あしらうは毒花 5
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三代目が、水の国のある大名の一人子息の気を感じたと言っていた、その白装束を仕立てた鏡屋。
鏡屋が関わっていないのなら、なぜその気を纏った着物が存在するのか。 残るは生糸生産の場。
反物より前の段階、つまりは蚕を飼い、育て、繭から生糸を紡ぐ作業をしている村を調べれば。
だからイルカは蚕村に行くと言ったんだ。 緒方上忍もその方が確実な情報を得られると踏んで。
「三代目は、失踪者の着衣が何らかの形で着物に織り込まれているのかも、と思ったようですね。」
「ウン。 だからサンプルを持ち帰って来い、っていう任務を言い渡したんだヨ。」
「もし、忍びに拉致されて記憶を抜かれ、その村で生きていたら・・・・ と期待して。」
「でも、その着物から微かに放たれている気は、水の国の大名の子息じゃなかったんだよネ。」
情報分析部に着物を照合してもらっていたんだ。 失踪者の持ち物と同じ気を纏っているかどうか。
ウチの情報分析部には、各国の要人の頭髪が保管されてる。 新しく生を受けた赤ん坊から死人まで。
その頭髪から放たれる気と、着物から放たれる気を照合した結果、別の人間のモノだったんだ。
水の国の大名の子息と同じで、数年前神隠しにあったとされた、他国の大名の姫のモノだった。
その報告を三代目が分析部から受けていた最中、一匹のツバメが飛びこんで来たらしい。
丁度ボク達が、緒方さんと飲んでる頃、織の国の蚕村の情報を、イルカが三代目に知らせたんだ。
ツバメ型の式は房術使いイルカの式。 信じがたいその情報で、三代目は殲滅の決意をした。
「しかし・・・・ ツバメって・・・・・ あまりにもピッタリなんだケド?」
「あはは! 囲ってるのは有閑マダムじゃなく、ボク達ですけどね? くすくす。」
「フフフ、オレ達のツバメちゃんが待ってるから、早く行ってあげなきゃネ。」
「囲ってるなんて言ったのがバレたら、また怒りますね、イルカ。 あははは!」
房術使いは、精液から過去の記憶を読み取る。 だからこの会話も、後でイルカにはバレるんだ。
時間差で結構、枕とかタオルとかを投げられるんだよね。 で、ああ、あの時の会話の事? って思う。
秘密にしててもバレるから、ボク達の任務の内容や対処の仕方、全部イルカは後で体感するんだ。
だから逆に、急に抱きつかれて盛られちゃったりもする。 ああ、あれか、慰めてくれるの? って。
この時点でイルカは、誰が里から送られたかまだ知らない。 ふふふ、今度はボク達が驚かせよう。
暗部が房術使いの情報回収なんて、絶対駄目ですからね、とボク達の身を案じて言ったイルカ。
三代目からの命令で殲滅に来た、と言ったらどうするだろう。 飛びついて喜んでくれるかな?
でもね、イルカこそ気をつけなきゃならないんだよ? 房術使いだとバレたら、生け捕られる。
よほど間抜けな忍びでない限り、こんな便利な道具は無いと、拉致されて洗脳されるだろう。
ボク達は、もし敵にイルカが拉致られても、必ず取り戻す自信がある。 でもイルカにはそれがない。
自分はそういう面で無力だと知っているから。 だからイルカは・・・・ 発狂すると言ったんだ。
すごく嫌な話だけど、ボク達がもし捕縛されたら公開処刑される。 さっさと殺さないと危険だしね。
だから捕まったら生きて帰れない。 イルカの場合は必ず生かされる、それだけの利用価値がある。
ボク達はイルカが殺されないと知っているから、どこかで安心しているのかもしれないね。
気休めだけど、イルカを少しでも安心させるには、ボク達がいかに強いか見せ付ければいい。
先に抜け忍を狩る。 その首を揃えて持って行って、イルカに討ちもらしがないか確かめてもらおう。
イルカの寄越した情報から居場所や人数はハッキリしている。 ただの忍びじゃないんだ。
今回対峙する忍びは抜け忍三人。 蚕村に雇われている抜け忍は、三人が三人とも賞金首の男。
「こんなトコに潜伏してたんだ? でも静かで豊かな生活も今日で終わりだーヨ。」
「ですね。 房術使いが目撃者、ですから。 これほど確実な情報はありません。」
「元雲の暗部、特攻野郎の異名を持つ、ハヤイ。 ハヤイの部下だったクライとシブイ、か。」
「 “信じられない” と唖然とするイルカの顔が楽しみですね。 ふふふ。」
人里離れたあの辺りの山岳地帯を、自分達の縄張りだと主張して、土地代を要求していた三人。
長い物には巻かれろ、逆らう集落はないはずだ。 一般人の目にも腕の立つ忍びだと分かるから。
そして、逆にその三人を見込んで話を持ちかけたのが、蚕村。 割の良い話に、三人は飛び付いただろう。
微々たる土地代など当てにせずとも、蚕村からの仕事の収入だけで悠々自適に暮らせるほど、甘い汁に。
「コレ、後で読みとられる情報だよネ? 帰ってイルカを抱いたらサ。」
「そうです。 だからここで宣言でもしておきますか、カッコつけて。」
「イイねぇ。 じゃ、オレから。 見てな、イルカ。 オレ達は死なないカラ。」
「次はボクです。 これから10分以内に手配帳の三人を狩る、これで信じる?」
「「・・・・・・かぁーっこいいー!! もう絶対、惚れ直したでしょ?」」
イルカが後で体感する記憶として、メッセージを入れてみた。 タイムカプセルみたいで面白い!
今のこの記憶を覗いた時、イルカはどんなリアクションしてくれるかな。 凄く楽しみだ。
さあカカシ先輩、元雲の暗部三人の首をハネに行きましょう。 そしてイルカの待つ蚕村へ。