精霊が宿る樹 7   @AB CDE GHI J




若奥さんは順調に建物内を探ってくれる。 アカデミーに埋もれさすには、惜しい潜入員だな。
潜って二日目なのに、かなり重宝がられている。 そりゃそうか。 忍び崩れは、何かと便利だ。
チャクラ質が少しぐらいあっても、下忍になれなければ、木の葉の忍びとして認められない。

忍び崩れとは、忍者を志したが、様々な理由で途中で挫折した者達の総称を言う。 抜け忍ではない。
忍びになりたかったが、なれなかった者達、だ。 だから、一般人より秀でているのは当たり前。
あの時に振り返った男も、実は忍び崩れだそうだ。 これは若奥さん、キヨウとの会話で判明した。

「・・・・キヨウ。 違ったらすまない。 お前は・・・・ 男に抱かれるのか?」
「!!! ・・・・え?! いや、その・・・・・。 (ぎゃぁーーー 何でわかったのぉ?!) 」
「やっぱりな。 その背中の鬱血の濃さは、女ではないと思った。」
「・・・・・セキさん、理事長には内緒にしててくれる? 心配かけたくないから。」

「俺、実はさ・・・・・。 (何してくれてんだ! あのエロ兄弟!!) 」

・・・・・何やってんだ、カカシとテンゾウは。 三代目に、あれほど噛むなと注意されていたのに。
もっと隠れる所を噛め。 ももの付け根とか、腰回りとか、尻たぶとか。 いくらだってあるだろ?
キヨウは上手くごまかしている。 同情を引くような哀れな過去を、少し涙声で語り始めた。
義理の父親が自分に手を出した、だから家を出たんだ、と。 さすが潜入員、といったところか。

「盗みをして生きてるぐらいだ、ロクな生い立ちじゃないとは思ったが・・・・ すまない。」
「あんなのでも母さんを大切にしてる親父だしね。 俺さえ黙っていなくなれば・・・・」
「・・・・そうだ、そんな家に帰らなくていい。 ここにおれ達と、ずっと一緒にいろ。」
「・・・・・へへへ。 セキさんって・・・・ 優しいね、ありがと。」

自称義賊の青年は、義父から性的虐待を受けて家出をした、か。 なるほど、保護欲をくすぐるな。
どうやらセキという名の忍び崩れは、一見明るく見えるキヨウの影の部分に、かなり同情したらしい。
うまくごまかせてよかったな。 確かにそんなトコを噛むな、とは思うが。 だがそれよりも、だ。
いくら相手が一般人や忍び崩れであっても、そんな簡単に自分の背中を見せたりして、大丈夫か?



「・・・・・おれは暗示が得意なんだ。 過去を忘れさせてやろうか?」
「だめだね、後遺症が怖いから遠慮しとく。 俺、暗示にかかりにくい体質なんだ。」
「すぐに解けてしまう、か。 キヨウが忍び崩れでなかったら良かったのにな?」
「そう言えば理事長が、生きる希望を与えるって・・・・ セキさんが暗示をかけてるの?」

ん? いきなり確信か。 どんどん相手の懐に入るな・・・・ 若奥さんはかなりのヤリ手の潜入員だ。
・・・・ほう、そうらしい。 この忍び崩れのセキという男が、ここに来た者に暗示をかけていたのか。
おれは三代目からの辞令で、この協会が弱者をクイモノにする所なら、ここを潰せと言われている。

愛する者を失った遺族の為、前向きに生きるような暗示をかけるだけ、それなら無害だが・・・・。
まてよ? なら、普通のカウンセリングとなんら変わりはないな。 潰す必要はないのかもしれない。
医師の話では、神のごとき崇め方だったらしいから、どんな暗示をかけるのかを、探る必要があるな。
よし、後で連絡帳に書いて・・・・ おい。 ほんとに大胆な奴だな、若奥さんは。 まいった。

「ねえ、俺を遺族のヒトだと思って、同じように暗示にかけてみて? 無駄だと思うけど。」
「残念ながらそっちの暗示はキヨウに絶対かからない。 強く相手を思わなくては無理だから。」
「ちぇ! 過去を忘れるより、生きる希望が欲しかったのに! 自己暗示の上に重ねがけするんだね?」
「ははは、そう言う事だ。 キヨウ、いずれ知る事になると思うから。 今夜おれの部屋に来い。」

・・・・・こいつは驚いた。 潜入二日目にして、協会の幹部 セキの部屋に招かれるとは。
どんどん探ってくれるのは嬉しいが、若奥さんはおれが近くにいて見張っていると思っているのか?
何かあった時、すぐに助け出してくれるとでも? 一体どこからくるんだ、この重度の信頼感は。
忍び崩れがいるから、警戒して3キロ離れているんだぞ? 仕方ない、気配を殺して近くに行くか。




なんか知らんが、無二の信頼を寄越されているらしい。 チャクラの無駄使いは嫌だが移動する。
気配を消して建物の側に行こうとしたら、見知った気配がした。 間違いない、カカシとテンゾウだ。
おれのサポートに、と言った時から薄々こうなる気はしていたんだが。 まさかこんなに早いとは。
まだ二日しか経ってないだろ? 自分らの任務を早々に終わらせて来たのか? ここまでとはな。

「・・・・・・なあ、一応聞くぞ? なんでここにお前らがいるんだ?」
「ワァ、カオル、すっごいイヤそうな棒読みだネ。」
「あ、ちゃんと三代目の許可は取ってありますよ?」

「・・・・・そうか、ならいい。 ひとこと言って置く。 自業自得だからな?」
「「自業自得??」」
「若奥さん、背中見られて仕方なく、不幸な生い立ちの青年になってたぞ?」
「「生背中みせたの?! 敵に?!」」

「イルカ、ナニしてんのっっ!!」
「イルカちゃん、触らせたの?!」
「・・・・・・・噛むなと言われただろうが。」
「「イヤ〜〜〜〜〜っっ!!!」」