オセロゲーム 6
@AB
CDF
GHI
J
あー、やっと元に戻った。 居心地が良すぎて、犬のままでもイイかと思ったぐらい、ハマってた。
しかし、あの沈黙の黒豹が、命を助けるとは・・・。 イルカには本当に驚かされるヨ。
オレは一度、忍犬を連れていた時に、禁断の森で遭遇したコトがある。 忍犬8匹もオレも圧倒された。
深い色をした金の瞳。この世の全てを拒絶しているような真っ黒の毛並み。 孤高の黒豹だった。
聞いたところによると、任務の帰りに、傷だらけのオレ達を発見したイルカは、
術で小さくして運べばよかったものを、体の負担が増えるからと、ブルを背負い、
テンゾウとオレをベストの前に入れ、里に帰還したそうだ。 自分もヘトヘトになって。
三代目から事情を説明され、家に連れて帰れると聞いた時の、イルカの喜び方は凄かったらしい。
「ストーカーの正体は、酉部隊のヤツです。部隊長のアズサに聞いた方がいいかもしれません。」
「・・・そうか、酉じゃったか・・・」
「酉じゃったかって、その他の暗部にも、同行させてたんですか?!」
「うむ。 過去5回、暗部の酉・猿部隊の奴と上忍三名に、それぞれ影として護衛を命じた。」
「気持ちは分かりますがね、ソレはイルカを侮辱していませんか、三代目?」
「うむむ・・・しかしの、18歳の食べごろじゃろ? 他里のクノイチなんぞに狙われたら・・・」
もっともだ。クノイチは体を使った任務が多い。 あの無償の情を知ったら、絡め取るだろう。
駆け引きなしの愛情は、クノイチにとって諦めている夢だ。 でも、ミイラ取りがミイラになった。
同じようにオレ達にとっても諦めている夢。 なのに、自里の忍びを対象外とした、三代目のミスだ。
ヤツが報告されては困る事とは? 少なくとも、イルカはそう判断したから、報告書をださなかった。
「じゃ、オレ達、本人に会って来ますヨ。 何があったか確かめてきます。」
「うむ。 イルカに気付かれんようにな。」
「酉部隊長のアズサさんには、報告しますよ? ガッカリすると思いますが。」
「そうじゃな、暗部内の事は、お前たち部隊長らに、任せるとしょう。」
イルカには罪はないが、忍びは裏の裏のそのまた裏を読む者。 裏表なしってのはあり得ないでショ。
本当に動物に向けるような情が、人にも向けられていたとしたら・・・ソイツは絶対、勘違いする。
自分だけだと。 イルカの無償の愛情は、自分だけに向けられているんだ、ってネ。
イルカがどんなに筋が良くても、所詮ただの中忍。 上忍や、暗部がその気になれば逆らえないヨ。
「テンゾウ、お前イルカの事どう思う?」
「・・・先輩こそ、どう思ってるんですか?」
「質問に質問で答える奴があるか。 オレはイルカのそばにいたいヨ。」
「ははは。 そんな気がしてました。 でも、ボクだって彼のそばにいたい。」
「・・・・・温かさを知ってしまったものは、仕方がないよネ。」
「もう、元の無機質な世界へは戻れません。 あの情が欲しいです。」
起きてしまった事実を、しっかりと受け止め、仲間を憎まない。それが全部、本物だったら?
・・・こんな忍びがいたなんて。 悔しい、なぜ今まで出会えなかったんだろうか。
イルカなら、オレ達の悲惨な過去を聞いても、きっと笑い飛ばす。
いい思い出も、悪い思い出も、全部ひっくるめて。 それが、あなた方でしょう、と。
『昔、大きな獣が愛してくれたように、俺も子供たちを愛してあげたいんです』
どうしてアカデミー教師になりたいのか、と三代目が聞いた時、イルカはこう言ったそうだ。
愛する心を、愛を教える為に、忍びの教員になりたいなんて、理想もイイとこだ。
でも、イルカなら本当に出来そうな気がする。生物の種を超えた愛情を知っているイルカなら。
「オレね、誰かを泣きたいくらい好きになったのハジメテ。」
「ボクもです。そばにいるだけでイイと思った事なんて、ありません。」
「ふ〜ん。 お前・・・そばにいるだけでイイの?」
「例えです! 本気にしないで下さい!」
「・・・だ〜よねぇ・・・ 思いっきり抱いてみたいよね、アレ。」
「はい。 正直あんな目で、今、見つめられたら我慢できません。」
そう、そうなんだ。 オレ達がこう思うってことは、あのストーカーもそう思ったはず。
ストーカーは、一方的な思い込みで、相手を自分の頭の中で、勝手に恋人に変換するそうだ。
オレらは、後から出て来た恋敵になるんだよね、アイツにとって。 実際そうなっちゃたし。
んー、知りたくないような、そうでないような・・・ なんか、凄ーくイヤな予感がする・・・