草狩り忍 8   @AB CDE FHI J




ボクの尊敬する先輩は、明らかに自分に言い聞かせていた。 あの冷静沈着なカカシ先輩が。
先輩はイルカちゃんの事が本当に好きなんだ。 でも自分で作った花街遊びの五カ条が首を絞めてる。
やたらとキメ台詞にこだわる先輩が、しどろもどろになってアワアワしてる様は、哀愁を誘った。

微妙に歌詞は違ったけど、背筋を伸ばして“あなた”を口ずさんだ時にはどうしようかと思ったよ。
ボクの部隊の前部隊長だったコウさんが、嫌というほど熱唱してくれたので、今でも覚えている曲だ。
どっから声出してるんです? って聞きたくなる様なウラ声を出し、飲み会では必ず熱唱してたっけ。
カカシ先輩はそこまでして自分を律してる。 無意識で“あなた”を口ずさむほど惚れてるのに・・・・。


ボクはカカシ先輩にたくさんの事を学んだ。 犬の気持ちいいトコロとか、玉葱はやっちゃ駄目とか。
そんな大恩ある先輩に“イルカちゃんはボクの事が好きなんですよ、すみません あははは!”なんて。
もしそう言える非情さと冷酷さがあれば、腹黒ダークホース 志村ダンゾウを超える腹黒王に君臨出来る。

これからは先輩と二人で木の実に行こう。 今迄と同じでホッコリと癒されに。 可哀想だけど・・・・
イルカちゃんにはご馳走してあげられない、だってボクへの思いを口にしちゃったら、先輩はヘコむ。
いや、可愛さ余って憎さ百倍、イルカちゃんの心を奪ったボクへの復讐を誓い、復讐の鬼になるかも、だ。

『イルカ許すまじ! お前もだ!! 忍犬出して触らせてあげたのに、恩を仇で返しやがってっ!』
『カカシ先輩、落ち着いて下さい、イルカちゃんに罪はありません、ただボクを好きなだけです!』

『やかましいっ! 暗部の掟は目には目を! イルカ、死んでもらうぞっ!』
『カ、カカシさん・・・・ きゃー! うぅ、テンゾウさん、好きでした・・・・ ガクッ!』
『イルカちゃんっ!! 死ぬなぁーーーーっ!! ボクを残して逝っちゃ駄目だぁーーっっ!!』


失恋が元で暗部を抜け、前線で殺しまくる忍びになってダンゾウとツルむ様になるカカシ先輩・・・・
イルカちゃんを死に追いやったボクと、ボクの住んでる里を滅ぼす事が唯一の生きるすべになる。
先輩なら間違いなく腹黒ダンゾウを足元に従え、世界征服を目論む超腹黒大魔王に君臨できるよ・・・・ 


ぎゃーーーっ!! そんな悪のカカシ先輩は絶対駄目だっ! イルカちゃんが死ぬのはもっと駄目っ!
わかりましたカカシ先輩。 名前は似てるけどボクは悪のダンゾウじゃありません、善のテンゾウです。
先輩がそこまで自分を追いつめて律しているのなら。 この秘密は永遠にボクの心にしまっておきます。

痛みを分かち合ってこその暗殺戦術特殊部隊、そうでしょう? バレバレですが、そっとしておきます。
先輩がもう過去の事だと吹っ切れた頃には、イルカちゃんを木の葉に迎え入れます。 安心して下さい。
いつか里が平和になって、尾獣チャクラを持つナルトを木遁教育したらボクは・・・・・ 隠居しますよ。

隠居なんてそんな先の話・・・・ はは、なんだかんだ言って、ボクもイルカちゃんの事が好きなんだ。
今迄何度もキープ君扱いをされてきましたが、自分からキープ君宣言します。 ボクが引き受けますよ。
先輩が大失恋の痛みを乗り越えたら・・・・ ボクが責任をもってイルカちゃんを幸せにしますから。



でも分かってる、先輩が言った通りボク達は忍び。 敵に弱みを探られる訳にはいかないんだよ。
攫われて殺されてしまうぐらいなら。 最初から大切な誰かを側に置くなんて事はしちゃいけないんだ。

ごめんねイルカちゃん、今すぐは気持ちに応えてあげられないけど、いつか必ず応えてあげるから。
ボクが隠居したらずっと一緒にいて守ってあげられるから。 古い木造建築巡りを一緒にしようね?
それからたくさん動物を飼おう? あ。 でもボクの血は動物には怖がられるし・・・・ うん。
やっぱり先輩に頼もうかな。 忍犬を出して下さいって。 一緒に犬まみれになろうね、楽しいよ?

その頃には、カカシ先輩の横にとびっきりの美女がいて、イルカちゃんの事なんて忘れてるかもしれない。
木の葉の白い牙の孫をウジャウジャ量産してて、里のエリート増加育成の功績で表彰されちゃったりして。
ボクは生体実験の産物だから、この血は里の為に残せない。 だから人口増加は気にしなくていいんだ。


里側もすんなり受け入れてくれると思うよ。 自分で言うのもなんだけど、上層部に顔が利くし。
“盆栽を出してくれんかのぉ”って、三代目やご意見番からよくおねだりされて出してあげてるから。
育てて整えたら品評会を開く、値がハネ上がったら金持ちの大名に売りつけるらしい。 商売上手だ。
こんなに里に貢献しているんだもん、ボクの隠居後の我儘ぐらい、余裕で聞いてくれるよ絶対。

「テンゾウ忘れるな、オレ達は忍びだ。 誰かのイイ思い出に残るだけで・・・・ 贅沢なんだヨ。」
「カカシ先輩・・・・ ボクもそう思います、ボク達のいいところだけを覚えていてもらいましょう。」
「痛みは必ず和らぐ日が来る。 今迄もそうだったろう? 過去になるんだヨ、今も明日にはサ。」
「・・・・・・カカシ先輩・・・・・ めちゃめちゃカッコいい台詞ですね、感動しました、ボク。」

「・・・・・でショ? オレも自分で言ってて感動してるヨ。」
「ぷっ! なんですか、それ! くすくす!」
「「あはははは!!」」







「部隊長達がどこの店に行こうが知ったこっちゃないけど、いい加減加勢してくんないかなぁ。」
「結構キツイよね、あっち医療忍者いるみたいでガンガン回復させてくるんだもん。」
「・・・・てか、戌猫部隊合同の殲滅任務だって、完璧忘れてるよね、二人とも。」

「でもまぁ・・・・ あの会話に割って入るより、敵忍と対峙してた方が・・・・ マシじゃね?」
「「「・・・・・・・・うん、マシ。」」」