一目あったその日から 3   @AC DEF GHI




「じっちゃん! コレ食べてみて、コレ。 はいっ、召し上がれ?」
「おお、ナスの煮物じゃの? そう言えばもうそんな季節か。」
「えへへへ、今日、収穫のお手伝いしたら、お土産にイッパイもらったんだ。」
「そうか、里も少しづつだが、元に戻りつつあるの、嬉しい知らせじゃて。」

三代目が再任して落ち着いてきたが、里が九尾に襲われて一年、まだ完全に復興とはいかない。
木の葉隠れの里が、他に手を回せないとわかっているから、火の国の国境では小競り合いが起きている。
戦力としては役立ちそうもないが、戦闘部隊の負傷者の介護ぐらいは、出来るだろうにネ。
今里はひとりでも多く、忍びの手を借りたい。 例え、なりたての下忍であろうと。 なのに・・・。

火影様はその下忍の話を嬉しそうに聞きながら、差し入れの、ナスの煮物をつまんでいる。


「・・・ふう、イルカのコトは気にするな。 何を遠慮しとる、入れ。」
「・・・・・・はぁ、・・・・ただ今戻りました。 北の国境は平定です。」
「うむ、良く戻った、ご苦労。 して・・・皆、無事か?」
「負傷者17名を出しましたが、死亡者は出しませんでした。」

「これ・・・・ コレ、食べて下さいっ! お帰りなさいっ!!」
「・・・・・・・。」
「食わんのか? イルカの力作じゃ、なかなか美味いぞ?」
「・・・・・・・。」

なんだ、この脱力感。 さっきまで血と肉の臭いに囲まれていたのに。 美味しそうな匂いに変わった。
火影室に場違いな下忍がいる。 任務報告に来た暗部の、このオレの目を真っ直ぐ見つめてる。
その目が語りかけていた。 俺も里の為に働きたい、でもその力がない、あなたが羨ましい、と。
この下忍はわざとこうやって、忙しい火影様の所へ・・・・ 来てるの? ・・・何のために??

「んー、じゃぁ・・・・・・。  ほんとだ・・・・ オイシ・・・・。」
「そうじゃろ? イルカはどんどん上達しよる。 ワシの小さな楽しみじゃよ。」
「じっちゃん! 暗部の人に、褒めてもらったー!」


何の為にじゃないネ、火影様の為に、だ。 この下忍は自分の立場を、知っているんだ。
さっきの会話だって。 どこの誰が、何人子供を産んだとか。 どこの畑に、猿や猪、鹿が出たとか。
どこの川に、魚が戻って来たとか。 収穫を手伝うほど、実りのある畑・・・それはみんな、今の里の姿。

火影室に籠りきりで、確認できない復興中の里の姿を、この下忍は自分を通して、三代目に見せている。
里を愛する三代目、その心を支えることも立派な役目だ。 同じ忍びだからこそ、分かる事もある。

「・・・・こういう命を守ってたのかと思うと・・・ 救われます。」
「里の皆は、忍びが守ってやらねば、身を守るすべはない。 我らは力無い者の武器じゃよ。」
「俺は・・・ 武器にはなれないかもしれないけど、武器を砥ぐ事くらいは出来る、拭く事だって・・・」
「それで良いんじゃよ、イルカ。 刃は血を拭いて研がねば、いつか錆てしまい、切れんようになる。」

「・・・・・イルカ、これからも三代目に貢物してあげてね、喜ぶから。」
「!!    うんっ!!」


オレが言ったのは、イルカのコトだったのに、三代目とイルカは、里の民のコトだと思ったみたい。
イルカは成長した自分を、三代目に知らせる事で、里の今の政策が、間違いではないと証明している。
ひょっとしてイルカは、今までに、何人か暗部にあったことあるのかな? 驚かないし・・・。

「イルカ、暗部の隊員を見ても、驚かないヨネ? ・・・・なんで?」
「?? なんでって・・・・・ なんで驚くの?」
「えっと・・・・ 殺人集団とか・・・・ 血だらけでウロウロしてるし・・・ んーと・・・」
「そんなの、忍びなんだから、当たり前じゃないか。 ヘンなこと聞くね?」
「ほほほほ、全くじゃ、暗部は変な事を、気にする奴らが多いんじゃよ、イルカ。」

「・・・・・。 そう、忍びだから・・・・・ ウン、そうだネ、ハハハ、ヤー、その通ーり!」
「お主も、砥いでもらったようじゃな。 ますます磨きがかかるの? ほほほほ。」
「あの・・・・ 俺、もう一回り、里をパトロールして帰ります! お先に、失礼します!」
「ははは、自主パトロールか、立派な仕事だーネ、うん。 お疲れさま、明日もがんばって?」

自分に力がない事を恥じてない。 でも努力はするだろう。 今自分にできる事を、ちゃんと知ってる。
伸び悩むのは環境が悪いとか、認めてくれる人がいないとか、責任を他者になすりつける下忍は多い。
どうやったら周りを恨めずに済んだんだろう。 不幸だと泣く方が楽なはず。 あの子は、強い・・・。

力じゃない、しっかりと地に足をつけて踏ん張っている。 転んでもすぐ起き上がれるように。

「お主が守っておる者達の成長が、楽しみになったじゃろう? ・・・そろそろ、部下を持ってみんか?」
「・・・・・はい、三代目。 責任を持って・・・ お預かりします。」
「うむ。 良く言った。 ミナトも喜んでおるじゃろう。 カカシ、明日から戌部隊を率いよ。」
「暗殺戦術特殊部隊 上忍 はたけカカシ。 戌部隊 部隊長を謹んで拝命いたします。」