精霊が宿る樹 3   @AC DEF GHI J




おれはさっきの、海野イルカという中忍が苦手だ。 他に言い様がないだけで、別に嫌ってはいない。
カカシとテンゾウが起した、暗部専属世話人制度は賭けの対象だったから、否が応でも巻き込まれた。
アズサとおれは部隊長仲間。 制度新設に賭けろと、半ば無理やり賭けさせられたのは記憶に新しい。
おかげで人の警戒心を解いてしまう潜入部隊の隊員、海野イルカという人物を知る事が出来たがな。

「自分の思考の中心に、里以外のモノを据えるなんて、おれには真似出来ないな。」

あのふたりが重婚したから、こうやって接する機会が増えたが、さすが潜入部隊と言わざるを得ない。
あれだけすんなり人の思考や視界に入り込めるなんて、恐ろしい。 潜入部隊はそういう意味で怖い。
たまにおれを指名してくるのは、大概が金持ち女。 仕事の一環で抱いてやったが、再度頼むと。
なのに今回、一般人がこのおれを指名? しかも偵察に雇うなど、聞いて呆れる。 どこの馬鹿だ。

「北山病院の花崎医師・・・・・ だめだ、やっぱり全然、思い出せん。」

海野イルカに列車事故の事を聞かれた。 そう言えばこの前、暗殺帰りに邪魔な列車が横倒してたな、
夜なのになんだかガヤガヤしていたぞ、と伝えたら、“それか!” って目を輝かせていたが。
途端にニッコリ笑って、標語らしきものを言った。 あれは一体なんだったのか。 若奥さんは謎だ。
まあ、なんにせよ、三代目がおれにと寄越した任務なら、きっちりと仕事はする。 暗部だからな。

「輪廻の光り・・・・・ ここだな・・・・ よし、夜まで待ってみるか・・・・・・。」




依頼人は火の国のある大きな町の病院の先生。 対象は、その町の病院が勧めるカウンセリング協会。
先を絶望視された患者、急死した患者の遺族に勧めるならソコだと、公然の癒着になっているそうだ。
今までその先生は、直接勧めた事はなかったそうだが、奇しくも、そういう機会が巡って来た。

見込みのない患者の死を宣告するのは、医者として一番辛い時だったと、その先生は語ったそうだ。
その何日か後、自分がソコを勧めた遺族に会って、余りに生気が溢れているのでビックリしたらしい。
妻を失くし、今にも後追い自殺をしそうな感じだったので、本当に同一人物かと思ったほど驚いたと。

その時にその遺族がおかしなことを言ったそうだ。 そして協会を、まるで神のように崇めていた。
外科医の自分は、肉体の傷は治せても心の傷は治せないと知っているから、良かれと思い紹介したが。
精神科医がしっかりと診る所ではないのか? もしも、遺族の弱みにつけ込む宗教じみた所だったら?
上と癒着しているから内部告発になる。 でも木の葉隠れが見解を示すなら、揉消しは出来ない、と。


「ちらっと見ただけだが、なかなか良心的な医者のようだったな。 ・・・・見覚えはないが。」

おれ達は人をたくさん殺して来た。 そんなのにいちいち辛がっていたら、精神が病んでしまう。
一般人やただの医者なら、やはり辛い事なんだろうな。 アイツらの若奥さんも、そんな感じだ。
アイツらはそれでも、その欠片を持ち続けてる潜入部隊のヤツと一緒になった。 恐れ入るよ、全く。

忍びは感情を残せば邪魔になる。 もし止めを刺すのに少しでも躊躇したら、自分が殺られるだけ。
おれは木の葉の里と三代目に恩がある。 おれを助けて育ててくれた恩だ。 その為ならなんだってする。
だからとてもじゃないが、おれにそんな余裕はない。 自分の弱点になる者を作るなんて、冗談じゃない。
木の葉隠れの里が平和で、ひとりでも里の民が笑っているのなら、それでいい。 それ以上は望まない。





おれ達忍びは夜目が利く。 だから一番夜が動きやすい。 単独で何かする時は、たいがいが夜だ。
一般人が何も見えない夜だからこそ、おれ達忍びは好きなように動き回れる。 今は月の光さえ邪魔。
なのに、そんなおれの方を振り返ったヤツがいた。 もちろん見つかるようなヘマはしてないが。
手洗いにでも起きて来たのか、ひとりの男が廊下を歩いて来て、その帰りにこちらを振り返った。

「・・・・・・・なんだアイツ・・・・・。 忍び崩れか?」

偶然などというものはあまりない。 全くないとも言い切れないのが、実際判断に困るところだが。
おれの場合は一切の偶然を信じない。 結論は、ヤツが振り返ったのはおれの視線を感じたから、だ。
もし、抜け忍や忍び崩れが絡んでいるとしたら。 この依頼は、ただの偵察じゃなくなるな。