根からの刺客 1
ABC
DEF
GHI
JKL
僕の所属する“根”の名称は、木の葉隠れを陰から支える大木の根、という意味があるそうだ。
国の安全を脅かすモノ達から国を守るのが忍びの里。 陰から支える大木とは、火影の直轄部隊の事。
暗殺戦術特殊部隊は影を支える、とも言われている。 その大木の根が、通称 暗部の為の養成組織。
暗部隊員になるには、火影自らが選抜する場合と、養成組織“根”から昇格する場合の、二通り。
僕は小さい時の記憶がほとんどない、親の顔も知らない。 気が付いたら、いつも兄さんと一緒だった。
それでも組織“根”の統括者、志村ダンゾウ様の教えや考えを、疑問に思った事など一度もない。
『全ては里の為、誰かがやらねばならん。 己が手を汚さずして、どうして民を守れるというのか。』
三代目火影 ヒルゼン様の幼馴染で、二代目扉間様の小隊に属していたダンゾウ様は、素晴らしい方だ。
だからこそ今も、暗部隊員の育成組織を任されている。 変わらず火影様からの信頼が厚い、という事。
うたたね コハル様、水戸門 ホムラ様と同じく、今はご意見番として、里の上層部の一角を担う大人物。
根の忍びは皆、そのダンゾウ様の個人情報を漏らさぬよう、舌に呪印を施されている。 もちろん僕も。
自分が知っている情報を引き出されて、ダンゾウ様や火影様を危険にさらす訳にはいかない。 当然だ。
忍びの中には、意識に勝手に入ってくる者もいる。 自分が喋らなくても引き出される場合があるから。
もし引き出されそうになったら、秘密保持の為に舌の呪印が発動、舌が消滅し出血多量で死に至る。
暗部の隊員にも同様の呪印があるらしい。 女は右肩、男は左肩にある炎の刺青が、そうだと聞く。
肩から上部が切断される。 肩から上とは首だ、即座に死ぬ。 それほど中枢にある部隊という事。
行く行くはそこに入る選ばれた者達だ、と常々言われて来て、一緒に育った兄さんと殺し合いをした。
一番親しい人をその手で狩るからこそ生まれる、強い心。 そうすれば邪魔な感情がなくなる、と。
『忍びの心は強くて素晴らしいモノ、失くしてはならん。 心はそのままに、感情だけを消すのだ。』
忍びは心を殺せと教えられている。 でもダンゾウ様は、心を殺す必要はないと、説いてくれた。
心を失くせば木の葉隠れの忍びではない、だから心そのものを強くするのだ、とも。 素晴らしい教えだ。
強い心とは、何者にも何事にも動じない心。 里の為、国の為に戦う忍びには、無くてはならない心。
暗部は皆、そういう者の集まりで例外はない。 暗部の隊員になる為には、越えねばならぬ壁なのだ。
ダンゾウ様はそう言って、兄さんを殺して強い心を手に入れた僕に、根の証でもある呪印を舌へ施した。
ダンゾウ様のおっしゃる通りだ。 確かにあの日から、僕にとって邪魔な感情は一切なくなったから。
「お呼びですか、ダンゾウ様。」
「サイ、お前を呼んだのは他でもない。 ターゲットに近付くには一番適任だと感じたからだ。」
「・・・・・・近付く? ただの暗殺ではない、と?」
「そうだ、慎重に事を運ばねばならん。 ターゲットは里でも知名度が高い同胞だからな。」
僕は今組織の中で、暗部入隊に一番近い忍びだと言われている事を知っている。 もっともな意見だ。
里の為に何人もの同胞を手にかけた。 皆が一番躊躇する同胞殺しの暗殺成功率が、一番高いから。
前線ではぐれてしまった同胞、怪我をして足手まといな同胞、抜け忍となった元同胞やその家族など。
他里に捕縛され情報が漏れれば、里に住む全ての民を危険にさらす。 そんなのは本人だって不本意だ。
「・・・・そうする事によって結果、里の平和が維持できるのなら。」
「一を聞いて十を知る、か。 ・・・・ふふ、ワシが目をかけておるだけはある。」
「ありがとうございます。」
「この任務の報告によっては、お前の暗部への推薦を正式に考えよう。」
ダンゾウ様は僕をとても信頼してくれている。 とうとう暗部への道が開けた。 僕の暗部入隊の時が。
今はもう顔も思い出せない兄さんも、その為に頑張って来た。 二人の夢がかなう時がやっと来るんだ。
認知度が高いからと言って重要な忍びとは限らない。 五代目が決まり、里も平和に戻りつつある。
今後、里にとって邪魔な忍びになる可能性が濃厚なら、早めに狩ってしまった方がいいに決まっている。
「今をおいて他にない。 人柱力が里を空けている今をおいて、な。」
「人柱力? 渦巻ナルトですか?」
「お前なら分かるだろう、サイ。 一番大切な命を手にかけた者が手に入れる強さを。」
「・・・・人柱力の身柄確保の為、ですね?」
そうか。 九尾の人柱力の渦巻ナルトは、まだチャクラコントロールも不安定な下忍、だが人柱力だ。
尾獣の中でも最強の九尾の妖孤は、木の葉が所有する最大の武器だ。 まだ未熟な人柱力は拉致される。
今迄は暗部の元部隊長が警護を担い、敵からの捕縛を退けていたらしい。 必ず保護する必要がある。
もし他里の手に人柱力が渡ったら、それをつかって今度こそ里や火の国は、滅ぼされるだろう。
木の葉の三忍 自来也様と一緒だそうだが、わざわざ切り札を国外に出す必要が? ・・・・そうか!
自分がいなかったせいで守れず、大切な者が死ぬ。 人柱力は国外に出てはならないと自覚させる為だ。
九尾の人柱力は、いかに自分が木の葉の重要な武器で最大の切り札なのか、理解しなければならない。
使いたくても使えない、そんなの切り札でもなんでもない。 鞘だけが立派な竹光と同じじゃないか。
さすがダンゾウ様、そんな先の事まで予想されての密令だったのか。 切り札の名刀なら鞘に収まるべきだ。