それなら簡単 5   @AB CEF GH




この足技どうするよアスマ。 おまえより輪をかけて酒豪だし。絶対尻に敷かれるヨ? 
なに? 男は尻に敷かれるぐらいが丁度いい? なんだソレ。 あ〜 ひどい目にあった。
減りそうでもったいないケド、テンゾウに、オレのイルカ先生の話をしてやろう。
そうしたら、男か女かなんて詰まんない事、気にしないで済むしネ。

オレはテンゾウより、かなり前から暗部で部隊長を張ってたが、
なにも初めから三代目の信頼を、勝ち得ていた訳ではなかった。

四代目火影がオレを暗部に推薦した時・・・その時は使命感で一杯だった。
初めは、オレに左目を託して死んだ、うちは一族の落ちこぼれ、中忍オビト。
次に、オレを思いながら死んでいった、医療忍者のたまご、中忍リン。
そして、九尾から里を救って死んだ、四代目火影、波風ミナト。 皆オレだけを残して逝った。

スリーマンセルの最後の一人、先生までも失い、オレは荒れた。
もともと、オレの親父の自害事件のこともあり、
周りのオレに対する風当たりは相当なものだったから、ガタが外れたように荒れまくった。

真っ先に敵に突っ込んで行き、囮、殿は、志願して必ずやった。
一匹狼のオレには敵味方関係ない。死に場所を探して、ただ毎日殺しまくった。
そんなオレを見るに見かねて三代目が部隊長に昇格させた。
《部下を持て。 お前も含めて、誰一人欠けさせることは許さん》その時の言葉だ。




休暇中のオレは特に何をする訳でもなく、火影屋敷の一室でダラダラと暇を潰していた。
うちに帰ったところで疲れるだけ。どうせすぐ任務で呼び出しだ。
パタパタと、おおよそ忍びらしくない足音を立ててそいつは走りまわっていた。
オレのいる部屋の前まで来ると、ピタリと足音が止んだ。
お、なかなか鋭い。オレの気を感じるとは大したもんだ。

「暗部の方ですね? 任務明けでお疲れなら、お茶でもご用意しましょうか?」
「・・・・・。」

暗殺戦術特殊部隊の隊員に・・・お茶?・・・何それ。
他の奴は、暗部を遠巻きにみる。いるとわかってても、声なんてかけない。
オレ達が他人の用意したものを口にするはずがない。 ・・・よっぽどの馬鹿か、見え透いたゴマすりか。
オレが何も答えないと、そいつは一人でしゃべり始めた。 カチャカチャと磁器の触れ合う音がする。


「オレの気をよんで下さい。   ・・・・ね?ただの中忍でしょ? 毒なんて入っていません。
 日によって違うんですが、今日は火影様のお部屋に、玉露がありました。美味しいらしいですよ?
 皆さんが頑張っているおかげで、火影様もオレも、毎日お茶を頂いてます。贅沢ですよね。
 ココに置いておきますから、気が向いたらお飲みになってください。・・・・では、失礼しました。
  ・・・・・と、忘れてました、・・・・任務お疲れ様でした、お帰りなさい。」


勝手にしゃべって、勝手に去って行った中忍の後には、お茶の入った湯呑が置かれていた。
もちろん、そんな得体の知れないもの飲む気はなかった・・・・が、
玉露という聞いたこともないお茶に興味が出たのかもしれない、一口飲んでみた。

・・・・まずっ!! どこら辺が美味しいの? カビ臭くて苦いだけじゃないか?!
“らしい”・・・ってことは、自分じゃ飲まずに、人に勧めたのか?あの中忍。
そう思っていたら、オレの優秀な耳が、少し離れた声を拾った。

『げほっ! まずっ!! やっべ〜、俺、さっきの人に思いっきり、美味しいとか言っちゃたよー』
「・・・・ぶっ!・・・・くくくく・・・・・・あははは・・・」

声を出して、久しぶりに笑った。四代目が亡くなってから笑った事なんて、一度もなかった。
ちゃんと、自分でも飲んでみたんだな、同じ反応して・・・・・やっぱり不味いよね?玉露。

心の中で、中忍に話しかけてる自分がいた。 オビトやリンに話すみたいに。
自分の言葉で誰かに話しかけたのも、同じくらい久しぶりだった。
こんな感情あったな・・・忘れてた。 誰かにお茶を入れてもらうのも、
お帰りと迎えてもらうのも、確か昔はあったはずだ・・・父さんがまだ、生きていた頃・・・。

任務帰りの暗部も恐れず、お茶を入れて回り、味見もしなかった中忍。
火影屋敷や火影室に、出入りを許されている、謎の無責任中忍・・・
次任務が入ったら、部下の誰かに聞いてみるか。