毒を喰らう 9
@AB
CDE
FGI
JK
今回はいつもと違う事だらけだ。 潜入日数もそうだし、ボク達がずっと一緒なのもそう。
いつもは毒の“性交の気配あり”の知らせで動く。 ボク達の到着を待って毒は任務を遂行する。
そして何より気に入らない事が。 取り込んだ相手に、もう一度毒を抱かせなきゃならないなんて。
毒が性交をするという知らせは、任務の完了を意味する。 こんな事・・・ 今まで一度もなかった。
「コヒル、いい加減出て来てくれ。 今日は一緒に藤を見に行こうと思っているんだ。」
「・・・・香月様、コヒル様が、どうかなさったんですか?」
「おお、いいところに。 お前たち、コヒルを部屋から連れだしてくれ。」
「コヒル様、具合でもお悪いんですか?」
「いや多分・・・・・ コヒルは拗ねて・・・・ 部屋から出てこないだけなんだ。」
イルカさんは作戦を変えたらしい。 “押してダメなら引いてみな”を実行するようだ。
これで、キリトの方をうまく取り込めると良いんだけど。 相手は侍、果たして効くかどうか・・・。
先輩が香月の出生を知りたがったコトで、何となく読めた。 香月は一卵性双生児かもしれない。
二重人格症ではなく、何らかの形で、細胞が残ったままの双子の片割れが、ナギなのかも。
「・・・・無理やり部屋に入らないのは、コヒル様に嫌われたくないからですか?」
「!! いや、あ、まあ、そう言う事だ。 コヒルには・・・ いつも傍にいて欲しい。」
「へへへ、香月様は、コヒル様が大好きなんですね?」
「ああ。 あの見事な藤棚を、見せてやりたい。 コヒルなら絶対気に入るはずなんだ。」
「「わかりました! 僕達に任せて下さい!」」
ベタな作戦が成功しそうだ・・・。 まあ、あの焦れたコヒルの気持ちを、昨日体感したからね。
信を置く一番の家臣から、大切にしている恋人へと、態度を変えたとしても不思議じゃない。
香月は、あからさま過ぎる誘惑行為を、風呂場で拒絶したから、コヒルが拗ねていると思っている。
性交の為の過程まで見ると思ってなかったから、手助けするボク達としては、実に面白くない。
コヒルを部屋から連れ出す為に、香月にうずくまるように言った。 こうすれば絶対出てくる。
「コヒル様、大変です! 香月様が、突然、腹痛を起こされました!!」
「え! 香月様、大丈夫ですか!! ・・・あ、あれ? 腹痛は・・・・??」
「・・・そういうことか。 いや大事ない、コヒルの顔を見たら、気分が良くなった。」
「「ヤッタね! 成功〜!!」」
「・・・・忍びの俺を、騙しましたね? しかも子供を使って。」
「ははは、そう怒るな。 お前に見せたいところがある。 今が時期だ、藤棚を見に行こう。」
「・・・・・・はい。 喜んで、お供します。」
「ふ、ありがとう、お前たち。 土産を楽しみにしてろ?」
「「はいっ!! 行ってらっしゃい、香月様、コヒル様!!」」
香月はコヒルを伴って、城下町の名所《白金しだれ藤》を見に行った。 ボク達ももちろん後を追う。
城下町では、香月の城主としての人気の高さを、至る所で感じた。 すれちがう皆が、笑顔で挨拶する。
これほどまでに民に慕われている城主が、まさかあんな二面性を持ってるなんて、誰も思わないだろう。
“衰弱死”を希望されたミフネ様。 もしかしたら、この領土に住む香月を慕う民の為かも知れないね。
「なんて凄い!! これ全部が一本の藤ですか? これほど見事な藤棚が存在するなんて・・・。」
「藤の木そのものは、これだけの重さには耐えられん。 棚を作ってやり這わせる、人の手を借りて。」
「この藤はたくさんの人の手を借りて、ここまで見事に花をつける事が出来たんですね・・・・。」
「私も独りではその重さに耐えられん。 だが、お前が傍にいてくれたら、どんな事にも耐えられる。」
「香月様・・・・。」
「コヒル、昨日の事で思い違いをしないで欲しい。 私はお前を、本当に大切にしたいのだ。」
「うぅ・・・・ 香月様、俺は・・・。 ありがとうございます・・・・ うぅ・・・。」
「な、泣くなコヒル、お前に泣かれるのは・・・ 何よりも辛い・・・・。」
こんな紳士的な態度で皆に接しているなら、民衆が熱を上げるのもうなづけるよ。
さすが次期 大将候補。 香月キリトは理想の城主だ。 キリトの人格だけを評価するならね。
ナギの時と違って、セックスもしてないのにもの凄くムカムカするのは・・・ なんでだろう?
聞いてみようと思ったら、カカシ先輩は周りの草をブチブチと抜いて、辺りにまき散らしてた。
そうとうイライラしてる様子だ。 ・・・・今たぶん先輩は、ボクと同じ事を感じている。
やり直せるのなら、あの出会いをナシにして、肉体関係抜きでイルカさんと一緒にいたかった。
けど、ボク達は知ってる。 最高の抱き心地と言われている、毒の体を。 もう遅過ぎるんだよ。