それなら簡単 2   @BC DEF GH




ボクは・・・ただの実験生物だった。
大蛇丸が不老不死研究の為、初代火影の細胞を人の赤ん坊にうめ込んでボクを作った。
透明な水の入ったガラスケースで、ボクと同じ顔の生き物がたくさん培養されていた。

三代目が実験をやめさせ、大蛇丸を里から追放したが、奴はその時、実験室を破壊して抜けた。
慌てていたのかも知れないし、電源を破壊して安心していたのかもしれない。
あの忌まわしい実験室の中、この隠し部屋だけが、ひっそりと、忘れ去られていた。

  暗くて、冷たくて、眠たくなってきた時、その声が聞こえた。

「こんなところに、ヒトがたくさん・・・」
「・・・・・。」

ボクと同じぐらいの年の子だ。 どこからか迷いこんできたんだろう。
ペタペタ、コンコンと、ガラスケースを触っては、反応を見ているようだ。
ボクの入れられたケースに手のひらを当てたので、同じようにしてみた。
分厚いガラスを間に挟んで、手と手が触れ合った。

「起きてるの、キミだけ?」
「たぶん。」

ボクの体には、たくさんのチューブが繋がっている。栄養を送るチューブや、心電を測るチューブ、
排泄物を出すチューブ、脳には直接、情報イメージを送るチューブがついている。
言葉や里のそれまでの情報は、全てインプットされていたので、話を理解し、会話することもできた。

「それ、痛そう・・・大丈夫?」
「慣れてる。 生まれた時からこのままだから。」
「!!! その中にずっーと?」
「うん。」

その時、また違う子供が入ってきた。 他にもたくさん子供がいたんだ。


「くのいちアヤネ、その首もらいうける! でやぁ!!」
「!! なにをこざかしい! そなたごときが この私に勝てると思うな! たぁーっ!!」
「くっ、ぬかったわ、かくなるうえは・・・・ 」
「ゲッ!! 何ここ?!」
「これ、じいちゃんに報告した方がよくない?」
「ぎゃー、生きてるの、それ!気持ち悪い〜!!」

!! もう、お前らとは遊ばないっ!! 帰れっ!!


騒がしかったその場が、一転、水を打ったように静かになった。
あの子の名前はアヤネというらしい。 忍者ごっこでもしていたのだろう。
彼女が怒ったので、忍者ごっこは終わりらしい。他の子供たちはブチブチ言いながら帰って行った。

「・・・ごめんね?  だって、あいつら・・・」
「あれは、普通の反応だと思うよ。アヤネちゃんが怖がらないだけ。」
「・・・・決めた! 明日もここに来る! 明後日も、その次も。ずっと!」
「・・・・・。」

次の日から、本当にアヤネちゃんは、毎日来てくれた。
絵本をみせて、読んでくれることもあったし、じゃんけんや、あっち向いてほいも教えてもらった。
嬉しい時は万歳をして喜ぶ。 腹が立ったらホッペを膨らませて怒る。
悲しくなったら涙を流して泣く。 楽しい時は声をあげて笑う。
アヤネちゃんの教えてくれることは、今迄ボクの情報にないものばかりだった。

でも、そんな幸せな日々は長くは続かなかった。

あの忍者ごっこ仲間の誰かが、火影様に言ったのだろう、里の忍び、数人がやって来た。
きっと、大蛇丸の残した、負の置き土産を処理しに来たんだ。つまり、ボク達を。
次々と、ボクと同じ顔の死体が処理されていく。 ボクは自分の末路を悟った。

「すまんな・・・大蛇丸の実験体が里の為になるとは思えん。
 お前がそこから出て、普通に成長できるという、保証もない・・・
 俺には、お前と同じ年頃の息子がいる。 苦しまなくていいように・・・すぐ楽にしてやる・・・」

きっとこの気持ちが『恋する』というものだ。アヤネちゃんに読んでもらった絵本に出てきた。
『恋するふたりは、いつまでも幸せに暮らしました。 めでたし、めでたし。』

幸せにいつまでも暮らせる・・・アヤネちゃんと『恋するふたり』になりたかったな。
最後にもう一度だけ、会いたかった・・・ 目を閉じようとした時、幻覚が見えた。
アヤネちゃんが両手を広げて、ボクのガラスケースの前に立ちはだかっている幻・・・・


「やめて!! なにするの!!! テンゾウが死んじゃう!!!」

本物?・・・本物のアヤネちゃんだ! なんで?・・・こんなとこに出てきちゃ駄目だ!!