再会の時 10
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カオルさんが氷の彫像になる前。 まだほんの4〜5才の頃。 小さな白熊が家にやって来たそうだ。
これは召喚獣だから契約するといい、いつかお前の役に立つ。 そう言われて口寄せ契約を結んだらしい。
口寄せ契約獣とは互いの同意の元、口寄せの巻物に己の血で名を記し契約を交わす。 名の縛りだ。
でもこの獣は違うらしい。 名前ではなく声での縛り、カオルさんの声が血の印と同じ意味を持つ。
だからなのか、なんとなく似ている声質と、モノマネは。 きっとこの姿は本来の姿ではないんだろう。
カオルさん自身も、そんな昔の事は忘れてたらしい。 その数か月後には、氷の国が滅んだからね。
氷の像にされてしまったカオルさんは、木の葉隠れで目覚める。 けれどその間、声の縛りは存在しない。
声の縛りがない召喚獣はおそらく、本来の姿に戻った。 そして自分の契約者を探し回っただろう。
でもどこを探しても契約者はいない。 死別か、置き去りかも分からないまま、それでも待ち続けた。
いつかもう一度、自分の契約者がこの地を訪れる事を。 死んでなどいないと、藁にもすがる思いで。
何年も待ち続けたんだ、この雪花山の頂上で。 よかったな? とイルカが言ったのは共感したからだ。
うん、その気持ちは分かるよ? イルカはあの黒豹に助けられたからね、獣に共感しちゃうんだよね?
突然ボロボロと泣き出したイルカ。 カオルさんのマントから顔をのぞかせている北王に話しかけてる。
何度もミニ白熊にマントでガードされながら。 泣きながらも抱っこする事を諦めてはいないらしい。
もはやただのカーテンと化したカオルさんのマントで、どさくさまぎれに涙と鼻水を拭いていた。
「うぅ、うぅ・・・・ うぅぅ〜〜〜〜 チーーン、ズビッ!!」
「・・・・・・カカシ、テンゾウ。 おれのマント、後で新調しろよ。」
「「・・・・・・・・了解。」」
「ガガジざん゛ ・・・・ デン゛ゾウ゛ざん゛ ・・・・ わ〜〜〜〜んっ!!」
「「はいはい、よかったね、イルカ。 北王がカオルに会えて。」」
とうとうボク達に飛びついて来た。 北王に触れなかったのが悔しいのもあっただろうけど、それよりも。
イルカは口寄せ獣の気持ちに同調し過ぎて、感極まってる。 昔、イルカを助けてくれた黒豹もそうだ。
契約者が死んだと分かってても、約束通りずっと禁断の森を守り続けた。 その深い情を知ってるから。
カオルさんの懐かしむ思いよりも、北王の気持ちにこそ同調する。 つまり、獣の情の方に軍配が上がる。
「「・・・・・やっぱり動物は最大のライバル。」」
「うぅぅ〜〜 俺のオセロのそんな姿を想像したら・・・・・ わぁ〜〜〜んっっ!!」
「「?! イルカが・・・・ いなくなった・・・・ら? ダメダメ――― 、絶対駄目っっ!!」」
「「「耐えられないっ!!」」」
・・・・・シロとクロになったまま、帰らないイルカを待ってる・・・・ なんて事を想像させるのっ!
思わずめちゃめちゃ想像しちゃったじゃないかっ! 口寄せ獣と同調してしまうイルカならではの発想だ。
とんでもないよ、そんな事っ! 馬鹿だねイルカ。 イルカのオセロはいつもイルカと一緒にいるよ?
だからそんなアリもしないボク達の姿を想像して、更にその気持ちになって泣かなくていいんだ。 ね?
「・・・・・・こいつらは、お前の仲間か、カオル。」
「・・・・・・ああ。 大切な木の葉の仲間だ。」
「・・・・・・そうか。 ならおれにとってもそうだな。」
「・・・・・・長い間、待たせて悪かったな、チビ助。」
「チビ助?! あんまりだっ!! 可哀想に・・・・ こんなに可愛いのにっ!」
「・・・・・・・別に。 声の縛りだからな、名など関係ない。」
「・・・・・だ、そうだぞ? 好きな名で呼べばいい。」
「ほんと?! じゃぁ・・・・・ 仔熊だから、テディ・・・ って呼んでもいい?」
「テディだな? その名も覚えておこう。」
「・・・・・動物マニアは立ち直りも早いな。」
「「・・・・・・・・・。」」
勝手にチビ助とオセロを重ねて、可哀想な姿を想像して泣きじゃくり、ボク達に飛びついてきたくせに。
・・・・・チビ助というとってつけた様な名前を知ったとたん、カオルさんに猛抗議したイルカ。
“チビ助”とカオルさんに呼ばれたミニ白熊の口寄せ獣は、声の縛りだからと、名を重要視しないらしい。
・・・・本筋一本しか気にしない所は、声や話し方だけでなく、なんともカオルさんに似ているね。
手のひらより少し大きいサイズのミニ白熊は、誰が見ても可愛らしい。 じっとしていればぬいぐるみだ。
けれどコイツはこの辺りの人達が恐れ、北王と呼んだ北の獣の王。 近隣の隠れ里からも恐れられた召喚獣。
このままのこの姿のあろうはずがない。 声の縛りがない獣の本来の姿を見てみたい気もするけど今は駄目。
「じゃぁ、オレはチビって呼ぶネ。」
「ボクは、チビ太って呼びますよ。」
「チビにチビ太だな? 覚えておこう。」
「・・・・・チビ助“ちんちくりん”は忘れろ。」
「・・・・・・・・わかった、忘れる。」
「「「ほんと、そっくり・・・・・。」」」
もしも超カッコイイ白熊に変身でもしたら、イルカは大興奮だ。 抱きついて離れないだろうと思うからね。