草狩り忍 6   @AB CDF GHI J




やっぱり先輩もチェック済みだったんですね? あはは、そうだと思いました。 温かいですよね。
忍びが寛げる数少ない店の一つです。 ボクも、気どらないくせに気を回す所が気に入ってるんですよ。
先輩と二人で行けば、貸し切りにする時間も少なくて済むから、マスターも喜ぶだろうな、なんて。
・・・・てか、遅い時間以外・・・ あ、早い時間か。 とにかく明け方以外は、他の客いませんもん。

? プロが通うお店?? それであの時、遊女の入った店を張り込んでいたんですね? なるほど!
遊女もボク達同様、上辺だけの関係の中で生きてる者達ですからね、嘘には敏感なはずですし。
木の実のアットホームな雰囲気が、きっと殺伐とした世界での、癒しの場となるんでしょうね。



そうか、マスターが言った“命の洗濯”っていうのは、この界隈じゃ結構有名だったんですね?
・・・・もしかしたらボクの様に、イルカちゃんの醸し出す“羨ましいオーラ”に耐えられず、
お酒をご馳走してあげた遊女や陰間がいたとしても、不思議じゃない。 そしたら本音攻撃に合うね。
泣きながら、本人に対しての本音をぶちまけるイルカちゃんの暴露癖は、心に染み渡ると思うよ。

“どうせ何人も使った後の使い古しだろって言われたの”“女の方がやっぱり気持ちイイってさ”とか。
イルカちゃんは“熟練した体を満足させられないからって、どんな言い訳でしょうね”って言ってあげる。
売り者は顔で笑って心で泣いて・・・・ っていうのが多いもん、きっと心の洗濯になるよ、うん。

「そっか。 本来はあそこ、遅くから開いて遅くに閉まるお店だったんですね?」
「ウン。 マスター曰く、プロからとるのがプロ中のプロ。 らしいヨ?」
「あはは! まさにそんな感じですよね、そう言いながらも、そういう人達の為の場を提供してるし。」
「ネ? 三代目と似てるよネ、気の使い方がサ。 だからアソコで寛げるのかなぁ?」



カカシ先輩の言う通りなのかもしれない。 ボク達暗部は、火影様が問題児を集めて囲った直属部隊だ、
鎖に繋がれた狂人達だとか。 そんな中傷もなんのその、里のエリート集団と呼ばれるまでになった。
今なら分かる。 赤信号みんなで渡れば怖くない、を実践したんだ。 ボク達は異能力者だったから。
人に言えない事を吐き出せる場所があるっていうのは、気持ちの上で凄く楽。 あそこも、そうなんだね。

「売り者達にとっては、本音を吐き出せて答えてくれる、そんな店なんでしょうね。」
「だからオレも気を使って、通うのは早い時間に・・・ って言っても夜のだケド。」
「じゃぁ、ボクはもっと早い時間かな? 遊びに行く前に寄ってましたし。」
「時間差で入れ違いになってたっぽい? 上手いコト、営業してるねぇ、マスター。」

あははは! そうですよね、ほんと。 まぁ、お店の売り上げの為にも、二人一緒の方がいいでしょう。
別に、カカシ先輩が一人になる時間を大切にしているのなら、あえて邪魔はしませんが。 どうですか?

さすが先輩、そう言ってくれると思ってました。 え? なんですか?? イルカちゃん??
ああ。 カカシ先輩もイルカちゃんに、心の洗濯をしてもらってたのかもしれないな。 白い牙の息子だし。

今でこそ英雄の子だと言われてるけど、ボクが暗部に入る少し前まで、裏切り者の子だって言われてた。
その昔、同じ班の仲間から写輪眼を奪った極悪人だとも。 だから裏表のあるヤツが苦手なんだよね。
いや、忍びだから皆、裏表があって当然なんだけど、あからさまなのが嫌いみたい。 ボクもだけど。


「カカシ先輩も、イルカちゃんの優しさで癒されますか?」
「・・・・・・・ アー ・・・・ ま、ウン。 癒されるかナ。」
「?? ちなみにボクもなんですよ、ボクは・・・・」
「テンゾウ。 オレ達は忍びだヨ。 温かい人間を側に置くもんじゃない。」

驚いた。 カカシ先輩が・・・・ いつも真面目に不真面目な先輩の背筋が、シャキンと伸びてる。
先輩はここぞとカッコよくキメる時は、必ず背筋を伸ばすんだよね。 いつもは程よく猫背気味だけど。
と言う事は・・・・ 先輩がボクにビシッとキメようとしているトコロ?? 今、ここで? 何を??

・・・・・・これは。 有意義に楽しく遊ぶ方法を伝授してくれた先輩とは思えないシリアスさだ。

「分かるか、テンゾウ。 遊びならいいヨ? でも超えちゃいけない一線がある。」
「カカシ先輩、今更です。  それはボクに、一番最初に教えてくれた事じゃないですか。」
「アー そうだったネ? ・・・・ヤ、でも忘れてるかもしれないから、復習だっ!」
「はあ。 復習ですか。 まあ、ボクも一応そのつもりで遊んでますから大丈夫です。」


カカシ先輩が真面目な顔して言ったのは、花街デビューの心得、その一。 本気で惚れるな男と女、だ。
ちなみにその二は、金は残すな思い出残せ。 その三は、ライバル店へのハシゴは禁止。 まだある。
その四、酒を飲む時必ず奢れ。 その五、売り者同士の喧嘩は傍観。 全部で五カ条あるんだ。
もちろん元来真面目なボクは、先輩からの教えの五カ条を破った事はないし、破ろうとも思わない。

でも・・・・・ 今になって復習って・・・ なんだか自分に言い聞かせているみたいですよ、先輩。
?? さっきのイルカちゃん話から急にこうなっちゃったのは、ひょっとして・・・・??
まさか! あれだけクールに口八丁手八丁で遊んでいたカカシ先輩が・・・・ 惚れたはれた体験を?!

「・・・・・ そういえばイルカちゃんって・・・・」
「エ?! ナニ?? イルカちゃんがどうしたの??」
「・・・・・・酒、好きそうですよね・・・・」
「ア、酒ネ、ウン。 好きそうだよネー? ハハハ!」

怪しい・・・・。 カカシ先輩がイルカちゃんの名前に異様に反応してる・・・・・。 どうしよう。
イルカちゃんは・・・・ ボクの事が好きなのに・・・・ ボクはカカシ先輩をめちゃめちゃ尊敬してる。
入隊の時から目をかけてくれて、忍犬に触らせてくれた先輩に言える訳ないよ、こんな衝撃的事実を!