毒を喰らう 4   @AB DEF GHI JK




「叱らないであげて下さいね、香月様。 ふふ、さっきあのふたりが・・・。」
「コヒル・・・ キリトにはまだ抱いてもらえないのか?」
「!!! ・・・ナギ、お前がなぜ・・・。」

おれは、キリトが眠ってからその体を借りる。 コヒルが城に来てから、出番が少なくなった。
せめて半日は動けないと、おれのささやかな楽しみが出来なくなる。 女を弄り殺すコトが。
獲物を釣るのは簡単だ。 キリトの真似して、紳士的に声をかければいい。 自国ではやらないが。

つまらない上辺だけの女どもを、喜ばせてやってからどん底に突き落とす。 楽しくてやめられない。
死ぬ瞬間というのは、どんな美しい顔も恐怖に歪むから実に面白い。 バレるようなヘマはしないさ。


「おれでガッカリしたか? 最近なかなか出番がないからな。 意識を抑え込んでみたよ、成功。」
「そんな事が出来たのか・・・。」
「今みたいに、肩を揉んでもらいながら湯船に浸かってると、ついウトウトするからね。」
「なら今、香月様は眠っているというのか。」
「正解。 そういうこと。 お前の楽しい時間を奪って・・・ すまないね?」

キリトが熟睡してくれないから、おれは出るに出れない。 夜中に目を覚ましては、ため息をついている。
コヒルは、あからさまにキリトの事を熱い目で見つめていて、それはキリトも気付いているはずだ。
なのに受け入れてやらない・・・ コヒルが色任務専門の忍びだから。 木の葉隠れの抜け忍、コヒル。

木の葉の追い忍に捕まり、連中に犯されそうになっていたところを、キリトが助け出した。

“最後に楽しませろ、色任務専門の体を味わってみたい”コヒルの顔に、諦めと絶望が浮かんだ。
キリトは例え相手が忍びでも、引けを取らない剣の達人。 ふたりの追い忍をコヒルから引き剥がす。
“香月の領内に逃げて来た者は誰であろうと私が守る、それが侍だ” コヒルは一粒涙をこぼした。

木の葉の追い忍は、相手が次代大将候補 香月キリトだと知って、分が悪いと悟ったのだろう、
“今度来た時は、その命はないと思え、コヒル!!”などと情けない捨て台詞を残して去った。

あの日からコヒルは、いつもキリトの傍にいる。 コヒルは木の葉を抜けた理由をキリトに話した。
色専門の忍びは、どんなに里の為に働いても、ああいう目で見られてしまう、それが嫌で抜けたと。

実際、あの追い忍達がそうだった。 キリトが助けなければ、コヒルは犯されて殺されていただろう。
だからキリトはコヒルを抱かない。 そんな連中と同じだと思われたくないから、葛藤している。


「おれは男を抱く趣味はないんだ。 悪いね、コヒル、代わりに抱いてやれなくて。」
「・・・・・こっちだってゴメンだ。 俺が好いているのは、香月様だけだ。」
「おれも“香月様”だけど? ・・・・キスぐらいならしてやろうか?」
!!! 馬鹿にするな!

この眼・・・ こいつが女だったら間違いなく殺してる。 きっと最高の死に顔を見せてくれるだろう。
コヒルは忍びだ。 おれを見ても驚かなかった。 崖から落としてやった、いつぞやの小娘とは違う。
こっちは楽しみでやっているのに、それを助けるのなんだのと、あんまり煩いから喜びも与えず殺した。

その点コヒルは、おれが殺した女どもの、後片付けまでしてくれる。 共犯者というヤツだ。
キリトを守る為だと分かってるさ。 おれの存在を知ったら、キリトは間違いなく切腹をするからな。


「お前、思いきってキリトを襲えば? キリトはお前に惚れてる。 拒まれないぞ?」
「香月様が・・・・ 俺・・・を? まさか・・・・ だって・・・・ 」
「本当だぞ? そのせいで夜、熟睡してくれなくて困るんだ。 おれが遊びに行けない。」
「香月様・・・・ 本当・・・ に?」
「おーい、コヒル、聞いてるか? 早く襲え、それが言いたくて出て来たのに・・・ モシモーシ?」

・・・・仕方ないか、コヒルはキリトの本音を今知ったんだ。 コヒルとくっつけば、キリトは熟睡する。
キリトはコヒルを、おれは共犯者を、それぞれ手に入れるという訳。 あ、キリトが覚醒し始めた。
まあ、ウトウトしてる程度だから、いつ目が覚めてもおかしくない。 コヒル、うまくやれよ?


「先輩、この会話は・・・・。 毒の任務は続投ですね・・・。」
「そういうコトだったんだ。 あのイルカ先生を前にして崩れない自制心って・・・。」
「やっぱり侍の価値観って、わかりませんね。 死んでから後悔しても遅いのに。」
「一種の自己満足だネ。 相手にイイ人だと思われたいダケ。 ・・・・馬鹿じゃないの?」