草狩り忍 2   @BC DEF GHI J




ボクは自慢じゃありませんが、希少価値のある血をもっている忍びなんで、かなり特殊なんです。
それにね、動物が好きなんですよ。 でも口寄せ動物はその血を怖がっちゃって、逃げ惑うのなんの。
所属部隊は違うんですが、他の部隊の大先輩で忍犬を口寄せする人がいるんです、もう羨ましくてね。

ある日、その人が犬まみれになってて。 羨ましそうに見てるのがばれたんでしょうね、呼ばれました。
それで忍犬を思う存分触らせてくれたんです。 そりゃー 嬉しかったですよ、めちゃくちゃ!
試しに、ボク古い木造建築巡りも好きなんです、って言っても引かないで、若いのに渋いネー って。
以来すっかり意気投合して、飲みに連れて行ってもらったり。 だから今も“先輩”って呼ぶんですよ。

人に言えないような仕事をして来た後、先輩と一緒に犬まみれになれば、ちょっとだけ癒されるんです。
アニマルセラピーっていうのがあるぐらい、動物との触れ合いは心を落ち着かせるモノですよね。
ボクの血を怖がらない忍犬ですから、多少の獣臭さとヨダレはご愛嬌、可愛いからヨシとします。

でも女だとそうはいかないんです。 特に、ボクをゲットしようとすり寄ってくる女の媚びた目が駄目。
確かにボクは人より特殊です、かなり。  普段からなにかとツルんでる先輩にも、一番近い存在です。
今では先輩と肩を並べる立場ですし、見目は先輩にちょこっと負けるけど、良い男の部類でしょう?
だからね、よしんばどっちとも寝たい輩がゴロゴロいるんですよ。 どっちも試したい、って感じで。

どうしてこう・・・ 女っていうのは打算的なんでしょうかね? ボクはお前のキープ君か、っての!
先輩と相性が悪かった時の保険か!? そもそも、偉くなってから態度を変える奴って基本的に無理!
だから里のクノイチとヤルのは勘弁です、どいつも打算的に見えますからね。 花街に限りますよ。


「・・・って聞いてる? イルカちゃん。 結構切実な悩みなのに・・・・」
「くすくす、希少価値のある忍びがクノイチは勘弁なんて、贅沢な悩みだなぁ。 ぐらいには。」
「・・・そんな羨ましそうにしてないで。 たまにはイルカちゃんも付き合いなよ。」
「バレましたか! そうですね、聞いてみます。 ・・・マスター、ご馳走になってもいいですか?」

だからもっぱら遊ぶのはここ、火の国の花街。 先輩に連れて来てもらってから、猿のごとく遊んでいる。
最近のお気に入り“ソープアロマ”からの帰り道、カカシ先輩がコソコソと誰かを尾行してるのを見た。
ワクワクしながら尾行してて面白そうだったから、バレない様に遠く離れて様子を窺ってみたんだ。

同じぐらい稼いでるけどカカシ先輩ほど話術が上手でもないから、ボクは遊郭には行かない。
だって玄人さんでも遊郭の遊女は、結構人を見る。 打算的な目はクノイチ達で十分だよ、本当に。
喋らないですむし、寝っころがってるだけでいいソープが一番楽でいいんだ。 洗ってくれるしね!
焚いてくれる香も気に入ってる。 ソープアロマの森林の香りはリラックス出来るんだよ、なかなか。

で、カカシ先輩はひたすらその場から動こうとしなかった。 なんだろう、尾行じゃなくて張り込み?
先輩は忍びの中でも一流だからすごく離れないと駄目で、さすがのボクも遠くからの観察に飽きちゃった。
なんとなーくここかな? って場所を記憶しておいて昼間に来てみたら、このスナックだったんだ。


「あ、テンゾウさん、先に言っておきますが、イルカの酒癖は褒められたモンじゃないんです。」
「?? だからいつも飲ませなかったんですか? それもなんだか・・・・ 好きそうなのに?」
「あはは! そうなんですよ。 イルカは結構酒が好きなんです、だから困るんですよ。」
「その気持ち分かりますよ、好きなのに制限される気持ち。 今日は解禁だよ、イルカちゃん。」

その日の夜に来てみたら、ザルのマスターとイルカちゃんの二人がいるカウンタースナックだった。
忍びが来店すると【本日は閉店】っていう札をかけ、看板のネオンも消す。 なんとも気の利いた店。
だからここ、スナック《木の実》はいつも貸し切り状態。 こんなんで儲かるの? って聞いてみた。

そうしたら、木の葉の忍びは火の国の要です、それに一人でたんまり落としてくれるでしょう? だって!
ボク、その本音交じりの気の使い方が凄く気に入っちゃって。 それからは遊ぶ前に寄る事にしてる。
もう面倒くさい、今日は《木の実》だけでいいや、たまには自分で洗うか・・・ って日もあるぐらい。
とにかくね、自然体でいられるっていうか、なんというか。 とってもアットホームなお店なんだよ。


「じゃぁ、今日は好きなだけ空けちゃって下さい。 ボクも寛いじゃおうっと!」
「さっすが木の葉の上忍!! よ! 男前!! よし、イルカ、ガンガン行くぞ!」
「あははは、ではお言葉に甘えて。 テンゾウさん、頂きます。」
「うーん、マスターの飲みっぷりって・・・・ 本当に遠慮ないよね、くすくす・・・」

最初はカカシ先輩が張り込んでた店だから、ひょっとしたら草がいるのかも、って思ったけど。
このアットホーム感は違うよね、どうみても酒を愛する男、そのもの。 それにイルカちゃんもね。
先輩の忍犬に触りたかったボクもこうだったのかな、って感じでボトルを切なく見てるんだもん。

でもボクは忍びだし。 多少絡んできても全然平気。 いざとなったら拘束しちゃうしね!
だってこの店は今貸し切りで、他のお客に気を使う事もない訳でしょう? なら、何の問題もない。
ふふふ、イルカちゃん、目尻を下げて美味しそうに飲むなぁ。 マスターは浴びるように飲んでる。

忍犬まみれになるか、ここに来れば落ち着くなんて。 カカシ先輩、ここは忍びが寛げる店なんです。
先輩はあれからどうしたんだろう? 入った事はあるのかな? ここなら先輩も気に入りそうだと思う。

ここまで素でいられる店って、そうそうあるもんじゃないよ。 視線に敏感なボク達を優遇してくれるし。
貸し切りってポイント高いから、誘ってみようかな。 覚えてます? 張り込みしてた店ですよ? って。