それなら簡単 3   @AC DEF GH




「君も見たところ、忍びの子の様だから、小さくても、もうわかるだろう?」
 彼は奇跡的に生きながらえていたが、このケースの機能は、既に停止している。
 ・・・もって、あと数日。  ・・・お譲ちゃん、そこをどきなさい。」
「そんなこと・・・知ってるよ! テンゾウはココで独りぼっちだった。
 だから・・・最後まで一緒にいてあげるっ! 絶対、嫌っっ!!」

そう、ボクも知っていた。あれから他のボク達が一人ずつ死んで行くのを、ずっと見てた。
出来ればボクの番まで、アヤネちゃんと一緒にいたかったけど。 いつだって、その覚悟はあった。

「仕方がない、おい、誰かその子を外に出せ。」
「はい、隊長。 ・・・おい、こっちへ来い! さあ来るんだ!!」
「は、離せ!! テンゾウ! テンゾーッ!!」

「おまえ、いい友達がいてよかったな・・・」
「・・・ボクの名前も、つけてくれた。」
「そうか・・・  この刀は何でも瞬時に貫く。 痛みは感じないからな。」
「・・・・」

ありがとうアヤネちゃん。 幻でもなく、本物に会えた。

それは突然だった。 ボクのガラスケースが、アヤネちゃんの血で真っ赤に染まった。
腕に噛みついて男の手を払い、アヤネちゃんが、ボクの所に駆け寄って来る。
目の前の忍びは、とっさの事に反応し、なんとかそれを避けようとした。

彼は刀をおさめはしたが、すでに波動が放たれていて、彼女を切りつけたのだ。
隊長であるらしい忍びの一閃は、小さな子供の体なら致命傷だろう。
ボクが目にしたのは、真っ赤な視界の中、ガラスに打ちつけられたアヤネちゃんの後姿だけだった。

衝撃のあまり、ボクの脳が思考を止めた。その後はどうなったのか、覚えていない。
再び目覚めた所は、火影屋敷だった。ボクは三代目にひきとられ、生き延びた。
アヤネちゃんの事を三代目に確認したけど、あの場にそんな子はいなかったそうだ。
きっと、あの忍びたちが、死体を隠ぺいしたのだろう。 ボクのアヤネちゃんはもういない・・・
『肩より長い黒い髪。前髪を止めてた白いボンボリは、彼女が動くとフルフル揺れた。
 ボクの為に泣いて、透明な涙を流した真っ黒の瞳。 ぷくぷくとした桃色のほっぺた。
 どれも、一度だって、忘れたことがありません。 ボクは、これからもずっと、彼女と一緒なんです。』

初恋物語、テンゾウ生涯童貞宣言バージョン。 奴が話すのはコレのほかに、
『ボクは、早く彼女のもとへ行きたいんです。』という、テンゾウ自殺願望バージョンもある。
オレが嫌いなので自虐ネタは却下だ。 死なせてしまうなら、生涯童貞のほうがまだましだろう。
こっちは、髭とウワバミにせかされて、嫌々やってるんだ。オチはオレに選ぶ権利がある。

「『アヤネちゃん・・・』・・・ふろーむ、チェリーボーイ・テンゾウ。」
「・・・カカシ、あんたノリノリね。 もういいわ、だいたいわかった。」
「・・・お前、暗部のくせに、ドリーマーだなぁ。」
「でしょ? いってやってチョーダイ、このチェリーに。」

「いいじゃないの生涯童貞でも! ・・・テンゾウ、お姉さんの胸でお泣きなさい、さあ!」
「お、そりゃ駄目だぞ、その乳は里の中じゃ、おれ専用だ。」
「いーなー。オレもそんな台詞言ってみたい。『その穴は里の中じゃ、オレ専用だ』キャー!!」
「アスマ!! カカシ!! 何であんた達は、そう、デリカシーがないのよ! 」

それまでモジモジ、クネクネしていたテンゾウが、やっと絡んできた。
お前が相談があるって言ってオレ達を呼び出しておいて、絡むの遅いんだよ、まったく・・・
髭とウワバミに店中の酒飲みつくされて、このままおひらきかと思った。あー、よかった!

「あ、あの・・・それでがですね、・・・・生きていたんです。」

あの【恋人のふたり】のアヤネちゃんが?! ほんとに??
ちょっとまて、それじゃこれでやっと童貞卒業じゃないか?!

「え?! その子が生きてたの?!」
「ほぉ・・・そりゃまた・・・」
「なにぃ?! ホントかテンゾウ! やったじゃないか!!」

オレもイルカ先生に会うまで、テンゾウのように、ちょっと自虐的だったなぁ・・・
あいつの中のアヤネちゃんは、オレの中でも最高の女だ。間違いなく。
まぁ、その性格のまま、大人のくのいちに成長してたら・・・だけど。
本当にそんなイイ女がいたら、オレもはまってたかもしれないネ。
でも実際はイルカ先生がいるから、そんな気はミジンコの糞ほども起きないんだな〜コレが。

てっきり、死んでるものと思っていたから、テンゾウには要らない世話を焼いて来た。
生きてるとなったら話が違う。絶対テンゾウは、その女を手に入れなきゃならない!
そんなイイ女、他にいるわけないだろう! オレのイルカ先生の方がイイ男だけど。
お前の事は絶対覚えてるぞ! 逃がすな! イルカ先生は覚えてた。オレはロックオン済だ。

よかったなテンゾウ、お前まだまだ伸びるよ。 オレよりは、まだ全然弱いけど。
なんたって、待ってる人がいると思うと、人間半端なく強くなれる。