精霊が宿る樹 11
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若奥さんは潜ってすぐ、協会が保管している会員名簿を写しておいたらしい。 もったいない。
こんな優秀な潜入員なら、あの如月も可愛がっている事だろうに。 ・・・・アカデミー、か。
カカシとテンゾウは、こうと決めたら必ずやり通すからな。 近々中忍 海野イルカは教員になる。
同情を煽って迫られたり、勝手に信頼して敵の懐に入ったり、こんな事で泣いたり。 忙しい奴だ。
毛糸玉ほどの大きさの箱を大切そうに抱えた男が、笑いながら話しかけている。 その中の紙人形に。
今日はこんな事があった、あれを覚えているか、そう言えばこんな事が・・・・ 独りで話している。
あの男には、聞こえるはずのない笑い声や、自分の欲しい言葉だけが聞こえているんだろうな。
セキに暗示をかけられた遺族。 自分の愛する者の死を乗り越えられなかった弱い男。
依頼人が言うには、あんたの奥さんが希望していた臓器移植で、6人もの命を救ったそうだぞ?
死んでからも誰かを生かせるなんて、一般人にしては上出来だ。 なぜその事実を無視する?
氷遁を片手に纏い、男の腹を切る。 体内から蛾の幼虫を取り出し粉砕した。 これなら・・・・
元に戻ったとしても、ただのハウスダスト。 肉食蛾の卵を腹で孵してしるとも知らず、馬鹿な男だ。
台所の包丁を握らせた。 死に際は、幻の女房に看取ってもらえよ? もう少しで本物に逢えるからな。
「自殺を装えと若奥さんに泣いて頼まれたが・・・・ ようは自分で死んでればいいんだろ?」
暗示は忍術ではなく催眠術の一種だ。 それを極めると、心操術を扱えるような忍びになれる。
例え一生、下忍・中忍であっても、なんら恥じる必要はない。 それぞれの役割がちゃんとある。
おれ達暗部より生き残れる確率も大。 どんな理由があったにせよ、里に来て忍びを志したなら。
忍び崩れのセキがたどった運命もまた、自業自得という事になる。 生きる道を違えたのは自分だ。
「あと18人か・・・・ 面倒だが仕方ない。 このおれを信頼しているらしいからな。」
カカシとテンゾウの色だしな。 お前達の若奥さん、こんな弱い連中の為に泣いて心配が耐えんな?
まあ、あれだけすぐピーピー泣けるなら、潜る時に武器として役に立つだろうが。 干からびるぞ?
やはりもったいない気がする。 アカデミー教員でも、たまには現場に出してもいいんじゃないか?
・・・・・・ほらな、潜入部隊の奴は恐ろしい。 おれの思考の中に自然に入ってくるのは止めてくれ。
「あ、カオルさん、任務お疲れ様でした! 花崎医師から、称賛されましたよ、里の忍びは凄いって。」
「お疲れさん。 ・・・・花崎? ・・・・・ああ、おれを指名した謎の医師か。」
「・・・・・・くす! ええ、その謎の医師から、カオルさんに伝言を預かってます。」
「・・・・??」
「 “あなたに比べたら私は非力ですが、これからも出来る限り命を救おうと思います” 」
「・・・・・・?? 医者の仕事だ、当然だろう。 おかしな奴だ。」
「・・・・ぷっ! くすくす! あはははは! カオルさんって・・・・・ あははは!」
「????」
なんだ?! 突然若奥さんが笑い出した。 おれの面になにかついているのか? まさか血か??
ウチのふたりに聞きました。 “里が全て”って本当なんですね、そう言ってゲラゲラ笑っている。
里が全てなのは当たり前じゃないか。 木の葉が潤うなら、おれはどんな事でもすると決めている。
一般人暗殺に返り血を浴びるような間抜けではないが・・・・ 思わず面を取って確認してみた。
「!!!! カ、カオルさんっっ!! 面・・・・・ うわっ・・・・ (紺色の瞳だ・・・・)」
「・・・・・・なんだ、何もついてないじゃないか。」
「カオルさんの瞳、ラピスラズリみたいだ・・・・・。」
「・・・・・ふっ。 ・・・・おれの一族は、皆こうだったぞ?」
ああそうか。 面をはずしたからか・・・・。 そう言えば、抱けと頼む女もよく目の事を言うな。
『その冷たい色をした瞳がいいの。』『誰も見ようとしない、この目が好き。』
・・・・ラピスラズリってなんだ? まあいい。 しかし、おい。 そんなに覗きこ込むと・・・・
どこからともなく二本のクナイが飛んで来た。 なあお前ら、今、ちょっと本気で狙わなかったか?
「ちょっとカオルッ!! オレ達のイルカをマジマジと見つめるのヤメテくれる?!」
「・・・・・今のはどう見ても逆だろうが。」
「イルカちゃんもっ! ボク達以外の暗部と長く話しちゃダメだって言ったよね?!」
「いや、あの・・・・ 伝言を預かってて・・・・ その・・・・」
「「へー そう。 ・・・・・もちろん帰ったら、お仕置きだからね?」」
「うっ! き、昨日もしたじゃないですかっ!」
「アレ? そうだった??」 「さあ、覚えてませんねぇ?」
「うわぁ〜〜〜ん!! カオルさん、ヘルプッ!!」
「・・・・・無理だな。 ここで助けたらおれが危ない。」
「「久々に・・・・ お道具フルコースしちゃう?」」
「 ここをどこだと思っとる、馬鹿者共がっ!
カオル、早く最終報告をせんかっ!! 」
「「だって! さあ、帰ろ?」」
「わぁ〜〜〜ん、じっちゃんっっ!! やだやだやだぁーーーーっっ!!」
「「じゃぁ、そういうコトでvv」」
暗部の戌猫相手に、結構抵抗してたが・・・・ 連れて行かれてしまったな。 ・・・・ふっ、頑張れ?
しかし・・・・ カカシもテンゾウも、あんなに感情を出す奴らだったか? 若奥さんの影響か。
潜らせればけっこう使える潜入員なのに、アンバランスな奴だ。 どんな教員になるのか気にはなるな。
ん? そうだった。 卵の宿主全員を暗殺して来たから最終報告をしに、火影室に来たんだった。
今回の依頼はこれで完了だ。 おれ指名の偵察任務が、暗殺任務に変更になった、たかがそれだけ。
火影様は、おれが真面目そうな医者から任務を指名された事が、相当嬉しかったようだ。
結局どこで会ったのか思いだせないままだがな。 まあ、忍びの父が喜んでるから良しとするか。
おれ達里の忍びの父である三代目 火影。 尊敬する素晴らしい方だが、一般的にはお年寄りだ。
いつまでも元気で、里を見守っていてくれなければ困る。 だからこれは注意しておいた方がいいだろう。
「・・・・・三代目、あんまり大きい声を出すと、血圧があがりますよ?」
「 やかましいわいっっ! どいつもこいつも! 余計なお世話じゃっっ!! 」
カオルの思考は木の葉が中心です。 さらに三代目の命令しか聞きません。 暗部ですからね!(笑) 聖