あうんの門の狛犬 2   @BC DEF GHI JKL




今ボクは、火影の“影”だ。 暗部の隊員は持ち回りで、三代目の側に控える。 今日はボクの番。
気配は殺している、三代目が更に、目くらましの術をかけるから、例え上忍と言えども気付かないんだ。
“影番” と呼ばれるこれは暗部の任務。 三代目の影として隊員がまる一日、常に側に待機している。
すぐに伝令に走れるし、応戦もできるからね。 で、任務受付所に座っている三代目の側にいるんだけど。

「依頼人には依頼の品を届けて、任務を先に完了させて・・・・」
「で、すぐ戻ってみたんですけど、どこにもいなくて・・・・」
「よいよい、気にするな、ほおっておけば帰ってくる。 Dランク任務、ご苦労じゃったの。」

「はい。 ・・・でもおれたち、イルカんちで待ってますよ。」
「スリーマンセルだし、一応、顔見るまでは落ち着きません。」
「そうさな。 ついでに、冷蔵庫を空にしておいてやるがええぞ?」
「「あはは! 了解です!」」

ボクは今、自分の耳を疑っている。 そしてこの光景も信じたくはない。 こんなの嘘だって言ってくれ。
三代目は何よりも里の忍びの身を案じているはず。 木の葉の忍びは例え下忍と言えども仲間思いだ。
なのに。 ほおっておけばいい? スリーマンセルなのに一応? “一応”ってなんだ、“一応”って!
冷蔵庫の中の物を平らげる? この食料不足の深刻な時に?? 仲間としていかがなモノかと思うよ?








「・・・・・・なんじゃ、不服そうじゃの?」
「・・・・・・別に。」
「なに、あヤツは里に戻ってくる、心配はいらん。」
「・・・・・・・・そうですか。」

あの下忍達はもう帰ったし、受付所には今のところ、他に人影はないし。 特に問題はないけれど。
急ぎの用でもないのに、影番をしているボクの不機嫌さを感じ取ってか、三代目が声をかけてきた。
さっきの光景をまだ信じられなくて、自分でも声がいちオクターブ低くなってしまったなと思う。
三代目はそんなボクを、面白そうなモノを見るような目で見て “ほほほ” といつものように笑った。

「最初は心配もしたが、もう慣れたわい。」
「??」
「遠出すると、必ずと言っていいほど迷子になりよる。」
「・・・・・・はあ?」

迷子って・・・・・ そんな下忍がいるんですか? てか、それじゃ余計に心配じゃないですか!
大蛇丸の実験体、身寄りのないボクを育ててくれた三代目とは思えないほど、薄情な言葉ですね。
スリーマンセルの二人にしてもそうですよ、なら尚更、一緒に帰ってくるべきだった、違いますか?
迷子癖・・・って言っていいのかどうか分かりませんが、狼少年の二の舞になるかもしれないんですよ?!

「大丈夫じゃ、イルカにはの、帰巣本能があるんじゃよ。」
「帰巣本能って・・・・ 生き物が生まれた所に帰ってくる・・・・ あれですか??」
「本人は、修行で身についたもので下忍の勘、だと思おておるが。」
「・・・・・・なんですかそれ。 そんな訳ないじゃないですか。」

なんでも、“親切そうな忍び、ちょっとぐらいなら力を貸してくれそう”って、一般人から見えるらしい。
お人好しオーラがにじみ出ていて、しかも木の葉の額当てをしている事から、つい声をかけられるそうだ。
行く先々で声をかけられ手伝ううちに、気付いたら全然違う所にいて、任務と関係のない仕事をしている。
そんなこんなで、サボっている訳でも怠けている訳でもなく、本人は真面目に任務を遂行しているつもり。

お手伝いでは任務報酬なんてない。 でも現金収入はなくても、お礼に色んな物をもらってくるらしい。
一人暮らしでは十分だけど、その小さい冷蔵庫に入りきらないほどの野菜とか果物とかを。
へー、冷蔵庫を空にしておけっていうのはそれでか。 帰巣本能も、実はちゃんとした理由があった。

人懐っこくて誰にでもついてく子供だったから、上忍の両親が念の為にと里の方角を刻みこんだらしい。
言霊を封印した忍刀で鼻の真上に。 本来なら言霊の傷はだんだんふさがって吸収されるはずだったけど、
皮膚に全て吸収される前に、彼の両親は死んでしまったそうだ。 約一年前の九尾襲来の時に。
今では顔の真ん中にある言霊の傷は、彼のトレードマークになっているそうだ。 なんだかなぁ・・・・

「まあ、下忍のスリーマンセルの任務ですから・・・・ 火の国国内でしょうけども・・・・」
「ほほほほ。 珍しいの、お主がそこまで他人を気にするとは。」
「・・・・・・だって三代目が、ほおっておけ、とか言うから・・・・・。」
「あ奴の迷子癖はの、里のイメージアップにも貢献しておるのじゃよ。」

三度の忍界大戦を経て、尾獣獲得合戦。 一般人にしてみたら、ボク達忍びは世の中を乱す諸悪の根源だ。
恐れられる事はあっても、好んで頼ろうとは思ってもらえない。 里の忍びも国境を死守するので精一杯。
しかも木の葉はつい一年前、九尾に襲われ四代目火影を失ったばかり、そんな里に依頼をするだろうか?
頼りの綱の木の葉隠れは、尾獣出現により壊滅状態。 自分達のことなど見向きもしないのでは、と。

だとしたら、三代目がほおっておけと言った意味がわかる。 火の国の木の葉隠れは揺るぎない。
例え何が起ころうとも、火の国の為に日々働いている。 今までと同じく安心して頼れる忍びの里。
・・・・・・無償でフレンドリーに手伝う忍びと接したら、接した民はそう思ってくれるに違いないから。