あしらうは毒花 9
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ただ生き残る為に進化をした蚕に罪はない。 が、こいつらは産まれちゃならない新種だった。
この世にはいろんな生物がいるが、どれも絶滅の要因は人間だ。 そして今回は、その誕生も。
人が産み出し人が滅ぼす。 なんとも身勝手な話だけど、食物連鎖の頂点、人の責任は負うべきだ。
ボク達忍びは人を殺す、その責任からは逃げない。 事実を受け入れ忘れない事、それが責任。
今まで行って来たあらゆる事を。 間違いもなかった事にはしない。 これから行う事も全部。
この蚕を生かして人を餌として与えるのか? そこから取れる糸を木の葉が独占販売でもする?
そんな事出来る訳がないだろう? それをしないのが三代目であり、木の葉の忍びだから。
この新種の蚕も村人も、要人拉致に協力していた抜け忍も。 全てをこの世から抹消する殲滅任務。
誰の記憶にも残らない事だけど、その事実をボク達忍びは決して忘れない。 自分達のした事を。
だから、ここの村人達も、忘れちゃならなかったんだ、物事を受け止める人としての責任を。
大切に育てた蚕の死滅も、人を食べて進化した蚕を拒絶する事も、事実として受け止めるべきだった。
仕方がなかった、貧しいから、他に道はなかった、そう言ってしまえば、理由になるのだろうか?
事実から目を背ける事の、自分達のした事を正当化する理由に。 知っているのに黙認するのも同罪。
自分達の生活を守る為に、罪のない人間を殺している、この事実から目を背け続けていた村人達の。
「これで全部だネ。」
「はい、全部です。」
幼虫と繭は燃やし、飛びまわる黒蚕を一匹残らず切り捨てた。 人を養分にしたせいだろうか。
黒蚕の血が赤かった。 飛び散る赤い血は、斬った村人達のそれより、ずっと綺麗な赤い血の色。
思考も何もない昆虫の方が、食物連鎖の頂点に君臨する頭の良いはずの人間より、綺麗な血だった。
既に白骨になってしまった者達は焼却され、手掛かりは何もない。 かろうじて一体だけ目の前に。
この餌場にある遺体の頭髪を持って帰って調べれば、どこの誰だかすぐわかる。 けど命令は殲滅だ。
なら、目の前の遺体の髪の毛一本も残せない。 全てを無に帰す。 それが今回の三代目の決断。
そして生あるもの全ての命を狩る事が、ボク達、暗殺戦術特殊部隊に下された里からの任務。
イルカを真ん中にして、ひと際大きい岩の上に腰かけているボク達。 最後まで見届けなくちゃ。
全てが灰になるまで。 ここがただの山岳地帯の一部に戻るまで。 誰からともなく手を繋ぐ。
蚕村の何もかもを燃やし尽くす炎を見ながら、お互いの手のひらの温かさを確かめあってた。
こんな風に、なにかの終わりを眺めるのは初めてかもしれない。 人を殺したのに安らぐなんて。
「身分が高かろうが低かろうが、忍びだろうが。 人の命の重みは変わらないヨ。」
「もし大名が同じ事をして糸を作り出したとしても、殲滅任務だったでしょうね。」
「ええ。 どこかの隠れ里がそうしてても、やっぱり殲滅任務だったでしょう。」
「オレ達は火の国を守る忍び、大名の姫も里の子供も、皆一緒、火の国の民だーヨ。」
「もし火の国の民が危険にさらされそうなら、未然に防ぐ事がボク達の仕事です。」
「・・・・・・・・こうやって・・・・ いつも汚れてきたんですね・・・・。」
反物や着物が、亡き我が子の血肉からできていると知ったら? 必ずそれを取り戻そうとする。
どんな親もそういうものだろう。 それこそ、身分が高かろうが低かろうが。 そんな情報も闇へ、だ。
そこに地位が加われば、血で血を争う取り戻し合戦、報復暗殺合戦が起きる可能性があるから。
ここで殺した村人達の人数と、事が発覚して起こるその先で、命を落とすだろう人数とを比較すれば。
何が最善の対策なのか、それはもう・・・・・ 比べようがないほど選択の余地がない。 前者だろう。
今さらこんなのは、汚れる内に入らない。 それにね、そうやってわかってくれる誰かがいれば。
イルカは村長の記憶を覗き見た、この村の歴史の唯一の目撃者。 ある意味イルカが一番つらい。
「ウン。 だからイルカもこの火の国の民の一人。 守るよ、オレ達が。」
「そうです。 イルカが発狂するなら、ボク達は決して無理はしません。」
「カカシさん、テンゾウさん、俺・・・・・ ふたりがいないと駄目だ。」
これで少しは安心したかな? ボク達がちょっとやそっとじゃ、くたばらない忍びだって。
イルカも房術使いじゃないと、価値がないなどと思わないで欲しい。 ボク達は同じ木の葉の忍び。
皆がそれぞれの役割で、火の国を守っている・・・・・ いつかイルカが言った事だよ、ね?
緒方上忍とだけ組んで、ボク達は駄目だなんて、おかしいでしょう? 同じ木の葉の忍びなんだから。
「・・・・・・・なんか吹っ切れました。 俺がおふたりを信じないでどうするんでしょうね?」
「あれ?! いや、そうなんだけど・・・・ 組むのは・・・・」
「そうだよ、俺の情報がふたりを守る事に繋がるなら・・・・ そう考えればよかったんだ。」
「・・・・・や、あのサ・・・・ オレ達は自身で・・・・」
「俺、頑張るっ! ふたりの為に籠絡しまくるっっ! あ、いっそ廓に籠って・・・」
「それだけはダメーッ!! ナニ言ってんの、イルカッ!」
「だって、羽多宵かシンが花街に出れば、いろんな情報が見れて・・・・・」
「そんな事したらボク達が殺しに行きますよ?」
「・・・・いい。 俺、ふたりになら殺されてもいい。」
「「だからっ!! ( 房術使いが混乱してる・・・・・ ) 」」
駄目だ、イルカが混乱してる。 普通で考えたら籠りっぱなしはあり得ない、房術使いならなおさらだ。
いくらチャクラを使っていなくても、それで忍びだとはバレなくても、自分の価値を完全に忘れている。
房術とは関係なく、羽多宵とシンはどちらもイルカ。 イルカ自身が作ったイルカの一部なんだよ?
羽多宵は要人の誰かに囲われちゃうだろうし、シンは店に繋ぎとめる為に薬漬けにされるだろう。
忍びが百人いれば百人が皆、同じ事を言うはず。 人の注目を集める潜入員など笑止千万もいいとこ!
それを避ける為に緒方さんの忘却術があるのに! イルカのフォローには、これからはボク達が就こう。
混乱した房術使いの心の安定が保てるならと、きっと三代目は喜んでサポートに就けてくれるよ。