愛しの天敵 9
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そう、あと数日で元に戻るんだ、ボク達はその事を忘れちゃいけない。 ・・・ですよね?
・・・・・ふう。 以前のうみのイルカと今のうみのイルカを混同しない様にしなければ。
こうまでして、必死であのふてぶてしい態度を思い出そうとしている不可解なボク達の感情は一体??
部下達は、ボクとカカシ先輩が情人として待機所でうみのイルカをはべらせていると思っている。
そんなボク達の様子は“しっかりと面倒見ておるな”と三代目に見えているらしく、いつも上機嫌。
この二つはまあいい。 それより何より一番困っている事は、今の状況がまんざらではないボク達。
ボク達の間でハニカミ笑いの元天敵をなかなか可愛いじゃないか、などと思っている事なんだ。
今夜のお楽しみv か。 ボク達がノリノリで弄繰り回したせいか、食べ物シリーズに凝っている。
新人受付忍の歓迎会の時も思ったけど、イーブンでなきゃいけないというポリシーがあるみたいで。
更に、自分は愛する恋人を忘れてしまったと思っているからね、一生懸命に尽くしてくれるんだよ。
ナスやクルミのカバーが好評だったからと、小さい乳首を隠す為の乳首隠しアイテムにハマってる。
新妻よろしく、食べ物シリーズの乳首カバーをつけて待ってるんだよね・・・・ ボク達の帰宅を。
こんなに尽くしてくれる甘え上手な恋人が本物なら・・・・って、つい想像しても仕方がないだろう?
「いってらっしゃいv ふふ!」
「「・・・・。 いってくるね。」」
今日も今日とて、暗部待機所からボク達を見送るうみのイルカ。 ちくしょう可愛いいぞ、この野郎!
「ちょこっとぐらいサ・・・・・ 覚えてるんじゃないの?」
「仮にもプチ弟子でしたからね、そう願いたいですが。」
「いかんせん、順序が違うからねぇ。 ヤツの脳内細胞が処理する優先順位は。」
「・・・・ですよね。 命を危うくする殺気すら無視出来るほど、ですもんね?」
イタチの記憶操作の術が馴染んだら。 元に戻った時、どの程度ボク達の事を覚えているのか。
これが部下達なら何の問題もない。 いや、部下達の乳首を弄りたいとかそういう意味じゃなくて。
暗部並みの脳内処理能力があれば、という意味だ。 奴は “中忍” という実に中途半端な階級。
中の下なのか中の上なのかで像と蟻ほども差がある階級だ。 奴は無駄に優秀なので中の上だろう。
中の上なら微かに覚えている可能性もあるんだ。 その度合いがどの程度かは読めないんだけどね。
ある感情だけを覚えてるかもしれないし、断片的な記憶として残像が残るだけかもしれない。
さすがにコスプレ好きの乳首弄られ好きな男、なんてのは覚えてないと思うんだけど。 う〜ん。
「甘え上手でノリのいい性格は・・・・ 男でも可愛いもんですね。」
「貸し借りナシの謎の忍道・・・・ サービス精神旺盛なトコもネ。」
「「・・・・・・・・敏感だし。」」
「・・・・・ハッ?! 違うでショ!」
「・・・・・はっ?! 違うだろう!」
「「・・・・・・・・・・はぁ・・・・・。」」
そうなんだ、読めないんだよ、奴の場合は。 普通なら、というか普通の忍びの脳細胞なら覚えてる。
多少なりとも覚えているはずなんだ、記憶処理中の欠片を。 けど、何とも言えないんだよね。
あの厄介な性質が備わっている奴の脳内で最優先される情報は、他人の孤独感に関する情報だから。
優秀なボク達にはこれもまた容易に想定できる。 奴の脳が最後まで残しておこうとする情報・・・・
それは、一族粛清の際に発してたイタチの孤独感だ。 忘れてはいけない情報として分類される。
元のうみのイルカに戻るという事は、イタチがかけた記憶操作の瞳術が脳内に浸透するという事だ。
処刑現場で見た事やその時のイタチの孤独感も忘れる。 でも最後の最後まで抵抗するだろうね。
「・・・・抵抗するだろうネ、情報の浸透にサ。」
「でしょうね。 鬼ごっこでも頑張りましたし。」
「うみのイルカは中の上、オレ達のなんちゃって部下だもん。」
「何か残るとしたら・・・・・ それはやっぱり孤独感でしょうね。」
だから、奴の脳内情報処理の間のこの一か月間の記憶や感情の断片がわずかでも残るとしたら。
そう、イタチの孤独感に関しての何か、なんだよ。 奴の最優先事項はイタチの発した孤独感。
あの現場で見た惨殺死体や目撃者として口を封じられてたかもしれない、という恐怖感ではなくね。
この期間の何かが少しぐらい潜在意識として奴の中に残ってくれたらと願うのは、可笑しな事かな?
暗部の長である事も忍びである事も忘れられる時間、そんなのを求めたら・・・・・ 駄目だと思う?
そう思うぐらい、あんなに無神経だった暗部の元天敵の存在が、ボク達の中で変化し始めている。
「まさかこんな感情が自分に沸き起こるとは・・・・ ねぇ?」
「こればっかりは、さすがのボク達でも想定外ですよ。」
「「・・・・・・・・ふぅ。」」
「・・・・・とりあえず。 帰るとしますか、期間限定の恋人ちゃんの待つ家に。」
「はい、あと少しで現実に引き戻されるでしょうけど、それまでは楽しみましょう。」
これが、元々が最悪だったが為の急激なギャップ感からくる変化だとしても、だ。
影分身を食べ物の乳首隠しに変化させて装着しつつ誘ってくるうみのイルカは、妙に可愛いんだよ。
・・・・・悪かったな、変態でっ! 十二分に柔軟されてると自覚してるんだよ、これでも!