毒を喰らう 11
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ボク達は今・・・ 聞きたくない会話を聞いている。 浴室での香月とコヒルの、恋人同士の会話。
夕食も外で済ませて来たふたりは、リラックスタイム突入だ。 お互いの背中を流し合っている。
なんで、性交も無いのにこんなにイヤラシイのか。 中から聞こえる音と会話が、全てをモノ語ってる。
あ、髪に口づけた、とか。 頬をなでた、とか。 指をからめた、とか。 吐息がかかるくらいの距離で。
はいはい、ようござんしたね、両想いになれて。 ・・・・忍びのイイ耳が腹立たしいよ、まったく!
ボクも先輩も、何かしてないと落ち着かない。 香月からの土産、藤饅頭を無言でモリモリ食べる。
先輩が甘いモノを口にするところを、始めて見た。 味わってはいない、噛み砕いてるって感じ。
・・・・あれ? ・・・・これは・・・・ コヒルが香月に・・・・ 口づけされた??
急展開に驚いた。 ここが侍の我慢の限界だったのか、香月もやはりただの男だった!
「先輩、なにしてるんですか! 性交に持ちこんだら毒の背中を守らないと!!」
「お前こそ。 今回は危険はないでショ? あえて幸せそうな性交を見に行くつもり?」
「・・・・・。 それもそうですね、 ほんと、今回はイレギュラーだらけです・・・。」
「フー、オレはもう、自虐趣味を卒業したんだーヨ。 見に行くなんて拷問・・・・ ハァ?!」
「なっ?! ・・・・・・・・サムライって。 大馬鹿ヤロウですね。」
てっきり、これからセックスに移行するのだと思いきや、またあの厄介な自制心の再登場だ。
“すまん、お前を大切にすると言っておきながら・・・”香月はそう言ってコヒルを抱き締めただけ。
“俺は今すぐにでも、あなたと一つになりたいのに”コヒルの甘い囁きにも屈しない、鋼鉄の自制心。
何がそこまであの男を踏み止どまらせるのか。 毒の唾液を味わったはずなのに・・・。
男に興味のない双子の片割れは、一瞬で毒の唾液に堕ちた。 快楽殺人者のアイツでさえ。
また時間がかかるのか? それまで、あのふたりを見続けなきゃいけないなんて、何の拷問なんだ?
ボク達は一度戻ったほうが良いのかも。 毒が安全なら、ここに留まらなくても良いのでは?
そんな考えが一瞬浮かんだ。 中立国とはいえここは里外、毒を護衛するのがボク達の任務なのに。
今、香月はコヒルの部屋の前にいる、もちろんコヒルも。 オヤスミのキスでもするんだろう、ムカつく。
「お前のその目から、苦しみが消えた時・・・ 私はお前を抱く。 よいな、コヒル。」
「・・・・・こう・・・づき、さま・・・。」
「明日もまた、一緒に城下へ出かけよう。 おやすみ、私のコヒル。」
「はい、お供します・・・・ おやすみなさい、キリト様・・・ ん、んん、っは・・・・。」
香月は、コヒルの頬と唇に柔らかに優しくキスをして、自分の部屋に戻って行った。
さっきのあの台詞には驚かされた。 コヒルの目に、苦しみが見えると言う、香月の言葉に。
毒の・・・ 違う、イルカさんの苦しみが・・・ コヒルを通して、香月に伝わっていたんだ。
だからなのか? だから、アイツはコヒルを抱かないのか?! そんなの・・・ 一生なくならない!
コヒルは・・・ 毒はこの先もずっとその体が道具なのに、苦しみが消えるはずないじゃないかっ!!
「・・・お待たせしました。 取り込みましたよ、香月キリトを。」
「どういうこと?! いつの間に?! まだ性交してないじゃないっ!」
「えっと・・・ 全部で、二回キスしただけですよ・・・ ね?」
「ナギをさっきまで頭に置いてましたから、俺の脳がそのDNAをまだ記憶していたんです。」
部屋に入るなりイルカさんは、取り込みに成功したと告げた。 一卵性双生児というのが良かったらしい。
肉親のDNAは99%一致する。 一卵性双生児の一致率は99.9%・・・・ ごく僅かに違うだけ。
一度目のキスで、毒の脳内でクローンは、ほとんど形になってたらしい。 そして今の二度目のキス。
香月から二回唾液を摂取しただけで、脳内にキリトのクローンが完成した。 まさに死の接吻だ・・・。
「じゃあ、予定通り・・・って、一日ずれたけど、撤収しよう。」
「・・・・・はい。 帰りましょう、木の葉の里に。」
「イルカさんは・・・ それで後悔しないんですか?」
「俺は・・・・ 里の暗殺道具、毒です。 それ以外の何者でもありません・・・・。」
「「・・・・・・・・・・。」」
そしてボク達は、鉄の国を後にした。 毒が潜入する際に仕込んでいた薬を、城の井戸水に溶かして。
毒はいつも“コヒル”と名乗る。 名も顔も忘れさせる為、忘却の薬を常時、歯に仕込んである。
鉄の国は中立国。 来る者拒まず、去る者追わず。 だから国外に出た抜け忍を探す事は御法度。
香月 キリトや城で働く者達は、忘却の薬入りの水を飲み、コヒルの顔と名前を、忘れるだろう。
思い出せないが、木の葉の抜け忍がこの城に匿われていた事、自分達と生活をしていた事は忘れない。
白金城が匿っていた元木の葉の忍びは、追い忍が木の葉に連れ戻し処刑したと、香月に書状を送る。
もう二度と逢えぬ、自分の愛した忍びを想い続けて、城主 香月 キリトは衰弱し、やがて死ぬ。
毒がそのイメージをキリトのクローンに伝えるから、死に方はその通りになる。 依頼人の希望通りに。
もちろん木の葉はアフターケアも忘れない。 香月の死を聞いたら、コヒルの髪をひと房送る予定。
亡き城主の思いにうたれ、本来、里の外に出してはいけない遺体の一部を香月の為に送る・・・ と。
これで木の葉の里は、悪役から一気に浮上。 鉄の国での里の印象は、良いモノに変わるはずだ。