部隊、通称『暗部』は、人の事を気にしない、癖のある奴が掃いて捨てるほどいる。
木遁は初代火影だけが扱えた。なぜテンゾウが使えるのか、気にする奴なんかココにはいない。
オレの厳しいシゴキに、文句も言わず付いてくるテンゾウ。 コイツは必ず頭角を現す。

アスマは火の寺へ行った。 修行し直すと言って、木の葉を飛び出した。アイツの気持ちもわかる。
あの時のオレ達は、ただ見ている事しか出来なかった。 今よりももっと強くなって帰って来るだろう。
悪友の兄貴、アスマがいなくても、オレは退屈しなかった。オレに、かまってくる奴がいるからだ。
奴が言うには、オレは“マイライバル”なんだそうだ。 暇な時は、遊んでやっている。

イルカも無事、アカデミーを卒業出来た。下忍、中忍になっても、イルカはイルカのままだ。
オレは変わった。イルカに対する思いが、兄弟に向けるようなソレでは、なくなってしまっていた。
いつからとか、なぜとか、考えなくてもわかる。出会った時からだ。 認めたくなかっただけだ。
もっと大きくなったら、絶対オレだけのモノにしよう、そう決めてイイ兄貴を演じ続けて来た。







イルカが中忍試験に合格して一年・・・ずっと待ってた。 17歳だ、もういいだろう?
猿飛家の小さな離れ。オレ達がいつも集まる場所に、イルカはいた。 やっと・・・・ やっと言える!

「イルカ!!」
「カカシ兄・・・じゃなかった、はたけ上忍、お帰りなさい!!」
「・・・ちょっと。 はたけ上忍はないでショ、誰に何を言われたの?」
「ミズキが・・・兄ちゃん達は里の誉だから、軽々しく呼んじゃダメだって・・・」

真っ直ぐなイルカの周りに人が集まるのは当然だ。 だが、それを妬む歪んだ奴もいる。
オレやアスマが何度忠告しても、ミズキはアカデミー時代からの、俺の友達だと言って聞かない。
くだらない事を吹き込みやがって! アイツがオレ達の何を知っているんだ、大きな世話だ。
ミズキは心根がねじ曲がっている。 いつかアイツは、イルカも里も裏切るだろう。

「聞いて? “兄ちゃん”はダメ。 “はたけ上忍”は論外。」
「じゃあ、なんて呼んだらいいの?」
「オレはお前が・・・イルカの事が大好きだ。会った時からずっと。 だからもう兄貴は嫌だ。」
「兄ちゃんじゃなくなるの?! どうして?!」

・・・忘れてた。 イルカは天然だった。 ハッキリと態度にも言葉にも出して伝えなくちゃ。
オレはイルカを腕の中に閉じ込めた。 あんなに小さかったイルカ。 オレと変わらない背丈になった。
強く強く、かき抱く。こんなに温かい。もう離せない。ここまで我慢していた自分を褒めてやりたい。

「な・・・ 何やってるんですか!! 先輩!!」
「!!!!」
「・・・・・がはっ!! げほっ!! げほっ!!」

どういうことだ?!  オレはいつから幻術にかかっていた?!
イルカを抱きしめたと思っていた行動は、実際にはイルカの首を絞めていたのだ。

「オレは・・・・ オレが・・・ やったのか?」
「・・・・。」
「げほっ! ごほっ!!」

テンゾウがオレの肩を掴まなければオレは・・・ オレはイルカを殺していた!!!
オレが、この手で、イルカを、 ・・・・発狂しそうだ、落ち着こう・・・胸に深く息を入れる。

「イルカ、ごめん・・・ オレ・・・なんかの術を喰らって帰って来たみたい・・・」
「げほ、ごほっ・・・」
「先輩・・・・ 早く、三代目に調べてもらった方がいいです。」
「うん。 ・・・ちょっと三代目のとこ行ってくる・・・ゴメン・・・ね・・・。」





離れから三代目のいる母屋へ向かう。その短い間にも、いつ術にかけられたのかを考える。
一番最近の暗殺は一般人だったから、たぶん違う。 オレに気付かれずにかけたのだから、忍びだ。
まだ、イルカの首を絞めた感触が残っているせいか、手の震えが止まらない・・・
テンゾウが来てくれて本当によかった。あと一分でも遅かったら、オレは・・・

「火影様、オレを調べて下さい。 ・・・敵の幻術にはまっています。」
「お主ともあろう者がヘマをしおって・・・丁度いい、ワシの水晶で見てやろう・・・」

三代目は先日完成させたばかりだという、水晶玉を持って来た。千里の先をも見通せる、遠見の水晶らしい。
木の葉に存在する全ての術を使いこなす三代目。術の開発にかけては、他国の影はその足元にも及ばない。
三代目がプロフェッサーと呼ばれているのは、術の開発のみならず、忍具の開発にも長けているからだ。
水晶玉を覗きこんでいる、三代目の顔色が優れない。 事態は思ったより深刻らしい。