精霊が宿る樹 2
@BC
DEF
GHI
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俺は最近、じっちゃんに言われて受付も手伝っている。 潜入任務を受ける度に噛みつかれるから。
エロ兄弟は、俺の潜入任務の前の日に、必ず首の回りに歯形をつける。 しかも消えないヤツ。
チャクラを込めて噛むから全然消えない。 いくらチャクラの無駄使いだと言っても聞かないんだ。
だからじっちゃんは、“仕方ないのう、受付と書類整理を手伝ってくれ”って俺に言った。
「ようこそ木の葉の里へ。 本日はどのようなご依頼ですか?」
「あの・・・・ 面をつけた忍びを雇うには、どれぐらいの・・・・」
「面・・・ 里の暗殺部隊ですね。 火影の直属部隊ですよ。」
「うわ、高そう・・・・ とてもじゃないけど払えそうもない・・・・」
この人、暗部を雇いたいのか。 確かに暗部は高いけど、でも火影様の直轄部隊だから大丈夫。
木の葉の里は、いわゆる歩合型請求。 たくさんもらっても大丈夫な人には高額請求するんだ。
けど、支払い能力の低い人には、サービスのような金額で、任務を請け負う事もしばしばある。
名のある大名絡みじゃない限り、火影様に事情を話せば、暗部を動かしてもらえるかもしれないよ?
「どうしても面の忍びをご指名で? 暗殺なら里の中忍以上で十分ですよ?」
「いや、あの・・・・ 暗殺とか、そういうのではないのですが・・・・」
「?? 暗殺希望じゃないのに・・・・・ 暗部を??」
「あの、そういう人だとは思わなかったので・・・・ つい・・・・。」
ん? この人、暗部に知り合いがいるのか?! じゃぁ、じっちゃんが受けてくれる可能性大だ。
誰かのリピーターかも?! ちょっと待ってて下さいね? 今、火影様を呼んで来ますから。
正規の上忍は、結構指名される事が多いんだ。 丁寧な仕事をして、信用を勝ち取ってくるから。
ふふふ、暗部にリピーターがついたって知ったら、じっちゃん喜ぶな、きっと! 三代目〜!
「ほう。 猿面がのう・・・・ うむうむ。」
「あの人のおかげで、本当なら腐るのを待つだけの内臓が、維持できたのです。」
「あヤツは氷遁使いでしてな。 ほほほほ、冷凍保存はお手のモノですじゃ。」
「あの時の瞬間冷凍で、たくさんの人の命を助けられました。」
うわ〜、カオルさんだったのかぁ・・・・ ひょっとしてウチのふたりかな、とか思ったけど、残念。
じっちゃん、嬉しそうだ。 これは・・・・ 割引サービスで暗部を動かすな、間違いなく!
・・・・・・ほら。 ね? まぁ、カオルさんにしてみたら、寝てても大丈夫そうな偵察任務だけど。
暗殺任務じゃないから、どんどんこの場で話が進んでる・・・・。 後で伝令に走らされそう。
・・・・・って、やっぱり! はい、では俺はこれから猿部隊長への伝令に走って来ます。
じっちゃん、カオルさんの人助けの話、もっと詳しく聞きたいみたいだ。 ほんと嬉しそう!
カオルさんは、ウチのふたりと同じく、猿班の部隊長。 戌班と猫班は、火影様の両腕と呼ばれている。
暗部の部隊は四つに別れていて、他に猿部隊と酉部隊があり、ちなみに火影様の両足だと呼ばれている。
俺は暗部の部隊長の嫁さんになったから、あれから暗部の伝令にもよく走らされる。 こんな感じにね。
暗部の部隊長クラスっていうのは、ずば抜けてる。 なにがって、実力もそうだけど・・・・ 個性が。
カオルさんは、なんていうか・・・・・ アレだ、女泣かせ、とかいうヤツ。 でも本人は無自覚。
渋い声で物静か。 さり気なく優しかったりするから、勝手に向こうが惚れちゃうらしい。
なんとも羨ましい限りだ。 ウチのふたりも普通にしてたら、めちゃくちゃモテるのに・・・・。
どっちかっていうと、恐れられてたりするんだよね。 あのセックスへの執着心は、確かに恐怖だろう。
頑張って反抗しても無駄だって、この半年で思い知らされた。 目下、恐ろしく濃い性生活を体験中。
「カオルさ―ん! ご指名の任務ですよー!」
「・・・・・そんな大声で呼ばなくても聞こえる。」
「あはは! すみません、つい、俺も嬉しくて! はい、これ火影様からです!」
「・・・・・・おれに偵察? 花崎医師・・・・ 知らんな・・・・」
火影直属 暗殺戦術特殊部隊 猿班 部隊長。 この人が今回の依頼人が指名したカオルさんだけど、
え?! 知らないんですか?! でも、あの先生は確かに、これは・・・・・ ひょっとして・・・・?
・・・・・ははは。 よくよく聞いてみると、あの先生の話とカオルさんの話は微妙に食い違っていた。
人助けは・・・・・ ほんの偶然の産物だった。 火影様が言ったように、カオルさんは氷遁使いだ。
何人かまとめて暗殺した後、冷たいチャクラを纏ったまま、列車事故の現場を通っただけ、らしい。
カオルさんはただ、横転している列車が邪魔で飛び越しただけ。 その結果、大勢の人が助かった。
花崎医師が三代目に話していた内容から察すると、カオルさんは名乗らず、無償で人助けをして消えた。
夜の列車事故で救急対応も遅れていた為、横転した車両の乗客は、内臓破裂を起しかけていたという。
駆けつけた花崎医師が諦めかけた時、暗闇の中に列車を足がかりに飛んだ、猿面をつけた人間を見た。
横転した列車は凍え、中の乗客も冷凍され、仮死状態になった。 今のは忍びなのか、だとしたら。
ここは火の国。 忍びならば、きっと木の葉に違いない。 ・・・・とまぁ、こういう訳。
これ・・・・じっちゃんに話さない方がいいな・・・・。 じっちゃんは暗部が褒められると喜ぶ。
もちろん、正規の忍びが感謝されて、褒められてもそうだ。 ようは子供の成長を喜んでいる親と同じ。
暗部の隊員は殺しがほとんどだから、人から感謝される事は少ない。 だから余計に嬉しがるんだ。
前に俺に言った事がある。 殺した数より、後に助けた命を意識してくれるといいんじゃが、って。
「・・・・皆さんがいてくれたおかげで、生きている者がたくさんいます。」
「・・・・なんだ?? 新しい標語か?」
「ぷっ! くすくす、いえ。 とにかく任務だそうですよ? いってらっしゃい!」
「ああ、行ってくる。 じゃぁ、な。」
暗部は皆、ひとこと任務だと言えば、ほぼ何でもこなす。 幼児の暗殺だろうが老人の暗殺だろうが。
殲滅任務や、討伐任務はもちろん、偵察任務も、人命救助も。 じっちゃんは、任務でなくても、
人命救助は己の意志でやって欲しいと思っているみたい。 暗殺専門に訓練された隊員だとしても、だ。
人殺しと人助けは、相反するもの。 そんな矛盾、忍びならみんな抱えてる。 どこかで切り替えなきゃ。
その矛盾に悩み道を誤る忍びも多くいるが、そうならない暗部は、常に冷静で優秀な忍びのエリート集団。
だから部隊長のウチのふたりも、ホントは凄いんだよ? 強行セックスマシーンだけどな・・・・ ははは。