草狩り忍 9
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弱いくせにお酒が大好きな泣き上戸のイルカちゃんには、烏龍茶で我慢してもらうコトにしたのヨ。
少しずづ痛みを和らげる作戦なのに、オレにコクっちゃったら、その場でテンゾウの失恋が決定する。
いくらなんでも急過ぎるでショ。 だからイルカちゃんには32年熟成プレミア烏龍茶を差し入れ。
もちろんそのへんも妥協はない、そこらの値の張るウィスキーより、ずっと高級な烏龍茶だヨ?
そんなコト本人には言わないケド、烏龍茶の差し入れでも喜んでくれるイルカちゃんに、癒される。
オレの見てくれだけに惚れた女どもと、こういう所が違うんだよネ。 すぐ想像できちゃうヨ。
“二人もいて烏龍茶?!”みたいな。 んで、値段教えると“さすが高級品ね〜v”とか言っちゃう。
きっとイルカちゃんは値段云々より、オレが差し入れたモノなら何でも喜んでくれるんだよネ。
“テンゾウと二人で選んだんだヨ”って言った時、オレを見てサ、一瞬もの凄く可愛い顔で笑ったの。
アー テンゾウ。 オレ達が惚れたイルカちゃんは、ホントイイよネ。 なるべく早く諦めろヨ?
そうやって、テンゾウにイルカちゃんを自主的に諦めさせるべく、木の実に二人して通い出したある日。
オレはその優しい思いやりのある自分の決断を、過去最大、史上最悪に激しく後悔するコトになった。
いつものようにプレミア烏龍を持って、テンゾウとふたりで木の実に来たら。 店が焼かれてたんだ。
どこかの売り者が騒ぎを起こし、マスターとイルカちゃんを中に閉じ込めたまま火をつけたらしい。
何人もの人が、二人を助け出そうとしては猛火に邪魔をされ断念した。 悔しそうにそう言ってた。
敵忍に狙われる? 友情が崩壊しちゃうから? バカでショ、オレ! 死は時と場所を選ばない。
何よりも誰よりも知っていただろう?! リッチで楽しい引退生活を送る前に、本人が逝ってしまった。
一般人だからって、どうしてそこまでイルカちゃんが生きているだなんて、安易に思えたのか・・・・
こんなコトになるならテンゾウを無視して、イルカちゃんの思いにさっさと応えてあげてればよかった。
「・・・・・・。 カカシ先輩、どういう事ですか・・・・ こんな事ってっ! くっ!」
「・・・・・・。 花街の売り者同士が起した喧嘩は傍観。 その五、だヨ。 クソッ!!」
「ですが、商売者であって売り者じゃありません。 暗部の掟は“目には目を”ですよね?」
「私情で動けないオレ達は、自分じゃ依頼出来ないヨ。 ケド、誰かに依頼するならイイよネ?」
そう。 暗部での厳禁は、自分自身に依頼する、だ。 コレは絶対やっちゃいけない決まりごと。
そうでないと、殺しが正当化されてしまう。 オレ達は何の為に戦っているのかすら、分からなくなる。
暗殺部隊に身を置いていても、火の意志を失ったコトは一度もない。 ソレをやったら人じゃなくなる。
だからコレは自分に依頼するワケじゃない、テンゾウに依頼するんだから。 そしてテンゾウはオレに。
「どこのどいつがこんな事をしでかしたのか、絶対つきとめて・・・・・ 狩ります。」
「お前の気持ちは痛いほど分かるヨ。 後悔してももう遅い、バカだヨ、オレは。」
「カカシ先輩、すみませんでしたっ! ボク・・・・・ イルカちゃんはボクを・・・・・」
「フフフ、知ってたヨ。 ・・・お前に言ってても、半分は自分に言っていた言葉だしネ。」
ン? 何言ってんのお前、“イルカちゃんはボクを”じゃないでショ? “ボクはイルカちゃんを”でショ?
気持ちは分かるって確かに言ったケド。 お前、失ったショックで文法がおかしなコトになってるヨ?
キメ台詞は噛んじゃダメ。 火の国語はハッキリクッキリ正しく使いましょうって、習ったでショ?
それともナニ? お前、イルカちゃんがお前に心変わりしたとでも・・・・ 言いたいワケ?!
「・・・・?? イルカちゃんは?? お前を・・・・・ ナニ??」
「・・・・?? 半分だけ自分に?? ボクへの・・・・ 言葉??」
「「・・・・・・・・へ??」」
「イルカちゃんはオレを愛しちゃってたのヨ? コレ、死人に口なし、じゃないカラ。」
「は? いや、イルカちゃんが心底好きだったのはボクですよ? 告白されましたし。」
「「・・・・・・・・。」」
ここにきて、イルカちゃんの酒癖を説明してた時のマスターの苦笑いを思い出した。 まさか、ネ?
褒められたもんじゃありません、引かないでやって下さい、さすが木の葉の上忍だ。 コレらはまさか。
花街の遊女が生き生きとした目で店を出てきたのも、その酒癖を知っていて癒されに行ってた、とか?
プロ達の言う“命の洗濯”は、自分に駆け引きのいらない愛を囁いてくれるから・・・・ とか??
「「・・・・・イルカちゃんの酒癖って・・・・ “口説き上戸”!? 」」
「・・・・・・ハハ・・・・ アハハ! そうか、そうだったんだ? 堕とされたのはオレ達か!」
「・・・ブッ! イルカちゃんって・・・・ なんだ、あははっ! やられましたね、まんまと!」
「・・・・フフフ、でもサ。 やっぱり借りは返さなきゃネ?」
「・・・・ふふふ、当然です。 暗殺戦術特殊部隊ですから。」
「オレ達のお気に入りの店を焼いたヤツは、生かしておけない。」
「交換暗殺依頼をしましょう。 三代目なら分かってくれます。」
そうだよ。 もう、あんなお店に出会えないかもしれない。 忍びが自然体でいられた寛げる場所。
今思えば、あの飾らない性格のマスターと、温かいイルカちゃんが居たからなのかもしれない。
でも芽生えた気持ちは本物だった。 引退後、オレの横にいて欲しい、って。 もし・・・・
もしもテンゾウのコトがなかったら、この気持ちにフタをしてしまっていたかもしれない。
少しの間だったけど・・・・ イルカちゃん、オレ達に夢を見せてくれて・・・・ ありがとネ。
忍びのオレ達には、こんなコトしか思いつかないケド、コレは自分自身の為でもあるんだ。 仇は討つヨ。
待っててネ。 木の葉の情報部や潜入部にかかれば、ほんの数日でターゲットを見つけてくれるからサ。
「「マスターとイルカちゃんの無念は、必ず晴らすから。」」