死人〈しびと〉探し 2   @BC DEF GHI JK




Bランクの任務依頼を単独で頼まれた。 失せモノ探しは本来ならCランク。 今回の失せモノは、人。
行方不明者の捜索だけなら下忍のスリーマンセルでいい。 けど、探すのは死人、遺体を見つけるらしい。
潜入部隊に配属になってそれこそいろんなとこに潜ったけど、単独任務は始めて。 キンチョーするなぁ。
やっとじっちゃんに一人前だと認めてもらったみたいで、嬉しい。 へへ、がんばろっと!

依頼人は花街の芸子さん。 仕送りしてくれてた兄から連絡が途絶え、見舞金だけが届いたそうだ。
【不慮の事故に巻き込まれ死んだ奉公人の家族へ】みと屋からのその見舞金だけでは暮らしていけない。
貧しいけれど、兄想いで妹想いの娘さん。 次は自分が残った家族を養わなければ、と身売りした。
そんな強く優しい彼女の為にも、三代目火影は遺体捜索を引き受けた。 ・・・・う〜ん、良い話だ!


今回潜入する“みと屋”は、ここ十数年で頭角を現した染物屋。 みとの黒色と言えばシックで有名。
染料を幅広く商売に生かし、主人の水戸〈みと〉シロウは、たった一代でここまで成功を収めた人物だ。
見る角度によって光沢が違って見える不思議な黒色は、嫌みがなく何と合わせても違和感がない。

下見に来たら、店員募集の張り紙を出しているところだった。 これはもう、ぶっつけ本番でいくしかない。
こんなチャンスはない。 一度里に帰ってとモタモタしてたんじゃ、誰かが採用されてしまうかも、だ。
なにしろ有名な染物屋だから、働き手は掃いて捨てるほどいるだろうし。 ・・・・あ、カモ発見!

「よいしょっと。 ちゃんと金も腹巻きに突っ込んどいたし。 風邪引かない様に藁で巻いたし。 OK!」

俺と背格好が似ているから、この男を剥かせてもらおう。 悪いけど、後で新しい服を買って帰ってね?
だいたいこの時間の裏路地は、端っこに2〜3人転がってるもんだ。 深酒して爆睡してるヤツ。
善は急げ、チャッチャか着替えて、みと屋に面接を頼もう。 もしこのまま採用されたら動きやすくなる。
愛用の風呂敷に忍服を包み、肩から袈裟掛けにした。 どっから見ても田舎から出てきました、な雰囲気。

忍術は使わずに潜ったほうがいい。 切り札は温存しておくのが忍びの鉄則。 俺達潜入部隊の隊員は特に。
もしどこかに他里の忍びがいても、チャクラを使ってなければ、発見される可能性はほとんどないから。
諜報とは、かくも地味な活動なのだ。 俺にもなんか必殺技かなんかあったら、戦場で活躍できるのになぁ。
かっこいい技名とか叫びながら、敵をバッタバッタとなぎ倒す。 里に帰ったら女の子にモテモテだ!

「あ、暖簾が出た! よし、行くぞ!」

・・・・・すんなりと採用になってしまった。 まさか主人の水戸自らが、面接をしてくれるなんて。
まあでも、いい感じに潜れたってコトで良しとしよう。 旦那様は30〜40歳ぐらいと、まだ若い。
父が事故に合い働けない、弟もいて、家族の為に安定しているお店で働きたい、と誠実さをアピール。
そうやって家族の為に頑張る若い人を、ぜひ応援したいと共感してくれ、即決だった。 ナイス、俺!

みと屋は信じられないぐらい裕福だ。 店の裏には大きな庭があり、そこから自宅まで続く道がある。
小さな国の小大名も顔負けの中庭だ。 庭の中には住み込みの奉公人の長屋があり、大小様々な蔵もある。
中でも黒塗りの大きな蔵は、たくさんある蔵の中で、ひと際存在感をドーンと主張していた。

「いいかい、ひとつだけ守って欲しい。 あの漆黒の蔵には近付かないでもらいたい。」
「はい、お約束は必ず守ります、旦那様。」
「ははは、今時真面目な子が来てくれて、私も助かるよ。 皆と仲良くするんだよ?」
「はい。 この御恩に報いる為に、一生懸命働きます。」
「奉公人は奉公人同士、後は、番頭のタツキに聞くと良い。」

・・・・・いきなりだったから人物設定はちゃんと考えたものの、名前を考えるのを忘れてた。
つい本名を名乗ってしまった・・・・・。 これからは名前を最初に考えないと。 失敗は成功のもと!
まあ、一般人は名字を持ってない事が多いから、ただの “イルカ” で通す事にしよう。

「今日からこの店の一員だ、イルカ君、17才。 タツキ、後は頼んだよ? 私は出かけるから。」
「はい、いってらっしゃい旦那様。 イルカ君、わからない事は、何でも聞いてくれていいよ。」
「行ってらっしゃい旦那様。 はい、タツキさん。 よろしくお願いします。」

旦那様はこれから他国との取引の話があるからと言って、番頭のタツキさんを呼び、俺を紹介してくれた。
あ・・・・・この人、お店に入った時に、対応してくれた人だ。 物腰が柔らかくて感じが良い人。
みと屋は店も主人も奉公人も、みーんないい人。 ・・・・・・けど、全部がそうなんて出来過ぎだよね?