毒を喰らう 8
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馬を飛ばし城に戻って来たふたり。 ナギは、コヒルにもう一度口づけて寝室に入って行った。
“明日は遊びには行かない、じっくりお前を抱く”そう言って。 コヒルは困ったように笑った。
残念ながらナギには、明日の夜は来ない。 これから朝もやにまぎれて、コヒルはいなくなる予定だカラ。
朝起きた香月がコヒルの不在を知り、探すだろう。 やがて木の葉からコヒルの処刑の知らせを受ける。
鉄の国 次期大将候補の香月 キリトは、コヒルを偲んでやせ細り、最上の愛を侍に知らしめ、死ぬ。
木の葉の里は“香月の思いに打たれた”と、城にコヒルの髪の束を届け、香月への敬意を示せば万事終了。
忘却の薬は、顔・名前を思いだせないように作られている。 思いだそうとしたら、ぼやけるそうだ。
毒の為に三代目が調合した秘伝薬。 奈良一族でさえその配合は知らない。 火影にだけ伝授される薬。
撤退する前には必ずこの薬をまく事。 でないと、毒の素性が知れてしまうからネ。
「?? 何してるの、イルカ先生。 ・・・薬まいて、撤退するよ?」
「・・・・・・続行です。 想定外の事が起こってるんです。 今、式を飛ばします。」
「イルカさん?! まさかとは思いますが・・・ 取り込みに失敗したんですか?」
「それはありません。 ご覧になってたでしょう?」
「・・・どんなにDNAを読み取っても、ナギのままなんです。 頭の中にいるのが。」
「細胞が違うなんてあり得ない・・・・ 二重人格って、そこまで別なんですか?!」
「そんな訳ないだろ?! DNAの一部が違うってコトは・・・ アイツら別人?!」
「俺は、万が一に備えて、まだ城にいます。 ここまで時間かかったら、あと何日遅れても同じですよ。」
オレ達は五代目からの指示を待つ。 おそらくミフネ様に確認してからだから、時間がかかる。
イルカ先生は、撤退すると怪しまれるから、と潜入続行を決意した。 毒をまた危険にさらすのか。
自分より強い相手だと知っていながら抱かれるのは、その相手に喉元をさし出すようなものだ。
いつも毒の性交を影で見守って来た。 武器はその体だけだから、性交中が一番無防備になる。
「・・・すみません。 里が人手不足で大変な時に、俺なんかが、足止めで拘束してしまって・・・。」
「何で、そうやっていつも謝るの?! オレ達はイルカ先生を守ってる、それだけっ!」
「ボク達にとって、いつでも死ねるという担保がなくなるのは、困ります・・・。」
「分かっています。 無茶な事はしません、安心して下さい。」
イルカ先生は、オレ達の為に、そうやっていつも自分自身を守ってくれる。 命に係わる怪我はしない。
ただ、自分には平気で傷を作る。 あの時も・・・ ナルトをかばって、背中に風魔手裏剣を受けた時も。
“急所を外しましたから、おふたりが死ぬようなことはありませんよ、すみません”と言って、謝った。
イルカ先生は、自分が“暗部部隊長達の命の入れ物”になった事を、申し訳なく思っているんだヨ。
オレ達が、いくらイルカ先生自身を心配しても、先生はオレ達の命の事しか考えない・・・。
「ゴメン。 イルカ先生に当たっても仕方ないのに。」
「ボクもごめんなさい。 一緒に死ぬことを押し付けて。」
「・・・見た目が子供だからかな? おふたりとも、駄々っ子みたいですよ? クスッ!」
「「・・・・・・・だだっこ・・・・。」」
今まで毒を抱いた男、抱かれた女に、二度目はなかった。 今回始めて、何度も毒を抱ける奴が出る。
あの快楽殺人者ナギが、毒を再び我がモノ顔で抱くのが許せない。たかが暗殺対象に過ぎないのに。
やっては駄目だと分かってるのに、アイツの心臓を取り出して、グチャグチャに握り潰してやりたい。
これをなんて表現したらイイ? オレ達が・・・ 今さら愛してるなんて、どの面下げて言えるの?!
「あのナギは本当に危険だ。 いつ男に殺人衝動が起きても、おかしくない。」
「なるべく危険は回避します。 察知できない時は・・・ 守って下さい、ご自分の命を。」
「キリトを取り込むのを、あきらめちゃダメです。 そしたらすぐに問題はなくなるじゃありませんか。」
「そうですね、めげないで頑張ってみます。 それが一番の安全策でしょうから。」
取り込んだナギを今すぐ殺していまえばイイ・・・ それが出来たら、わざわざ毒に暗殺要請はしない。
ナギを殺したら、キリトも死ぬ可能性がある。 それは・・・ 依頼人の希望“衰弱死”ではないから。
ナギは一体何なんだ? DNAは嘘をつかない。 だとしたら、アイツは・・・・。 これはまだ推測だ。
五代目の式に、香月キリトの出生について徹底的に調査してくれと追加でいれた。 最優先に調べろと。
「じゃあ、俺はコヒルに戻ります。 作戦を変えようかな・・・・。」
「あー、ってことは・・・ オレ達は、普段通りに風呂掃除をしなきゃならないのネ・・・・。」
「くすくす! そうです。 いつも香月様の疲れをとるんだって、はりきっています、くすくす。」
「・・・コヒル様になついてる事にして、部屋に入り浸りましょう。 秘密をかかえてるんだし?」
「あははは、いいですね、俺もたくさんのアドバイスを頂けて嬉しいです。」
もし、オレの推測通りなら・・・ 香月 キリトの暗殺任務そのものが・・・・ なくなるかもしれない。