一目あったその日から 5
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ボクは生体実験の被験者だ。 三代目火影の弟子のひとり、大蛇丸の研究材料、それがボク。
非人道的なさまざまな実験。 その実験のひとつ、ボクの体には初代火影の細胞が埋め込まれている。
大蛇丸は、三代目に実験室を発見され、とがめられて里を抜けた。 今は忍びの傭兵組織にいるらしい。
「助命してもらったうえ、こうやって修行の場を提供して下さる事に、心から感謝します。」
「木遁を使いこなせ。 この森は必ずや、お主の助けになる。 頑張るんじゃぞ?」
「はい。 一日も早く、立派な木遁の使い手になり、木の葉の忍びとして里に貢献します。」
「うむ。 木遁術を操れる様になれば、誰もお主を排除できぬ。 強くなれテンゾウ、己が為に。」
三代目が実験をやめさせなければ、失敗作として、大蛇丸に処分されるはずだった、ボク。
里の上層部の反対をおしきり、ボクを助命した三代目が、断じて失敗作などではない、と言いきった。
ボクの体に埋め込まれているという、初代様の細胞。 それがもし本当なら、木遁忍術が扱えるはず。
木遁を自分のモノにできたら、ボクは誰にも遠慮することなく、木の葉の忍びだと、胸を張れる。
「俺、イルカ。 里近辺を自主パトロールしてる木の葉の下忍だ! ここに、ひとりで住んでるの?」
「うん。 ・・・ボクはテンゾウ、今は修行中。 木遁が使えるようになったら、上忍になれる。」
「上忍?! すごいっ!! ね、ね、また来てもいい? 俺も一緒に修行したいっ! お願いっ!」
「木の葉の忍びなのに“木遁”より“上忍”が気になるの? 君って・・・・ 面白いね。」
ここは里から少し離れた小さな森。 初代様の別荘だった建物の一部が、今も残っている。
ボクはそこを改造してログハウスにした。 ここにいると、チャクラがフワフワして不思議な感じ。
修業を始めて何ヶ月かたった時、ログハウスに下忍がやって来た。 自主パトロールしているらしい。
それから彼、イルカ君は、週末になると遊びに来るようになった。 まあ、本人は修行と言っているが。
「じっちゃんがね、テンゾウさんにも持って行ってあげなさいって。 はいこれ。」
「・・・・飴色の・・・・ バッタ?? こ・・・これ・・・ 食べ物なの??」
「じっちゃんが好きなんだ。 イナゴの佃煮。 カリカリして美味しいんだって。」
「・・・イルカ君も・・・ 食べるの?」
九尾襲来の時に両親を亡くして、イルカ君も独り暮らし。 この前下忍に上がったところだそうだ。
イルカ君もココで一緒に暮らせばいいのに、なんて考えるぐらい、楽しみになったボクの週末。
忍びとしての実力は下忍。 だけど物事を、真っ直ぐ見つめる目を持っている。 明るいし、眩しい。
「俺はもう無理! 温かいご飯に入れて混ぜてみたら、不気味だったから、トラウマになった。」
「あははは、ならボクもいらない。 好きな三代目に持って帰って、食べさせてあげてよ。」
「わかった! じゃあこいつは封印しよう。 あの時の衝撃がよみがえって来る、うぅ・・・」
「そんな嫌なのに、作ってあげるの? 三代目に?」
「だって、じっちゃんが嬉しそうなんだもん・・・・ それに今俺に出来る事は、コレぐらいだし。」
四代目とクシナさんが命懸けで封印した九尾。 木の葉の未来を、ボク達若葉にゆだねて逝った。
あの時ボクが木遁を使えてれば、九尾封印を手助けできたかもしれない。 力ない自分が情けなかった。
イルカ君は力ない自分を恥じてはいない。 その自分が出来る、最善の事をしょうと努力している。
激弱な下忍のイルカ君も、木遁をまだ使いこなせないボクも、里を思う気持ちは一緒。 努力するだけ。
「これならテンゾウさんも食べれるよ? 好きだって言ってたでしょ、クルミ。」
「わぁ、ありがとう!! ・・・・・おいしいっ! イルカ君、すごいよ! 弱いけどおいしい!!」
「弱いは余計だよっ! ・・・・えへへ、その蒸しパン俺も大好き。 メープルが決め手。」
「・・・・モグモグ。 これ、また作ってきてくれる?」
「もちろん! それに、じっちゃんがすごい楽しみにしてるし! テンゾウさんが頑張ってること。」
「三代目が・・・・。 ねえイルカ君、聞いてくれる? ボクは・・・・」
ボクは自分の事をイルカ君に話した。 イルカ君は“ちゃんと泣いた?”と言って、抱きしめてくれた。
三代目にそうしてもらって、自分はカツが入ったから、ボクにもそうしてくれるんだって。
こんなあったかい腕は知らない。 自分と変わらないのに。 ボクよりも激弱な忍びなのに、なんで?
イルカ君に真っ直ぐ見つめられると、自分もそうしなきゃ、って思う。 彼には嘘はつけないよ。