毒を喰らう 3   @AC DEF GHI JK




兄弟と入れ替わった時に覗いた新しい記憶は、風呂場から出て来た“毒”・・・ “コヒル”だった。
さっきの今で驚くかもしれないけど、もう一度浴室に行く。 入れ替わりを知らせなければ。
オレ達は、コヒルから手渡された“バスペカ”を清掃用具室にしまって、今来た道を戻る。

「・・・・覗きました? 先輩。 イルカさんの笑みで、ドキッとしてましたよ、この弟。」
「ああ、兄もだ。 ・・・香月は不能なのか? あんな美味しそうなのに・・・。」
「だとしたら、毒をここに置いておく意味はありませんね。」
「ダネ。 何かほかの対策を考えた方がイイだろう。」


綱手様の話では、ヤツは二重人格症を抱えている。 オレ達の知っている武将の彼はその表の部分。
もう一人の彼は快楽殺人者という事だった。 特に女をいたぶって殺すのが趣味らしい。 最悪。
女に変化して行かせなかった訳だ。 中忍のイルカ先生では殺されに行くようなモノだしね。
ミフネ様がなぜそれに気付いたか・・・ それは姪を、香月に近づけたからだった。

「人間は誰しも二面性はある・・・ ここまで両極端なのは珍しいよネ。」
「アレだけの武将ですから、影の人格もハンパなくキレ者でしょう。」
「今まで見つからなかったことが、その証拠だーネ。」
「イルカさんは・・・ もう一人の香月に会った事があるんでしょうか・・・。」


表の人格は裏の人格を知らない、裏の人格は表の人格を知っている、というパターンが多い。
更にその場合、裏の人格が表の人格を、利用しているコトがほとんど。 だから発覚しにくい。
表の人格が、並外れた素晴らしい者であればあるだけ、裏の人格にとって最高の隠れみのになる。
大将のミフネ様でさえ、それまで気が付かなかったという事は、表より裏の人格の方が厄介な相手だろう。

「自分が香月を救うんだって言って、その姪御さん・・・ 死んじゃったんですよね。」
「ミフネ様は死んだ姪より、その仇の香月を憐れんでる・・・・。 ヘンな感性だネ、侍って。」
「表向きは崖からの転落事故ですから、香月と関連づける人はいないでしょうね。」
「ミフネ様以外にはな。 ミフネ様はその姪から二重人格の事を聞かされてたんだろうネ。」


香月に並々ならぬ好意を寄せていた姪に、泣いて頼まれて仕方なく、ヤツに近づけたんだそうだ。
二重人格と知っても、その姪は香月を嫌うどころか、自分がお救いしなければ、と同情した。
香月キリトの主人格を救うと言った、姪の愛情に賭けてみたが・・・ そういうコトだったらしい。
とんだバカ娘だ。 あんな人物の、しかも裏人格を、ただの小娘がどうにかできる訳がないだろ?
まったく・・・ 侍の精神っていうのは厄介だネ。 一方通行の愛情で裏人格が消えるなんて信じるか?

「姪以外に、すでに何百人も女を殺してるんですよ? なのに、綺麗に殺してやりたい?」
「オレ達が侍の価値観を理解しょうとしても無駄だヨ。 アイツらは別の生き物。」
「木の葉は他国の忍びに理想だと思われてますが、それなら鉄の国の方が理想じゃないでしょうか?」
「そうだね、そういう意味で言ったらそうかもネ。 でも汚れない国なんて現実にある訳ない。」


オレ達の里は影で汚れる事で理想を実現している。 それをどこまで表に出すか、火影様が決める。
忍びは皆そうだ。 騙し合いに勝利した方の里が、大きくなるのは当たり前。 騙される方が悪い。
大切な人や仲間を守る為、戦いで生き抜く為には、どんなに汚れようと平気だ。 それが忍びの価値観。
侍にそう言うと“自分達が生きる為なら何をやっても良いのか”って変換される。 話にならない。


「!! 先輩っ!! 中に香月が・・・・。」
「・・・いるね。 中の会話を聞けるように、あの草むらにこもって集中しよう。 いくぞ。」
「はいっ!」

この兄弟の体はチャクラが練れないダケで、中身はオレ達そのまま。 だから耳も目も忍び仕様だ。
オレ達は、草むらで意識を集中させた。 風呂場での会話から、おおまかな現状を確認出来るだろう。
少しずつ、中の音、声が聞こえて来る・・・ 香月とコヒルの会話だ。 毒は任務中“コヒル”と名乗る。

前に、それとなく理由を聞いてみたら、三代目の名前“ヒルゼン”から、二文字を頂いたらしい。
小さいヒルゼン・・・・ コヒル。 色暗殺任務の訓練中も、ずっとそう名乗っていたと言った。

イルカ先生は、潜入中の毒の自分と、里に帰った時の海野イルカと、そうやって使い分けている。
コヒルと名乗ることは、自身を毒に切り替える為の、スイッチのようなモノかもしれない。
今でも常に自分を保つ為、三代目からもらったその名を、あえて名乗り続けている。