それなら簡単 6
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あの中忍は、暗部の中で、結構知られていた。九尾孤児のうみのイルカというらしい。
九尾襲来で両親をなくした子供は、三代目がその屋敷の一角を与え、一時保護していた。
親戚や知り合いに引き渡したり、里子先を世話したりして、今は屋敷に、九尾孤児は残っていない。
あの子はそれを嫌い、家に帰るといってきかなかったそうだ。
三代目がねをあげるまで、 ーいたずらをして里親を困らせ、屋敷に戻されるー を繰り返した。
折れたのは三代目。彼は、実家に戻る事を許された。11歳の子供が独りで住むには広すぎる家にだ。
三代目から、食いぶちに困らぬ様にと、火影屋敷のお茶くみ係という仕事を与えられ、
自炊しながらアカデミーを卒業。この前やっと中忍試験にパスしたらしい。
彼自身、たくさんの人が自分を助けてくれている事をよく知っていた。
下忍、中忍と、自分で稼げる様になっても、お茶くみ係は自分の仕事だから、そう言って、
任務の合間を拭っては、火影屋敷に通っている。 三代目は彼の好きにさせているそうだ。
そんなに前から火影屋敷に通っていたのなら、なるほど、暗部の気配に敏感な訳だ。
あの中忍の態度は、暗部を恐れるどころか、むしろ親しみさえ感じさせた。
・・・・しかし、新人中忍の話を持ち出しただけで、こんなに盛り上がるとは思わなっかた。
我も我もと、知っていることを自慢するように、隊員が教えてくれる。
「部隊長が任務以外の事を口にするの、始めてですね!」
「そう・・・だった?」
「そうですよ、“散”と“解散”しか聞いたことありませんもん。」
「それ言いすぎ。“お前ら邪魔”と“報告書出しとけ”もあるわよ?」
オレを囲んで、どっと笑いが起こる。 オレの周りには、木の葉の仲間がいた。
これは・・・なんだ? オレはいったい何時から、周りが見えなくなっていた?
こいつらは全然自分を見ない隊長にも、あきれることなく、ちゃんとついて来ていた・・・
まいったよ、オビト、リン。オレにはまだ仲間がいる。そうですよね?ミナト先生・・・
「・・・あ〜、オレこうみえて、ものすご〜く人見知りなのヨ。」
「わはは。ちょ、何すかそれ!! いきなりチャラ男ですか!」
「残忍で冷酷で、ちょっと近寄りがたかった部隊長って、こんなキャラだったのぉ〜?!」
「うわぁ〜 部隊長まで?! イルカマジック炸裂!!」
そう、あのお茶くみ中忍、うみのイルカ・・・オレが忘れていた記憶を、鮮やかに呼び戻した。
オレのモノクロだった世界に色が付いた。 落ちた水滴の周りに広がる波紋の様に。
ココにいる連中の何人かは、きっと、今のオレと同じ体験をしたに違いない。
「あのお茶、みょーに、美味しいンすよねー。」
「そうそう。 枯れた心にしみわたる・・・って感じ。」
「オレの飲んだ、玉露? あれは激マズだったヨ。」
「玉露は回避するべし・・・ですね? 部隊長、情報提供ありがとうございました!」
敬礼よろしく足をそろえて、一人の隊員が言う。また、大きな笑いが起こった。
結界が張ってあるとはいえ、ココは敵陣の真ん中なのに、これだ。
戦って、死ぬかもしれないなんてこと、誰も考えていない・・・
少なくとも今、ここにいる奴らは、生き残る前提で戦う。なんて力強い鼓動だろう。
四代目から暗部に推薦された時の気持ち。三代目が部隊長に任命した時の言葉の意味。
やっと思い出し、そして気付く。 遅くなったけど、まだ間に合うはずだ。
木の葉の火の意志は、受け継がれて行く。 オレで途切れさせるわけにはいかない。
「そろそろ、敵さんのお出ましっすね。」
「生きて帰りましょう。あの子の入れた、美味しいお茶を飲みに。」
「心配するな。オレの仲間は何があっても、殺させやしなーいよ。」
「きゃー、部隊長、カッコいいーーーっ!!」
敵を迎え撃つために、地面を蹴って飛び出した。 オレは・・・ オレ達は生きるために戦う。
そうか、美味しいのか・・・ 今度はぜひあの中忍に、その美味しいお茶を入れてもらおう。
もう、玉露はかんべん。 オレ達、若者向きの味じゃない。