毒を喰らう 12   @AB CDE FGH IJ




「今・・・・ 息を引き取らせました。 任務完了です・・・・。」

イルカ先生が鉄の国から帰ってきて二週間。 あれから少しずつ弱らせ、今、香月を殺したそうだヨ。
鉄の国 大将 ミフネ様にやっと報告できる。 香月 キリトの暗殺完了、ご要望通り衰弱死、って。

ミフネ様の思惑は成功だ。 悲劇の恋物語は、瞬く間に鉄の国に広がり、民衆の同情を集めている。
死してなお、香月 キリトは、侍の中の侍だと、国中の民が口をそろえて言うだろうネ・・・。

「でもイルカ先生・・・ 思い切ったネ、綱手様も見てたのに。」
「ビックリしました、まさかイルカさんの髪だとは、思いませんでしたよ。」
「・・・・・・鉄の国は火葬ですから、一緒に燃やされると思います。」
「「・・・・・・。」」

その通りだ、鉄の国は火葬。 故人の大切にしていたモノを、棺に一緒に入れて燃やす。

先生は里に戻ってすぐに、城に送る予定の偽物の“抜け忍の髪”を、自分の髪とすり替えた。
五代目から式を受け取った時、そうしようと決めてたんだって。 香月の棺に入れるつもりだったと。
木の葉の犠牲になってもらうのだから、それぐらいの誠意は見せないと申し訳ない、そう言って笑ってた。

ナギの時のような冷たい瞳ではなく、どこか寂しそうに、遠いところを見ているような微笑だった。



実は昨日、あの兄弟が里の受付所に来た。 鉄の国からの遠い道のりを、小さな足で歩いて。
心換身の術の最中の木の葉での記憶はもちろんない。 オレ達が過ごした二日間を上塗りしたから。
城の中で過ごしたオレ達の記憶をネ。 香月に頼まれ、コヒルを部屋から連れ出したコト。
風呂掃除を頑張ったコト。 藤饅頭をお土産にもらったコト。 コヒルの部屋で一緒に食べたコト。


『忍術とやらで、城の者からあの忍の名と顔を奪った事は、鉄の国の皆が知っている、卑怯者!!』
『香月様はもう長くない。 せめて、処刑されたという忍の名前だけでも、教えてくれませんか?』

綱手様はそんなことで微動だにしなかったが、横に座っていたイルカ先生が、彼らに優しく応対した。
もう処刑されたんだから別にイイですよね? 火影様、と言いおき“コフジ”という名を教えた。

五代目は横で会話を聞いてたケド、黙認。 毒の任務名“コヒル”と教えた訳ではなかったからネ。
“香月の思いにうたれた”と、後から木の葉が送ろうとしていた“抜け忍の髪の束”も見て見ぬフリ。
イルカ先生はその髪の束を兄弟に渡したのヨ。 綱手様の目の前で。 これも持って行きなさい、と。


『これ・・・ コフジ様の・・・ 髪の束ですか?』
『忍びの長、火影様・・・・ ありがとうございます。』
『あなた達にとっては、ただの抜け忍かも知れませんが、コフジ様は、命の恩人です。』
『侍はどんな事があっても、受けた恩は忘れません。 僕達はコフジ様が大好きでした。』
『卑怯者だと言って・・・ ごめんなさい。 この情けも忘れません、ありがとうございました。』
『香月様は、本当にコフジ様を愛してらっしゃいました。 きっとお喜びになると思います。』


『ふん! カカシ、ヤマト!! このガキどもを、鉄の国に送ってやりなっ!!』
『・・・・わかりました。 おいで、オレ達が駆けたら、一日で着いちゃうよ?』
『では、行ってきます。 はい、君はボクの背中に。 それを落とさないようにね?』
『『・・・はい!! ありがとうございます!!』』

鉄の国は、ふたりの話で持ちきりだった。 あの城下町の名所【大藤棚】は、今や恋人達の聖地。
あの場所で愛を誓い合うと、死んでからも一緒になれる、という御利益があるらしいヨ。

オレ達があの兄弟を送って行ったから、香月は死ぬ前日にコヒルの髪を手にすることが出来た。
一度口づけた髪、香月なら本物だとすぐに気付いたはずだヨ。 “コフジ”と名を呼び逝っただろう。



「はい。 ・・・・・イルカ先生、コレあげる・・・。」
「・・・・・・藤・・・ ですか?」
「昨日、あの藤棚から、失敬して来ちゃいました。」
「っ! ・・・・・今だけ・・・・ すみません、 泣かせて下さい、今だけ・・・・」


ターゲットには一切容赦しない毒。 キリトは悪人じゃない、むしろ、無二の英雄になる資質を備えてた。
実際、あの双子の片割れのナギには、容赦がなかったモン。 なんの戸惑いも無く、あの冷たい微笑で。

毒を動かす殺しは、ターゲットが悪人の場合が多い。 同じやり方で殺してくれ、仇を、とかネ。
なにしろ、その通りに殺す事が出来るのだから、理不尽な裁きで泣きを見た人の依頼がほとんど。
オレ達暗部より、殺しの理由がハッキリしてて正統性がある。 今回のはさすがにキツかっただろう。


「うっ・・・・ うう・・・ カカシさん、ヤマトさん・・・・ 俺を・・・抱いてくれますか?」
「・・・・うん。 いつだって抱いてあげるヨ? イルカ先生から求めてくれるのは嬉しい。」
「あなただって、ボク達を利用して良いんです。 イルカさんを抱けるのは、ボク達だけですから。」
「うぅ・・・・すみません。 すみません。 うっ、ごめんなさい、ごめんなさい・・・・。」


イルカ先生はオレ達に謝ったんじゃない。 きっと・・・ あの侍に、謝ったんだヨ、香月 キリトに。
全ては木の葉の里の為、火の国の為。 鉄の国にあんな優秀な人材を残しておくわけにはいかない。
諸国に影響を及ぼす大国になってもらっては困る。 将来も鉄の国は、中立国であってもらわないとネ。

物事は死んでから後悔しても遅い。 香月は結局、毒を抱けなかった。 忍びにあんな馬鹿な男はいない。




《忍びの里》の序章でした。 この何ヶ月か後、そんな馬鹿な忍び 政木リュウガの登場とあいなります。   聖