愛しの天敵 1
ABC
DEF
GHI
JKL
物事はタイミングによって良くもなり悪くもなる。 途中から印象が変わってしまう事もあるし。
好印象を持っていた相手に幻滅したり裏切られたりしたら、可愛さ余って憎さ百倍になったりね。
これ以上悪くなりようがないと思うぐらいの印象が、ほんの少しでも浮上したらどうだろう?
それはほんのちょこっとの浮上指数な割に、かなり効果的に好印象をもたらす事になるんだ。
どういう事かというと、ボク達の周りに出没していた天敵の存在を懐かしく思えるぐらいにね。
あのふてぶてしい存在がなくなって淋しい、なんて日が来ようとは。 一体誰が想像しただろうか。
「今日も可愛らしいですねぇ! うみの中忍。」
「もうベッタリですもんね? 念願かなってv」
「やー 頑張ってたもんなー うんうん!」
「「・・・・・・・。」」
「うみの中忍、よかったな?」
「・・・はい・・・ 俺・・・・ 嬉しいです・・・・」
「相変わらず健気だなぁ・・・」
「・・・・うふふv」
「「・・・・・・・・・。」」
「部隊長、補佐。 鬼畜強姦プレイはほどほどに、ですよ?」
「「 やかましいっ! さっさと任務に行けっ! 」」
「「「了解ですっ! ニヤニヤ・・・・・(もう! 照れちゃってっ!!) 」」」
「「・・・・・・・・・・・。」」
・・・・まったく。 先輩とボクの間に陣取っているハニカミ笑いの奴にチラリと視線を移す。
奴はボク達と目が合ったとたん口パクで、“帰ってからのお楽しみv”ときた。 ・・・・・・。
ボク達はそんなうみのイルカに “嬉しいのを抑えつつ喜んでいるフリ”をしなければならない。
ゴホン、ゴホン! とワザとらしく咳をしながら指で小さくOKサインを出すんだ。 よし、完璧。
喜びたいのをグッとこらえて喜んでいるボク達・・・・ にちゃんと見えたんだろう、奴はご満悦だ。
何で口パクなのか、何がお楽しみなのか、ややこしいフリをしなければならないのか、話せば長くなる。
時に。 無礼千万だと思っていた謎の忍びがいたとしよう。 で、それには理由があったとする。
相手の怒気や殺気を感知できないという、忍びとして致命的な欠点を抱えている可哀そうな忍びだ。
なら、無礼千万でも百歩譲って大目にみよう。 が、感知できないのではなく無視できるとしたら?
殺気や怒気をものともせず、相手の孤独感のみを優先して感知してしまうような忍びならば。
分かり易く言うならば。 メインディッシュの肉や魚は二の次で、皿の上の別物が気になるタイプ。
ちょこんとお飾り程度にのっかているパセリやクレソンは、なんだか淋しそうだな・・・・ とかね。
その着眼点に目をつけられて、任務として捕虜の尋問を任される事が多かったらしい、そんな忍び。
そうこれら全て、任務受付所歓迎会をデカイ百合の着ぐるみダンスで飾った中忍、うみのイルカの事。
ノミの糞ほども疑わず、ボクとカカシ先輩の恋人だという事を信じきっているボク達の旧天敵。
「フゥー。 なんちゃってプチ弟子としてビシバシ鍛えたコトを懐かしむ日が来るとはネ・・・・」
「百合の着ぐるみダンスや茶わん蒸し・・・・ 雀の塩つくねも何やら遠い日の思い出に・・・・」
「そんな思い出があったんですね・・・・ 忘れてしまってごめんなさい。 でも俺は幸せです!」
「「・・・・・・・・・・・・。」」
そう。 ボク達暗部の天敵だったうみのイルカは、ある術の後遺症から一時的に記憶喪失に陥っている。
記憶喪失とはいっても、自分を取り巻く人間関係を忘れてしまっているだけで、日常生活に支障はない。
自分は木の葉の里の忍びでうみのイルカ、任務受付所に配属されている中忍だというのは覚えている。
人の顔やその人との繋がりを忘れてしまったんだよ。 ・・・・飛んでるのはここ半年ほどの記憶だけ。
そんなちょっとした不幸に遭遇したうみのイルカに追い打ちをかけたのは暗部の面々、ボク達の部下。
あろうことか、うみのイルカに “あなたは部隊長と補佐に愛されてる情人なんですよ” と吹き込んだ。
で、大切な事を忘れてしまった俺を許してくださいっ! とボク達に泣きながら訴えて来て・・・・・。
そして今に至る。 三代目は、記憶の混乱は一ヶ月もあれば元に戻るじゃろう、と言った。
早い話がボク達に面倒事を押し付けた訳だ。 新人受付忍が面白がった先輩諸氏に利用されない様に。
百合モノが好みだというマニアの多い受付忍のムッツリ諸君なら、確かに何を吹き込むか想像できない。
実際、部下もボク達も嘘八百を並べたてたんだ。 その結果、甘え上手な恋人が誕生する事になった。
遅くても一ヶ月と三代目は言った。 カカシ先輩、あと数日のうちに元に戻るんですよ・・・・ ね?