オセロゲーム 5
@AB
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GHI
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「実はイルカには、もう5回も、Aランクを言いつけておる。 じゃが、報告書が上がってこん。」
「はぁ? なんですかソレ!!」
「よくよく調べたら、ターゲットは仕留めておる。 本来は、任務完了じゃ。」
「ますます、訳が分かりません!」
「結果を知った依頼主から、報酬は送られては来るが、書類がないゆえ、任務履歴として無効じゃ。」
あんなに教師になりたいオーラ出しているのに、自分で自分の首しめるようなことを!
報告書を提出しないなんて、どうかしてる! 何をやってるんだ、イルカは?!
自分の事のように腹を立てるボク達に、三代目が目を丸くしている。 スケベ狸もこんな顔するんだ。
先輩から、対三代目用のエロ本コレクションをみせてもらったけど、効果は絶大だった。
「お前達には、イルカの生い立ちから話してやろう。 そのほうがエエじゃろ?」
ボクも先輩も、結構悲惨な過去を抱えている。 暗部にいる奴らなんて、みんな似たり寄ったりだ。
前向きで、動物好きのイルカは今迄どうやって、生きて来たんだろう・・・ 確かに興味がある。
イルカの過去を語り始めた三代目は、スケベ狸ではなく、年頃の娘を心配する父親のようだった。
海野イルカ、上忍の両親を九尾事件で亡くす。 その直後行方不明になり、半年後、無事発見された。
半年間イルカを守り、育てていたのは、禁断の森の猛獣、沈黙の黒豹だった。
ボクも聞いた事がある。 初代様の時代に主と死別して以来、誰とも契約を交わさない口寄せ獣。
幾多の忍びが惚れこみ、契約を交わそうとしたが、沈黙を守り続けた。だから、そう呼ばれている。
捜索隊が、黒豹の下にいるイルカを発見し、苦渋の決断で、沈黙の黒豹をその場で殺害した。
里の忍びに一度でも牙を向けたら、口寄せ獣として使えない。 身を切る思いで処分したんだろう。
首だけしか見えていないイルカを、食われてしまったと捜索隊が思っても、仕方がない。
だかイルカは生きていた。 大きい黒豹に埋もれる様にして、眠っているだけだった。
まさかあの状況で、誰も生きているとは思わなかったことが、その悲劇を招いたんだ。
黒豹は、泣きじゃくっているイルカの頬をぺろりとひと舐めして、息を引き取った。
延命処置も虚しく、木の葉設立時代より、沈黙を守り続けた黒豹の、それは穏やかな最後だった。
喪失しているイルカに、ひたすら詫びる捜索隊。 イルカはその忍びたちに向かって言った。
『あなた達も、俺と同じように心が痛いんですね。 探しに来てくれて・・・ありがとう』と。
どうして、森に迷いこんで来た子供を助けたのか、永遠に沈黙を守る黒豹に、聞く事は出来ない。
たった半年間。 けれど、あの孤高の黒豹と一緒に過ごす時間は、おそらく幸せだったろう。
イルカは、物事を受け止め、許す強さを、無償の愛情を、沈黙の黒豹から受け継いだ。
あの前向きさも、部類の動物好きも、すべてそこから来ていたんだね・・・・
「報告書を提出せんのは、されては困る奴の為に、イルカが破棄してしまった可能性がある。」
「きっとそうなんだろうなぁ。 自分さえ黙ってればバレないと、思っていそうだモン。」
「イルカが隠しているつもりだから、今まで知らないふりをしてやっていたんですね。」
「うむ、いかにも。 中忍として情けない話じゃが、イルカはストーカーされとるんじゃ。」
「「 ストーカー?! 」」
三代目が言うには、イルカの最初のAランク任務に、密かに同行させていた、暗部が怪しいらしい。
“らしい”というのは、その他の同行させた忍びの可能性も、考えられるからだ。
しかし・・・Aランクを言いつける度に、上忍を影から同行させるなんて・・・・
過保護すぎますよ、火影様、 ・・・そう思ったが、ふと、前に感じた事が、頭をよぎった。
ボクは昨日思ったはずだ。 “無償の愛情が、もし、人にも向けられてたら、恐ろしい”と。
「火影様、確認しますが、イルカのあの情は・・・・ 動物限定ですよね?」
「違うから、やっかいなのじゃ。 あ奴は情を垂れ流しておる。」
「まさか!! オレ達暗部や、他の忍びにもですか?!」
「例外はない。 誰であろうと、それが当然のように接しおるでの。」
冗談じゃない! あんな裏表なしの無償の愛情を、ボク達忍びが知ってしまったら・・・
腑抜けになるのが怖くて殺してしまうか、一生自分のそばに置いておくかの、どちらかだ。
三代目は、そのストーカーの正体を突き止めるために、ボク達をイルカの家に滞在させた。
相手が警戒しない様に、チャクラを封印して。 ブルも一緒に行かせたのは、単純に防犯の為だろう。
暗部の酉部隊の奴だった。 まいったなぁ、まさか暗部からストーカーを出してしまうなんて。
これは、酉部隊の部隊長にも、知らせなければならない。 アズサさん、ショックだろうな・・・・