毒を喰らう 10
@AB
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JK
先回りして城に戻り、風呂掃除を済ませる。 肉体関係も無いのにアツアツなふたりのお帰りだ。
出迎えたオレ達に、白金城下町名物 藤饅頭とやらを土産にくれた。 オレは甘いモン嫌いなんだヨ!
そんなことより、さっきコヒルの部屋に式が来てた。 コレは緊急だろう、いくらなんでも早過ぎる。
“返答の式が来てる確認を”と、コヒルに囁いた。 香月はヤマトが気を引いてくれている。
「ははは、こんな所で食べるな。 ちゃんと部屋にもどって食べなさい。」
「す、すみ・・・モゴモゴ・・・ません・・・ゴックン。 つい・・・。」
「あははは、おいで、俺の部屋で一緒に食べよう。 もう仕事は終わらせたんだろ?」
「「もちろんです!! 今日もくつろいで頂けるように、ピカピカです!」」
「では私はその風呂で、リラックスして来るとしよう。 コヒル、後で背中を流しに来てくれ。」
「はい。 香月様。」
香月の出生の件は予想していたが、火影様の決断には・・・ さすがに恐れ入ったヨ。
こんなに式が早く来たのは、ミフネ様に報告してないから。 ミフネ様には詳細を知らせるな、とある。
知らせてしまったら近い将来、香月キリトが大将になってしまう。 鉄の国は強力な国になるだろう。
ミフネ様には、暗殺依頼完了のみを報告する。 ご希望通り、香月キリトの“衰弱死”を。
「オレ、ひょっとしたら、香月の暗殺依頼がなくなって、任務が中止になるかも・・・って思ってた。」
「俺が・・・ ナギだけを取り除く事が出来ると知れば、ミフネ様は任務を中止させるでしょう。」
「そうか・・・。 キリトは将来有望の猛将ですから、火の国にとっては邪魔な存在、ですもんね。」
そう、綱手様の報告によれば、やはり香月は一卵性双生児だった。 二重人格症ではなく、全くの別人。
香月を産んだ母親は、出産と同時に死んでいた。 その時の担当医に、瞳術をかけて聞き出したそうだ。
一卵性双生児を身ごもった母親は、その出産に耐えられるだけの体力がないのに、帝王切開を拒んだ。
それなら、子供のどちらか一人を諦めろと言われたが、ここでも母親は、どちらも諦めないと言った。
鉄の国は、侍だけでなく女もそうなのか。 死ぬと分かっていて、普通分娩を選択するとは、全く謎だ。
とにかく、その母親は、砂の国の医療忍者を雇い、ふたりの赤ん坊をひとりにするという暴挙に出た。
出産時に立ち会い、産道を通って来た赤ん坊を少しずつ混ぜ合わせる。 そうして産まれたのが香月だ。
香月は正真正銘、ふたりの人間。 ひとつの肉体を共有しているだけで、あの中にはふたりいる。
「イルカさん。 【殺す順番を間違えるな】とは・・・??」
「綱手様は、俺がキリトもすでに取り込んだんだと、思ったんでしょう。」
「そうか・・・ キリトを先に殺してしまったら、あの肉体の所有者は、はれてナギだ。」
「そんな恐ろしいコト考えたくありませんね、快楽殺人者が香月を名乗るなんて・・・・。」
「では、ナギを先に殺しますね。 キリトには影響がないと判明しましたから。」
瞬きを一つして“殺しました”とイルカ先生は言った。 ・・・たったこれだけで暗殺完了だ。
ナギを殺してくれたおかげで、今夜コヒルはアイツに抱かれなくて済む。 少しホッとしてる・・・。
死体を実際に確認する事は出来ないけど、どういうふうに殺したの? って聞いてみたら、
イルカ先生は氷のような冷たい笑顔で“バラバラに斬って獣に食わせました”そう言った。
「そろそろ香月様の所へ行きます。 めげずに誘惑してみますよ。 ふふ。」
「まあ、あの男なら危険はないカナ。 オレ達はここで待機してるネ?」
「でも会話は聞いています、念のため。 何かあったらすぐ動きますよ。」
「はい、ありがとうございます。 心強いです。」
そう言い訳したけれど、実際はあの男と一緒にいるコヒルを、見たくなかっただけかもしれない。
それはヤマトも同じ思いだろう。 キリトに抱かれるコヒルを想像するだけで心が痛いヨ。
男は肉欲には勝てない、オレ達のようにネ。 だがアイツは、コヒルを心で包みたいんだヨ、愛情の。
緩やかに優しく、大切に愛しんでそっと抱く。 それはオレ達ができなかったコト。 それをアイツは・・・・
「なに・・・ お前、泣いてんの?」
「先輩こそ・・・。 泣きたいけど、泣けないって、顔してますよ?」
「・・・・・ミフネ様に知らせる? そうしたら・・・ 間違いなく、暗殺中止だヨ?」
「もし、そうできたら・・・ イルカさんはキリトの愛に抱かれずにすむ・・・・」
「・・・・・任務に私情をはさむなんて、どうかしてるね、オレ達・・・・」
「出る杭は打たれる・・・・ その杭が太く大きいほど、目ざわりです・・・・」
「当たり前。 上層部や綱手様が。 次期 大将候補を潰せるこの機会・・・・ 見逃すはずがないヨ。」
「キリトは優秀すぎて危険。 生かしておいたら火の国を凌ぐ大国へと鉄の国を導くかも、ですね。」
香月、恨むなら・・・ お前の事を・・・・ 木の葉の里に殺す口実を与えたミフネ様を恨め。
独りよがりで近付いたあげく殺された小娘の言葉を信じ、二重人格だと判断した、鉄の国の大将をネ。