あしらうは毒花 4   @AB DEF GHI JKL




お待たせしました、緒方さん、情報です。 ・・・・・どうやら鏡屋は何も知らないみたいですね。
職人も商人も。 御店は純粋に、あの生糸に惚れこんで契約している。 鏡屋は無関係です。
この着物を情報分析部にお願いしていいですか? まいりました、今回、謎な事だらけです。
俺、偵察して来ますよ。 鏡屋が独占契約してる村に。 ええ、蚕村です、そこで探って来ます。

相手は一般人ですし、暗殺対象でもありませんから、夜中にでも忍び込んで情報を搾取しますよ。
村長が寝てる間にちょこっと出してもらいます。 あはは、どうせ夢うつつですよ、気付きません。
え? 伝言?? ・・・・緒方さんにお願いしてもいいんですか? へへ、照れちゃいますね。

では。 ・・・・すぐに戻ります、どこにいてもおふたりの愛を思い出します、俺はいつも・・・・・
え?! 長い?! そんなぁ!  んーと、えーっと・・・・ “愛してる” で! ひゃぁ〜!!
俺、自分がこんな事言うなんて、信じられませんよ。 房術使いなのに! 恥ずかし〜っっ!!
乗っかっるのは恥ずかしくないのか、ですか? だって、戦術ですもん。 じゃ、行ってきまーす!



そう、ふたりに籠絡されたあの時、房術使いの俺は死んだ。 今生きてるのは、ふたりがいるから。
ユキジ先生が相手の感情に共感したら死ぬ、と言った意味が分かった。 切り替えができない。
房術使いの俺は、ふたりがいなきゃ、もう切り替えが出来ないんだ。 心が・・・・・ 壊れる。
俺の心がある場所は、ふたりの元。 俺が俺である為には、絶対にふたりがいないと耐えられない。

「俺の心があるふたりの元へ。 必ず生きて帰る、それが今の俺の道を照らす太陽だ。」

火の国や里の為、俺は使い易い駒であろうとした。 実際房術使いは、潜入部隊でも一目置かれている。
でも今は、火の国や里の為じゃなく、ふたりの為に生きたいと思ってる。 これは忍びとして致命傷だ。
俺、あのふたりのどちらかが欠けたら、狂う自信がある。 心が壊れた房術使いなど、里に必要ない。
心にいつも太陽を。 先生の教えは俺自身だった。 ユキジ先生、俺は生き残れると思いますか?







事の発端は、大津家の次男の葬儀の時。 里を代表して、三代目が葬儀に出席したんだけど、それで。
献花をする時、その次男を包む白装束に触れたらしく、ある失踪者の微かな “気” を感じたらしい。
数年前、木の葉にも協力要請が来た、水の国の大名家の子息の。 捜索したが火の国にはいなかった。
今でもその大名は、子息の捜索を続けているらしいが。 見つかったという報告は来ていない。

三代目が、失踪者の気を覚えていたからこそ、気付いた事だ。 他国の大名家のたかが子供の気を。
調べてみれば、あの白装束は、妹君の夢美様が冥土に旅立つ兄の為、ぜひ鏡屋にと仕立てたらしい。
水の国の大名の子息失踪に、鏡屋が関わっていたら・・・・・ この国は水の国に必ず報復される。

長期の失踪、息子は生きてはいまいと覚悟はしていても、怒りを向けられる矛先と、権力があれば?
最悪は、着物を仕立てた鏡屋、夢美様も、暗殺対象として狙われるだろう。 逆恨み、ってヤツだ。
大名家のお姫様が仕立てる着物は、出入りする商人から。 だから俺は、鏡屋の商人に接触したんだ。
自然な形で接触し、着物になる過程を知り、サンプルを里に持って帰る事。 それが俺の任務だった。

「大津家の夢美様は、あの着物が大好きだと言っておられたっけ。 ショックだろうな。」







岩の多い山の山岳地にある村。 ここが生糸を生産している所、蚕を飼う事で生計を立てている村か。
ゴツゴツした大きい硬い岩がたくさんある為、畑や田んぼを拡大して農産物で生活するのは無理だ。
わざわざこんな土地を選んで村を興したのは、人との繋がりから遠ざかりたかった、としか思えない。
・・・・・争いや諍いとは無縁でいられたんだろうな。 が、蚕を飼う事を産業とした今は、もう違う。

各国に出入りする鏡屋は、ここ織〈おり〉の国を代表する呉服問屋。 織の国は服飾産業が盛んな国。
村で育てた蚕から生糸を紡ぎ、山を下りて糸巻きを売り歩いていたところ、鏡屋の目に止まった。
この村の唯一の収入源だったのだろう。 上品で良質な生糸に感動した鏡屋が、独占の契約を結んだ。

自分達の生活する分だけをお金に変える、きっとそうやって、今まで過ごしてきたんだろうな。
反物であの値段だ、鏡屋は、村人が吃驚するような買い取り金額と契約金を提示したに違いない。
鏡屋が独占契約している蚕村、その糸からあの反物へ、恐ろしいほど高額な値段の着物が出来上がる。
まるで金持ち連中のステイタスの様だ。 一着は仕立ててみたいと思わせるモノ、なのだそうだ。

これは夢だよ? 爆睡している長に、目が覚めない様に薬を嗅がせ、出してもらった。 俺の口に。
そんな・・・・・まさか! あまりのおぞましさに、軽蔑の念が押し寄せる。 なんて、事を・・・・・・。
これは・・・・ サンプルを持って帰れと三代目が言ったのは・・・・・ 命の灯を感じたから?

術紙を俺の彫りモノ、赤い弓張月に当てる。 式に搾取した情報を読みとらせ、三代目の元へ飛ばした。
きっと三代目はここの人達を一掃するだろう。 おそらく俺は、ここで待機の指示が出るはずだ。
村人、雇われている忍び、その誰の顔も見落とすことなく、確実な情報を、里から来た忍びに渡す為に。
関与している者は、誰ひとり逃がしては駄目だ。 最後の一人が死ぬを、俺がしっかり確認しなければ。