精霊が宿る樹 6
@AB
CDF
GHI
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最近ふたりが面白がって首を噛むから、なかなか潜れなかった俺。 でも久々に潜入任務が入った。
なんと、あのカオルさんに伝えた任務のお手伝いだった。 なんか裏があるから潜れ、だって!
輪廻の光りっていうカウンセリング協会を名乗る謎の組織。 忍びっぽいのがいるらしい。
お面の人にお願いしたいんですがって、あの真面目そうな医師が、里を訪ねて来た時は驚いたな。
暗殺戦術特殊部隊は火影直属部隊、里の忍びなら皆知っている。 一般人には知る人ぞ知る存在だ。
だからじっちゃんには、ホントの事は言えずじまい。 せっかく喜んでるのに、偶然でした、なんてね。
カオルさんが、ウチのふたりを説得してくれたらしい。 だからかな、昨日は首を噛まれなかった。
「どこに行った?! すばしっこい奴だっ!」
「・・・・・・・。」
「人の財布盗みやがって・・・・ くそうっ!」
「・・・・・・・ほっ! 行った・・・・かな?」
今回潜入する組織には、どうも裏があるらしい。 忍びっぽいのがいるから、忍び崩れで潜入する。
俺は、昔忍びを志し、木の葉隠れのアカデミーに通ったが、下忍になれずその道を諦めた青年、だ。
今ではその能力を生かして、立派な盗人家業を営んでいる・・・・・ と今回は、こういう設定。
一般人から財布を盗んで、逃げ込んだ。 建物の鍵はもちろんチョチョイとはずさせてもらう。
表札もなにもない、大きな建物の中・・・・ とっさに逃げ込むにはいいトコロ、って感じでね。
自分より強そうな忍びなら警戒するだろうけど、俺も忍び崩れだったら、ある程度油断するだろ?
「へへへ! やっぱりね。 あのお兄さん、結構持ってたな、ラッキー!」
「・・・・・・・・そこの青年。 君は人より優れた力がありそうだね?」
「わわわわ! あ、すみません勝手に入って。 その・・・・ か、鍵が開いてて、あの。」
「ふふふ、誤魔化さなくてもいい、鍵はしっかりかけていたよ? ところで・・・・・・」
おっし、ちょっと弱みを握られた堅気じゃない青年、てな感じで怪しい組織、輪廻の光に潜入成功!
ちなみに俺に財布すられたお兄さんには、後で接触して、ちゃんと返して置くから心配ない。
時間を置いて気付くように、木の葉隠れへの任務協力だと、お手紙を懐に入れておいたから。
なぜそんなめんどくさい事するかって? へへへ、これもね、営業のテクニックなんだよ?
全然関係のない被害者なのに、実は木の葉の忍びに協力した市民、ってなる。 アイデンティティ。
で、その人は自分の身の周りに何かあった時に、すぐ木の葉隠れを連想してくれるって訳。
“ちょっと任務に協力したんだ” とか、他の人に自慢までしちゃったり。 宣伝効果大だろ?
まあ、とにかくだ。 市井に降りたら、こうやって地道に宣伝活動する事も、潜入部隊の鉄則。
カオルさんに変化してもらって一芝居打ったとしても、カリスマ的存在感っていうのは消えない。
忍び、特に暗部なんか使おうものなら、バレバレ。 だって目立ち過ぎる。 迫力のあるオーラが。
だからこういう時は、相手も警戒しない一般人に協力してもらうのが一番なんだ。 リアルだしな。
「忍術のようなモノは使えないんですけど、足だけは速いです。 あと、手先もちょっと。」
「くす。 忍びなんて、なってもならなくても世の中は変わらないわ。」
「まあ、こうして楽に稼げるしね。 その気になったらいつでも逃げられますよ? 俺。」
「別に訴えようとか、稼ぎを巻き上げようとか、思ってないから安心して?」
俺は潜入してすぐ、組織の見回りにみつかり理事長に引き会わされた。 そう仕向けたんだけど。
なんと理事長は優しそうなふくよかな女性だった。 俺を見つけたのは幹部の男のひとり。
予想した通り、使い勝手のよさそうな俺を組織に引き入れたい、そんな感じがミエミエ。
被害者を装って潜入してもよかったんだけど。 顔ありだから、大胆に敵の懐に飛び込んでみた。
俺に何かあれば、すぐカオルさんが駆けつけてくれしね。 部隊長だもん、安心して潜ってられる。
忍びっぽい奴が関わっている組織か。 叩けば誇りが出そうだね? まずはそいつをみつけなきゃ。
今回は暗部とツーマンセル。 カオルさんの指示を確認する為、 前に使った【連絡帳】を持たされた。
さらに情報部がよく使う通信機も借りた。 喉の振動を言葉に変換できる、細い黒のチョーカー。
カオルさんはチョーカ―が変換した俺の会話を、常に受信装置でもあるイヤホンで聞いている。
「ねえ、あなた。 そんなフラフラした生活は止めて、私達と仕事をしない?」
「? コレでも俺、一応義賊気取ってるんですよ。 持ってそうな奴からしか盗らない。」
「ふふふ。 ますます気に入ったわ。 私達はね、絶望した人に生きる希望を与えているの。」
「生きる・・・・ 希望?? ・・・・俺でも何か手伝えたりするんですか? ソレを。」
俺を気に入ってくれてありがとう。 建物の中のどの部屋でも入れる組織の一員に、喜んでなるよ?
ちょっと気になるのは、さっきの男の視線。 使えそうな新人の、上から下まで品定め、ってヤツ。
多分一般人だったら、全然気にならないような視線だろう。 見ている風ではないからね。
相手に分からない様に見る・・・・ というのは結構難しい。 人間は視線に敏感に出来ているから。
俺が忍びだから感じる視線だ。 カオルさんが言った、忍びっぽい奴、っていうのはこの男だな。
・・・・・観察終了らしい。 どうやら俺は、彼の中でも合格点をもらえたようだ。 ひと安心。
理事長に呼び名をつけてもらった。 ここで新たに俺の、第二の人生がスタートするそうだ。
「手先が器用なのよね? なら、キヨウ。 今からあなたはキヨウという名で生きなさい。」
「えへへ、キヨウ、か。 うん、気に入ったよ、俺らしいや。 ありがとう、理事長。」
「どういたしまして。 これからよろしくね、キヨウ。 何かあったらセキに相談してちょうだい。」
輪廻の光りのある建物は、一見大きな洋風の館。 看板も出てないし表札もない。 でも存在する。
これって、ここを訪れる人が限定される、って言う事だよね? 誰かの紹介とか、口コミとか。
理事長と名乗った女性、幹部らしき男、後はお金持ちの家の使用人みたいな人達。 なんだろう、ここ。