それなら簡単 7   @AB CDE GH




ほんの些細なことだが、里に帰る楽しみが出来て、嬉しかった。 ただ黙々と殺していた日々が変わる。
うみのイルカは里に居たり、居なかったりで、なかなかにそのお茶は、貴重な一品となった。
残念ながら、オレもあれからまだお茶を入れてもらってない。記憶の中で、味は不味いままだ。
中忍になり任務が増えたのだろう、お茶くみの回数が目に見えて減って来たころ、それは起こった。
部下が気配をやや乱し、報告に来た。 暗部とは思えないあせりかただ。

「部隊長、お茶くんが重傷を負って、木の葉病院に担ぎこまれたそうです!!」
「!!!」
「やだ、ほんと?! 大丈夫なの?!」

一緒にいた部下に動揺が走る。
オレは奴らを安心させる為、様子を見て来ると言い、瞬身移動をした。
何も部隊長自らが、そんな事で動かなくていいのに。
実はオレが一番、動揺していたのかもしれない。

そこにいたのは、全身を包帯でぐるぐる巻きにされたミイラ男だった。顔だけがみえている。
そして、三代目火影。 ・・・いや、違う。子供の寝顔を見守る、一人の老人の姿があった。
三代目はオレが居ると知って、わざと聞かせるように、長い独り言を呟き始めた。


「上忍の命令を無視し、傷を負って動けなかった仲間を、自力で連れ帰ってきおった。
 その為に隊の全員を危険にさらしたと、上忍からせめられたが、この馬鹿は逆に、
 怪我人を餌に使わないと退却できないほど、木の葉の上忍は弱いのかと、恫喝しおっての・・・
 この怪我は戦って出来たものじゃなく、その連中に袋叩きにされて、負わされたものじゃ。

 上忍の判断は、その時の最善の策だったのだろう、間違ってはいない。
 じゃが、こ奴のいう事も間違いではない。ワシは聞かん坊の、このお茶係を気に入っとる。
 上の連中とは、なるべく衝突は、避けてもらいたいんじゃがの・・・
 本人が、いっこうに反省しとらん。自分はあくまで正しい事をしたと言い張っておる。」


オレの父さんは任務違反をして仲間を助け、周りから攻められ自害して果てた。
ただ一度の命令違反で、木の葉の恥さらし、裏切り者と罵られた。
伝説の三忍をも凌ぐといわれていた英雄『木の葉の白い牙』サクモ。

うちはの中で、写輪眼を覚醒できない落ちこぼれ。いつも遅刻ばかりで、くだらない言い訳をして。
『命令を無視するやつはクズだ。けど、仲間を見捨てる奴はそれ以上のクズだ!』
そういって、オレの目を覚ましてくれたオビト。

オレはいつも、失ってから気付く。この中忍はまだ・・・生きている。
むちゃくちゃ弱いくせに。戦場ですぐに死んでしまいそうなのに。
その火の意志の強さは、出遅れたオレより、はるかに強かった。
頬に涙がつたう。 静かに・・・声を殺して、オレは泣いた。

「・・・・おぬしが泣けるようになって、ワシも安心したワイ。 こ奴のお茶は、美味しかろう?」
「・・・オレ・・・は、まだ・・・不味い玉露しか、入れて・・・もらってません・・・」
「なんじゃ、玉露の味がわからんのか? まだまだじゃの。」
「・・・あれは、年寄り向きです。若者にはあいません。」
「わはは。ぬかしおるわ。こわっぱが。」

うみのイルカはアカデミー教師になりたいらしい。 三代目はその夢を叶えてやるだろう。
もし、2〜3年のうちに教員試験に合格したら、異例の若さでアカデミー教師が誕生することになる。
あの火の意志を、次代の玉<ギョク>に伝える役目・・・うみの、イルカ先生か・・・ぴったりだ。

「火影屋敷のお茶くみ係は、そろそろ卒業させようと思おておる。」
「それは残念。部下もがっかりするでしょう。 オレまだ、美味しいの飲んでないのに・・・」
「暗部の任期を終えたら、たくさん入れてもらえ。」
「・・・そうですね。楽しみは、後に取って置くことにします。」

決めた。うみのイルカをオレの半身にする。あの魂を独り占め出来るなら、どんなことでもやる。
さっそく戻ったら、部下たちにも伝えよう。激しいブーイングが起きるだろうな・・・
ま、そこは部隊長特権ってことで、嫌でも了承させよう。
病室を出ようしたオレの背中に、三代目が声を投げかけた。

「先は長い・・・ 必ず生きて・・・任期を終えるんじゃぞ?」
「・・・大丈夫です。 オレは、四代目火影 波風ミナトの愛弟子ですから。」