変わらないもの 6
@AB
CDF
「カカシ、忍術ではない。 呪詛と呼ばれる呪い・・・しかも、死呪詛という強力な奴じゃ。」
「・・・・・・。」
「大黒屋という商人・・・ 赤い長い髪の娘・・・ 知っておるか?」
「・・・はい。先日父親の依頼で、店の下働きの男を一人、事故に見せかけて暗殺しました。」
そうか・・・父親が口を滑らせたんだろう。 あの娘、恋人の死の真実を知ったんだな・・・
火の国の有力な大名家に、出入りできる商人の地位は高い。 大黒屋もその中の一つだ。
わざわざオレがやるような任務ではないが、依頼主の指名だから、仕方がなかった。
オレ達は余計な詮索はしない。 いつも任務に忠実に、木の葉の為に働くだけだ。
「だだの呪詛なら、呪詛返しを行えば問題はないんじゃが、死呪詛はちと厄介じゃ。」
「厄介? でも、呪縛を解く事は可能なんですね?!」
「うむ。 じゃが・・・ お主が心底好いた相手を、その手で殺さねばならん。 耐えられるか?」
「!!!!!!!」
イルカが死ぬ、考えただけでも胸が潰れる。 ましてやオレのこの手でなんて、耐えられる訳がない。
あの父親も、娘可愛さに馬鹿な事をしたもんだ。 まさかそこまでとは、考えていなかったはず。
軽く考えた男の命は、愛する娘の命を道ずれにした。 後悔の人生を送って行くことになるだろう。
忍びではない一般人に、苦しめられるとは思わなかった。 これはオレにとって、何よりのダメージだ。
「三代目・・・ オレは・・・ オレには耐えられません。 今さっき、殺しかけました。」
「・・・・イルカか?」
「!!! はは、そんなに分かりやすかったですかね、オレ。 長年、イイ兄貴やって来たのに。」
「だてに火影を名乗っとらん。 ワシの子供らのことは、手に取るようにわかるワイ。」
死呪詛は自分の命と引き換えに、その相手を呪う。 返す相手が死んでいるので呪詛返しは出来ない。
呪いは、オレが心から愛している者に触れると、発動するようになっている。そうとは分からずに。
一番愛している人間を、この手で殺すことによって、死呪詛は成立し、呪縛から解き放たれる。
三代目から、そう説明を受けた俺の決断は決まっている。イルカにはもう近寄らない。それだけだ。
「カカシ兄ちゃん!!」
「おお、本人の乱入じゃ、カカシ。」
「・・・すみません、先輩を追いかけて来たんです。 全部聞きました。」
「・・・・そう。」
スパーンと障子を開け、飛び込んできたのは、イルカとテンゾウのふたりだ。
全部聞いていたと、テンゾウは言った。 オレのこの狂おしいまでの、イルカへの思いも全部。
いくら天然のイルカでも、もうわかったはずだ。 オレが誰より愛しているのは自分だと。
離れてもオレは、いつでもお前を見ているよ。 この先どんな時も、イルカだけを愛していく。
「・・・イルカ、愛してる。 お前以外は何もいらない。 だからネ、さよならダ。」
「カカシ、兄ちゃん・・・。」
「テンゾウ・・・イルカの事、頼んだヨ?」
「カカシ先輩・・・。」
待って、待って、待ち続けて、これだ。 これが報いか。 オレが奪った沢山の命の償いか。
それなら受け入れなければならない。 自分が死ぬより辛い事が、オレの身に起きるなんて・・・
そのまま出て行こうとしたオレに、 イルカとテンゾウが叫んだ。
「カカシ兄!! 勝手に一人で決めるな!!」
「冗談じゃない。 頼まれるつもりはありませんよ、先輩!!」
「・・・・・。」
「俺だって木の葉の忍びだ!! 半日やそこら死んでいられる!! バカにするな!!」
「死呪詛の呪縛が解けたら、ボクがすぐにイルカを蘇生させます!! 三代目だっているんですよ?!」
「イルカ・・・・テンゾウ・・・・。」
「カカシよ、ワシは耐えられるかと聞いたんじゃよ? 耐え続けて生きろと言った覚えはないの。」
「三代目・・・。」
また自論を過信した。 過去に大きな間違いを犯したのに、また繰り返すところだった。
オレの間違いを、すぐに指摘してくれる仲間がいることを、一人ではない事を、また忘れていた。
そして何より、イルカの真っ直ぐな心を信じていなかった。そんなんじゃ、愛してるなんて言えないな。
オレ達忍びの逝き付く先は地獄と決まっている。お前達と一緒なら、きっと地獄も楽しい。
「イルカ、お前を信じるから、オレに殺されて。」
「まかせて。 俺、諦めが悪いから。おとなしく死んだりしない。」
「テンゾウ、今度は頼まれてくれる?」
「モチロンです。先輩に貸しを作れるなんて、めったにないですから。 」
「いざとなったら、ワシがおる。 イルカや、安心して殺されるがエエ。」