毒を喰らう 5
@AB
CEF
GHI
JK
「は! すまん、コヒル。 ついウトウトして眠ってしまった。」
「・・・・・。」
「お前のマッサージがあんまり気持ち良かったんで・・・・・ コヒル?」
「俺・・・・ 香月様が・・・・」
「よすんだ、コヒルッ!!」
「香月様・・・ なぜ? 俺が・・・ 色忍だから・・・です、か・・・??」
イルカさんに迫られて、なおかつ拒絶するなんて、凄い自制心だ。 尊敬を通り越して軽蔑するよ。
自分も好きで、相手もそうだと知っているのに受け止めてやらないなんて、馬鹿以外の何者でもない。
忍びや侍の命は時の運。 明日には死んでしまうかもしれない事を、完全に忘れている。
そういう思考は、ボク達忍びは持ち合わせてない。 侍特有の“武士道”ってやつかな?
「お前は、その過去を捨てろ。 ここで新しく生まれ変わるんだ、わかるかコヒル。」
「・・・わかりません。 俺は俺だ! 過去は消せない! 俺にはこれしか・・・・」
「コヒ・・・・ くっ! やめるんだ、コヒル。 もう無理に体を使う必要はない。」
「っ! ・・・無礼を・・・・お許し下さい。 俺・・・・ 部屋で頭を冷やして来ます!」
うわー、最悪・・・ どういう神経だ?? イルカさんが退散するトコなんて始めて見た。
表の人格は、恐ろしいまでの自制心を保持している。 毒が手こずる訳がわかったよ・・・。
香月に色の噂が絶えないのは、遊びが上手なんだろう。 廓や茶屋では最上客に違いない。
遊女・花魁・陰間・芸者、皆が競って香月を取り合う。 遊び方は心得てるが、本気の相手はコレか。
「お前の傷が癒えたら、その時は私のモノだ。 いつまでも待つ、お前が癒えるまで・・・。」
潜入した時の経緯は火影様から聞かされた。 侍 香月 キリトなら絶対、助けに入るだろう場面だ。
“ナギ”とイルカさんが呼んだ裏の人格も、そう信じ込んでいた。 潜入はアレ以上ないほど完璧。
でも・・・ ちょっとやり過ぎたんじゃないかな。 策士策に溺れる・・・こんな感じかな?
遊び方が上手な大将候補の侍を本気にさせてしまった結果、毒は性交に持ち込むことが出来ないでいる。
「あ〜あ、ナルシスト入ってるよ、アイツ完全に虜だね、コヒルの。」
「絶対嫌われたくない、そんなトコでしょうか? 良く分かりませんけど。」
「オレ達が来たんだし、ナギの方をターゲットにした方が、まだ見込みあるカモね?」
「そうですね、提案してみましょう。 ではボチボチ、イルカさんの部屋に行きますか。」
この兄弟の記憶に、城の主要な部屋の位置が入っている。 風呂場を飛び出して行ったコヒルの部屋も。
完璧な人間はいない。 完璧に見える、香月 キリトだって、あんな悪魔を身の内に潜ませている。
表の香月に、裏の人格の事を教えれば自分で死んでくれる。 切腹させる、それが一番楽で、簡単。
ミフネ様から、どうやって殺すように頼まれているんだろう? 綱手様はそこまでは教えてくれなかった。
「・・・今まで毒の潜入が、こんなに長かったコトないよネ?」
「そう言われてみれば、そうですね。 潜入後一ヶ月は過ぎてます。」
「アイツ・・・ いつからコヒルに惚れてたんだろう・・・。」
「・・・・良く我慢出来ますよね。 鉄壁の自制心だ・・・。」
ボクもカカシ先輩も“約束された死”という魅力には逆らえなかった。 あの体にも。
木の葉の仲間には優しいあの人に“いつでも殺してくれ”と無理やり手綱を握らせ、苦しめている。
カカシ先輩のは、ハッキリ言って不可抗力だ。 禁術“毒”の効果を知らなかったから。
でもボクはイルカさんから聞かされて“毒”の効果を知っていたのに・・・・ 我慢出来なかった。
「コヒルがさっき言ってましたよね。 “過去は消せない”って。」
「オレ達がイルカ先生にしたコトも、どうやっても消せない・・・・。」
「それでもイルカさんは、ボク達、暗部部隊長の命を・・・ 生かしてくれています。」
「ウン。 それだけで十分だよネ。 少なくとも殺されてないんだからサ。」
そう、先輩もボクも侍の事を謎だと言いながら、武将 香月 キリトの自制心が羨ましくもある。
忍びには、そこまで我慢できる奴はいないだろう。 侍だから持ち得た、鉄壁の自制心。
ただし、コヒルがそれに心を動かされるようなことはない。 木の葉隠れの中忍、潜入部隊の毒だから。
さあ、部屋に閉じこもって悔しがってるだろう毒のコヒル・・・ イルカさんと、合流しよう。
「ねえ、ヤマト。 イルカ先生サ、オレ達だって、気付くと思う?」
「チャクラなしでも、気付いてくれたら・・・・ 嬉しいですね。」