精霊が宿る樹 9
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ボクがセキの頭を覗く前に、カオルさんが殺してしまった。 ほんとにこの人は、是か非かしかない。
カカシ先輩は少し考える。 ボクは結構考える。 なにがって、暗殺対象をいつ殺そうかな、って。
カオルさんは、使い道がどうとか、一切考えない。 里に得なら生かす、害なら殺すの二者択一だ。
実に分かりやすい。 仲間は里にとって得な者達だから守る。 それ以外はどうでもいいって事。
さっきは思わず任務の邪魔をしちゃったけど、イルカちゃんを保護しようと思ったのも、里の為。
何かあったらボク達が騒いでうるさいから、っていうのもあると思う。 全部が木の葉隠れの為。
でもね? もうめんどくさいから皆殺しにしちゃうか、っていうのも、実はこの人が一番多いんだよ?
ここはこの建物の中庭。 小さな噴水、手入れされた草花、それと・・・・ 中心に大きな樹がある。
セキから情報を抜いたカオルさんと、頭を覗いたカカシ先輩から、輪廻の光りのカラクリを知った。
カカシ先輩は結構えげつないよ、と言っていたけど本当にそう。 被害が大きくなる前で良かった。
この綺麗な中庭の中心に植えられている一本の針葉樹に、大きな蛾が一匹住みついている。
いわゆる里で言うところの、使役蟲だ。 蟲使いの油女一族なら、正式名称を知っているかもね。
昔どこかの忍びに使役されていた生物だろう。 頭に一本の擬態触角がついている大きな肉食蛾だ。
先っぽが羽のついた人型になっていてポンポンと跳ねる。 気ままな精霊のように見えなくもない。
「こいつが・・・・・ 問題の肉食蛾か。 はぐれ使役蟲か何かだろうな。」
「ナルホド。 この触角の先についてるの、おとぎ話に出てくる精霊みたいだよネ。」
「擬態触角は捕食の為の知恵ですね。 普段はこれを囮に、獲物を捕らえているんでしょう。」
「触角の先だけを遠くから見せられたら・・・・ 精霊が宿る樹だと思うかもしれませんね。」
本来なら、どこかの森にいたんだろうな。 どこをどう来たのか、この樹に住みついてしまった。
この蛾を最初に見つけたのが、組織の理事長を名乗る女。 ここは彼女の生家、協会なんて存在しない。
あの女は、美しい精霊のような蛾の触角に魅せられた。 そしてこの肉食蛾を飼い始めたんだ。
餌には困らなかっただろう。 保健所などで処分する動物を譲ってもらえばいいだけだ。
全ては蛾の繁殖の為。 ひょっとしたらこの蛾の鱗粉には、軽い保護幻覚作用があるのかもしれないね。
・・・・噂をすれば、か?! 気配は消していたので、こちらに気付く事はないと思うけど。
カカシ先輩とボクは、暗闇に溶け込んで身を隠した。 カオルさんは・・・・ え? セキに変化?
珍しい。 カオルさんでも何か確かめたい事があるのかな? まあいいや、ボク達は影に徹しよう。
「キヨウ? そんな所で何をしているの?」
「あ、理事長。 今、セキさんに精霊の話を聞いていたんです。」
「キヨウが、自分も生きる希望が欲しいと言うから、先に教えとこうかな、と。」
「そう。 足が速いキヨウには、実はセキと一緒に、回収をお願いしたかったの。」
「回収? 何を盗ってくればいいですか? 俺、盗みは得意中の得意ですよ?」
「ふふ、まだそこまで話していなかったのね? いいわ。 あのね・・・・。」
この女も殺しとくか、ってならなかっただけでも凄い。 セキといる方がキヨウは信用されるからね。
カオルさんが聞きたかったのはこれだな。 本来なら、潜入部員のイルカちゃんが聞き出せた情報。
ボク達が乱入しちゃったから、中途半端な情報になっちゃったけど。 殺したのはカオルさんだし。
また三代目から、助けられる命は・・・・ とかなんとか辞令があったんだろうな、きっと。
「そうか。 それだけ聞ければいい。 木の葉の里への依頼だ。 死んでもらうぞ?」
「?? セキ? 何を言って・・・・・がぁっっっ!!!」
「女は始末した。 解散だ、任務協力お疲れさん。 後は全部、おれの仕事だ。」
「・・・・・・カ、カオルさん・・・・。」
カオルさんは遺族の中で、まだ助けられる命があるかどうかを、確認したかっただけなんだ。
生餌にされているとも知らず、つまらない暗示をかけられているだろう、哀れな者達の助命率を。
暗示は幻術と違い、かけた人間が例え死んでも解けない。 キーワードがあるからね。
けど、さっきの話から想定すると、今回助けられる命は皆無だ。 あえて元に戻す必要もない。
「カオル、この建物にいるヤツらの始末は、オレ達がしておくヨ。」
「ん? どういう風の吹きまわしだ? 非番だろ?」
「イルカちゃんと一緒に帰りたいから。 決まってるじゃないですか。」
「・・・・聞くまでもなかったな。」
理事長が言った回収するモノとは、蛾の事。 寄生型の蛾。 生き物の体内で養分を摂り成長する。
卵を飲ませていたんだ。 大切な人を失い希望を失くした人間につけ込み、生きた繭にする為に。
セキに死んだ者の魂だと暗示をかけられ、箱に入った紙人形を大切にしているだろう、遺族を。
『これは、死者の魂と会話が出来る丸薬なんです』そう言ってあの女は、蛾の卵を飲ませていた。
「あのこれ・・・・ 遺族、というか、被害者の住所録です、写しておきました。」
「・・・・ふっ。 さすがだな。 手間が省けた。」
「あと・・・・ 依頼人への報告書は、俺が作成します。」
「痒いところに手が届く、か。 ではそれも頼む。」
「おれは今からこのリストの順に暗殺してくる。 ・・・・じゃぁな。」
「カオルさんっっ!! ぐすっ。 ・・・・いってらっしゃい。 ご武運を。」
「・・・・・随分と泣き虫な潜入員だな? ・・・・ふっ。」
「カオル、あげないって言ったよネ?」
「ボク達のだって、言いましたよね?」
「・・・・いい事教えてやる。 そう言うのを“依存”と言うらしいぞ?」
そんな事言われなくても知ってますっ! ボク達自身、驚いているんですから。 ね、カカシ先輩?
イルカちゃんが側にいない人生なんて、想像できない。 もう立派なイルカ中毒ですもん、ボク達。
ってか、イルカちゃん、なんでそこで泣くかな?! もう既に寄生されてるんだから助からない。
死を待つだけ、そういう者達を殺しに行く事は、暗部じゃ当たり前の仕事なの。 泣かないでってば!