草狩り忍 4   @AB DEF GHI J




マスターが禁止してるぐらいだし、そうとう客に絡んじゃうのかな、って、結構身構えてたんだけど。
ブランデーの香りを楽しむ、指でアイスボールを撫でる、口の中を転がす、目を閉じてコクリと飲む。
これだけの仕草だもん、そうとうお酒が好きなんだ、って分かるよ。 ふふ、解禁にしてよかった!


カパカパ飲むマスターと違って、ゆっくり味わって飲むイルカちゃんの酒癖は、泣き上戸みたい。
スナックの従業員なのに、媚びた所なんて全然なくて、とっても自然体のイルカちゃんが涙ぐんでる。
いつだったか、自分も温泉が好きで、よくジジクサイって言われるんです、なんて困り顔で言ったっけ。

とうとうグラスを見つめるその目から、涙がポロリと。 なんだか頼りなくて撫でてあげたくなったよ。

「いかんせん強くない癖にアルコールが好きなもんで。 困っちゃいますよ。」
「よし! 今日の売り上げは全部ボクから巻き上げていいから、好きなだけ飲ませてあげて下さい。」
「キターーー! 木の葉の忍び貸し切り大作戦、大成功っっ!! さすが、テンゾウさん!!」
「あはは! ほんと、マスターって・・・・ くすくす! さ、イルカちゃんも飲んでね?」


打算的なクノイチなんかに、テンゾウさんの良さが分かる訳ないですっ!   ・・・・そうでしょう?
木造建築が好きでも、犬まみれが好きでも、癒されるならいいんですっ!   ・・・・うん、そうだね。
テンゾウさんの優しさは、そんな見せかけのモノじゃありませんもんっ!   ・・・・そ、そうかな?
俺だけは知っています、テンゾウさんの本質。 俺、愛してるんですっ!   ・・・・え、まじで?!


「・・・・・・マ、マスター。 あの・・・・ イルカちゃんって・・・・・」
「ははは。 すみませんね、困ったもんですよ。 引かないでやって下さい。」
「・・・・・。  大丈夫ですよ。 あらかじめ酒癖が、って聞いてたし。」
「さすが木の葉の上忍ですね! サラリと流せる心の広さ! いやー ほんと惚れ惚れします。」

マスターが惚れ惚れしてくれるのは、よく知ってるけど。 まさかここまで慕ってくれていたなんて。
イルカちゃんの困った酒癖は、内心をさらけ出しちゃうんだね。 だからマスターが禁止してたんだ。
接客商売の人間が、思った事を何でもズバズバ言っちゃったら、それこそトラブルの元だもん。

イルカちゃんって、ボクの事こんなに好きだったんだね・・・・ ふふ、照れちゃうね、ありがとう。

でもボクは基本的にめんどくさがりなんだよね。 男だと時間がかかって仕方がないし・・・・。
さりとて木遁チャクラを使ってまで、その為だけに穴をほぐしたいとも思わないしね。 でもなぁ。
こんなに一途に思ってくれてるイルカちゃんに、時間がもったいないから、なんて本音は言えないよね。


気付いてなくてもそんなの関係ないと、一生懸命マスターにボクへの思いを告白してるイルカちゃん。
マスターと目が合うと、苦笑いしてた。 ・・・・そうか。 ずっと心に秘めてたイルカちゃんの思い。
出来れば聞かなかった事にしてやって欲しい、っていう事なんだ。 そりゃそうか、無意識暴露だもん。
酒に呑まれて口が軽くなるなんて、秘密厳守がウリの花街では、タブーな事なのかもしれないな。

「マスター、安心して下さい、口外はしませんから。」
「わ! ここまで金も気も使ってくださるなんて・・・・ 上忍さまさまですよ、ほんと。」
「あははは! “木の実”のこの遠慮なさが、ボクはめちゃくちゃ気に入ってます。」
「おー イルカ、よかったな! ドン引きされなくて。 ほら、好きなだけ飲め!」

「うぅ・・・ 愛してる。 心の中でいつだって言ってる、愛してるよ、って。 ぐすっ。」

「ふふふ、暴露も好きなだけしていいからね? ちゃんと知らないフリしててあげるから。」
「やー テンゾウさんって若いのに、花街での遊び方知ってますね。 感心しますよ。」
「だって、師匠がいいですから。 その人も木の葉の上忍で、ボクの大先輩なんですよ。」


外側だけ見て判断する人達なんて、ほっておけばいい。 人と違うその力も恐れる事はない。
何も知らない俺がこんな事言っても、なんの慰めにもならないけど。 生まれて来てくれてありがとう。
本当はとっても淋しがりやの甘えん坊。 俺は知ってるんだから。 どんなに頑張って来たか。
理不尽な扱いに耐えて来たか。 だから心で何度でも言うから。 愛してる、って。 ・・・・・・か。

なんかここまで思われてたら男として・・・・ いや、イルカちゃんも男だけど、ほんと嬉しいね。
ふふふ、気まずくなって来なくなる、なんてないから。 イルカちゃんの秘め事は知らないからね。
忍びだし。 絶対顔にださないから大丈夫。 ボクも心でお礼を言っておくよ、ありがとう。


打算的な女の視線ばかり見て来たから、イルカちゃんの一途な思いは凄く温かくて、くすぐったい。
ボク達忍びは先が見えない。 こんな一途なイルカちゃんの思いは受け取れないよ、もったいなくて。
だから・・・・・ たまにでいいから、こうやって本音を聞かせてくれる? ずるいって分かってるけど。
ここに来れば寛げて、純粋な愛情も見れるなんて、ボクはそれだけで幸せな気持ちになれるよ。

「いつだって貸し切り大作戦ですから。 心の洗濯に来て下さい、お待ちしてますよ。」
「ふふふ、心の洗濯か・・・・ 言い得て妙だね。 うん、確かに凄く温かいよ、今。」

「うぅ・・・・ その強い心を・・・・ 俺は知ってるから。 うぅ・・・ スンスン。」
「くす! ありがとう、イルカちゃん。 本当にね、嬉しいよ、凄く。」

泣き暴露癖の酒癖を持つイルカちゃんの心は、温かかった。 安心して、生きてる限りまた来るよ。
前はよく、先輩と忍犬まみれになった。 でも最近では、木の実に通ってる、十分落ち着けるから。
ボクが今後、命の洗濯にここへ来たら、忍犬達の出番は少なくなっちゃうかもしれない。

カカシ先輩には忍犬を触らせてもらったり、花街デビューさせてもらって遊び方を教わったし。
上手に遊郭で遊ぶ先輩なら、多分知ってる店だと思いますよ、あそこ当たりでした。 そう言おう。
うん。 花街で新しい店がオープンしたら、必ずその店の情報をくれるカカシ先輩に、今度はボクが。

それに木の葉の上忍の先輩を紹介したら、マスターは“金のなる木が増えた”って喜んでくれるよ、絶対。