呼びかけの間 4   @AB DEF GHI JK




営業時間前のミーティングで従業員と初顔合わせ、看板出しなんかのお手伝いをして部屋に戻った。
すぐに女将さんから声がかかって、友達が訪ねて来たと言われ、ドアを開けたら俺の情人がふたり。
訪ねて来てくれたのは嬉しいけど、なんだろ? 取り合えずワセリンを塗ろうと思ったら塗られた。
うぅ〜 乳首がベタベタだよ・・・・。 まあ、チクチクはもうしないけど、その、ヘンな気分だ。

「ところで、どうしてここにお二人が?」
「・・・・・・え? ああ、ア〜 そうだ、コレ、水饅頭。」
「イルカが潜ってるって聞いて・・・・ 差し入れです。」
「わ! 嬉しい! しかも、白餡じないですか! わーい!」

俺が潜入任務に就いたって知って、差し入れをわざわざ届けにきてくれたんですか?! 俺って幸せv
おふたりは? ・・・・・・説得任務ですか。 ただ殺すだけが暗部の仕事じゃないですもんね。
さぞ名のある忍びで・・・・・ え、成功? わぁ、凄いなぁ。 無駄な血は流さない、さすがです!
え、俺? 俺は魂を送りに来ました。 この部屋、呼びかけの間に留まっている魂を成仏させます。

「えへへ、なんかね、この前の任務のせいか、この依頼を三代目が任せてくれたんです。」
「「・・・・へー。 良かったね?」」
「“俺なら丁度いい”って言ってくれて。 もうこの分野を任せられるかも、なんて!」
「「・・・・・ふーん、そうなんだ? ・・・・・エロ爺め・・・・・」」


助けを求める声が、確かにこの部屋から聞こえたんです。 そのせいで呼びかけの間、らしいです。
聞こえる人と聞こえない人がいるらしいんですけど、俺、ついてすぐにちゃんと聞こえました。
っていうか、寝てる間に聞こえる声なので、夢を見ているだけなのかもしれませんが。 でも・・・・
俺はあの声の主を早く見つけてあげて、ちゃんとあの世に送ってあげたい、って思ってます。

「もう何日か寝泊りしてみて、同じ夢を見るなら、これは気のせいじゃありません。」
「そうだネ・・・・ イルカが淋しくない様に、オレ達も一緒に泊ってあげようか?」
「え・・・・ そんな、おふたりには暗部の任務が・・・・」
「部下達に任せておけば平気。 最近はボク達の出番は無いんだよね、平和って事。」

うっ! むちゃくちゃ嬉しい・・・・・。 でも、でも・・・・ こんなに甘えちゃ駄目だよな俺。
三代目が単独任務を任せてくれたのに。 いくら情人の暗部 司令塔のふたりが、こう言ってくれても。
これは俺の任務なんだ。 甘えちゃ駄目だっ! 心を鬼にして断った・・・・・ え? モザイク香?!
はい、モザイク香はこの店全体に行き渡るように焚いてあります、女将さんが協力的な方で・・・・。

「そっか。 ウン、じゃあイルカは、頑張らなくちゃ、だネ?」
「はい! でも、ほんとに嬉しかったです、俺・・・・」
「モザイク香が焚いてあっても目立っちゃうもんね、ボク達。」
「そんな。 モザイク香は大技を使わない限り、忍びだと・・・・」

せっかくの任務協力の申し出を断ったのに、嫌な顔ひとつしない。 じっちゃん、俺の情人は理解あるよ。
だって俺はもう知ってるもん。 三代目はおふたりを本当に信頼してる。 何かあるとすぐふたりを呼ぶ。
そんな立派な暗部の部隊長と補佐を。 情人の俺が潜入任務の為に、独り占めして良いはずはない。
しかも大好きな白餡の水饅頭を食べさせてくれるって・・・・ うぅ、嬉しくって、胸が一杯だ。


「ハーイ、イルカ。 コレ食べさせてあげるネ。」
「これぐらいは大丈夫だよね? イルカに協力。」
「ありがとうございます、それなら喜んで!」

前の任務では、三代目に言われて心配で来てくれたふたり。 でも今日は差し入れに来てくれた。
逆の立場なら、って考えたら。 暗部のいる現場に差し入れ? とてもじゃないけど真似できない。
万が一階級が逆でも、俺はこんな気の利いた事なんて、できないだろう。 気の利かない情人だよ。
えへへ、俺ね、本当に嬉しいんです。 今でも夢のようですよ、おふたりに望んでもらえてる事が。

「花月屋の水饅頭だヨー、イルカ、お口開けて?」
「あーん・・・・・ カプッ。 あ・・・・ 指が・・・・」
「・・・・・・イ、イルカ・・・・・ 舐めてくれてるの?」
「ん、ん、ん・・・・・・ おいひぃ・・・ ん、ん・・・・。」

一口サイズの水饅頭を、指でつままれて差し出される。 口の中に入って来た指を思わず噛んじゃった。
ごめんなさい、痛かったですか? 一生懸命舐めた・・・・ 指についてる葛もおいしい・・・ 幸せv
・・・・・? なんかふたりの視線が痛い。 でも花月屋か・・・・ あそこの和菓子、有名なんだよね。
う〜ん、確かに! めちゃくちゃ美味しいです! 中の白餡も、周りの葛も、どっちも凄く美味しいよ!