根からの刺客 8
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まさか本当に間者だったなんて・・・・ てか、敵の間者じゃなくて、根からの刺客だったんだけど。
ボク達のマイルールは言いたい事を言うだから“この子殺しちゃっていい?”って言いそうになった。
でも我慢したけどね。 これは思いやりだ。 相手を思うからこそ我慢も出来る、という感情。
だってそう言ったらイルカ先生は悲しむもん。 先生はサイをなんとかしたいと思っているから。
ボク達としては、即座に根に乗り込んでダンゾウも組織もブッ潰したいけど、それはやっちゃ駄目。
判断するのは火影様だし、汚れ方は違うけど、木の葉の為を思って行動していると思い込んでいるから。
泥をかぶっているのは自分だけだと、多少酔った所もあるけど、一応国境の監視はちゃんとしているし。
言いたい事を言うだから、先生も言いたい事を言うんだ。 先生が駄目って言った事は、絶対やらない。
逆に、先生がこれやりたい、って言ったら断然応援したくなる。 例え先生の教え子じゃなくても。
うん、上忍師がどうたらとか。 この前の八班の親子ごっこもそうだけど、無性に父性が湧いて来るよ。
それに、オアズケだしね。 先輩もボクもこれが一番キツイ。 なんと言っても精子君は悲劇だよ。
ただでさえ今後、卵子ちゃんにめぐり会う事はないんだから。 せめて疑似体験はさせてあげないと。
受け皿がないとボク達の無駄撃ちした精子君も可哀想でしょう? だからオアズケは避けなきゃ駄目。
で、我慢して出したらどれぐらいの数なのか気になった。 いつか試そう、って計画中なんだよね実は。
ボク達の里に提供した精子は、どこでどんな風に扱われているかは分からないけど、幸せにな、って感じ。
ちっこくて雄か雌かどっちになるかも未定なのに、旅に出した我が子も同然、つい幸せを祈っちゃう。
これも全部、イルカ先生の影響だよ。 種の一粒、根からの刺客にさえ、父性を発揮しちゃうなんてね?
「お帰りなさい。 ・・・ちゅっ! ・・・ちゅっ!」
「フフ。 オレ、イルカ先生が任務の後に何も言わず、すぐ刺青にキスしてくれるの大好きv」
「ボクも! ・・・・罪もない赤ん坊を殺して来たとしても、先生はキスしてくれるでしょう?」
「当然です。 どんな事実であろうと受け止めて来る二人ですから。 里の、俺の誇りです。」
言いたい事を言うのはマイルールだけど、それはボク達三人に関してのみのマイルールであって、
やっぱり暗部の任務内容については、イルカ先生に全部話す事は出来ない。 でも先生は知ってるけどね。
あれだけ三代目の側にいて、何も知らない忍びじゃない。 それぞれの忍びの役割分担を心得ているんだ。
イルカ先生にしか出来ない事、ボク達にしか出来ない事。 とっても情に絆されやすいけど知っている。
「サイのコト、綱手様から一任されたヨ。 あれからすぐ、報告に行ったの。」
「任務に出る前に伝えておきたかったものですから。 “根”は黙認のままです。」
「・・・・くすくす。 粛清の指示が出たら、任務の帰りに潰して来ようと?」
「「・・・・・・当たり。」」
ご名答。 全く、イルカ先生には叶わないや。 イルカ先生と暮らすようになって、本当にそう感じる。
力や技、忍びとしての力量はボク達の方がはるかに上。 でもね、イルカ先生にはボク達、勝てない。
逆立ちしても叶わない人間らしさがある。 イルカ先生に慰めてもらうともの凄く上等の人間に思える。
いつだったか“殺しはボク達の専売特許ですから”と先生に言ったら、自意識過剰ですと怒られた。
いいですか? 生きていく為には呼吸をしなけれなりません。 空気中にはたくさんの微生物がいます。
一呼吸につき大量殺害。 また、一歩歩くのにも大量殺害です。 殺しをしない人間は存在しません。
蟻の行進の為に交戦ルートを変えますか? 血を吸う蚊の為にじっと止まってあげますか? だって。
ボクもカカシ先輩も大爆笑した。 そんなの唯のへ理屈じゃないか、何と何の比較なの? そう言って。
でもその気持ちが嬉しかったんだ。 そうやってなんでもない事のように言ってくれる先生の気持ちが。
そんなヘンテコな慰めでも、始めて聞いた時泣いちゃったんだよ、ボク達。 先生、ありがとう、って。
あんなに出なかった涙が、あっさりと出た事に、更に笑っちゃった。 笑い涙ってヤツなのかな?
「サイは暗部預かりってコトになったから。 イルカ先生にも協力してもらおうかナー なんて。」
「サイはイルカ先生も暗部だと思っていたでしょう? だから、先生にも一役買ってもらいます。」
「やった! 俺、あの子の作り笑顔を見たら、いてもたってもいられなくて・・・・。」
「ウン、分かってる。 親、もしくは育ての親に、会いに行こうと思ってたんでショ?」
「・・・・正解。 実はそうなんです。」
「それから、ボク達の軽めの任務に同行させてやってくれ、と頼むつもりだったり?」
「・・・・・・あはは! それも大正解です!」
「イルカ先生、よく聞いて? サイは根の者だから、口止め呪印が施されているかもしれない。」
「だからボク達は、うかつにダンゾウの事は質問できないんです、サイの命に関わる事だから。」
「呪印が・・・・ はい。 分かりました。 で、俺は何をすればいいんですか?」
「「何も。 イルカ先生はそのままで、暗部の隊員のフリだけしてて。」」
「了解です。」
感じているかもしれないけど、イルカ先生には話せない事。 サイはボク達の情報を与えられなかった。
里ではもう、先生の恋人達が誰だか知らない忍びはいない。 なのにあえて、その情報を与えなかった。
サイは確かにずば抜けた才能を持っているようだ。 それはあのダンゾウも脅威になり得るような。
どんな才能かは分からないけど。 きっとサイはその才能で、組織でも頭角を現してきたんだろう。
この二つから導き出される答えは一つだけ。 あわよくば、内部事情を知り過ぎたサイも始末する。
イルカ先生暗殺を企てたとしたら、ボク達が黙っているはずがない。 怒ったボク達にサイを殺させる。
人柱力の里内保持体制の強化。 昔、自分に石つぶてを飛ばした下忍の暗殺。 知り過ぎた駒の始末。
その全てを実行できたかもしれないし、どれか一つが成功してもいいように画策したんだ。
例え全部失敗しても、全ての責任は駒に押し付ければすむ。 つまり、サイ一人に責任を負わす。
その後のサイの使い方は、暗部に推薦するにはまだ早いとでも言い包めて、利用し続けるか、
失敗した者に次の道は用意していないと言い放ち、殺してしまう事も考えられる。
だから今ここでボク達が動かなければ、サイは遅かれ早かれ利用されたまま死ぬ事になる。
カカシ先輩と相談したんだ。 サイを、新生七班の一員にしてはどうか、先生も喜ぶから、って。
ダンゾウが売って来た喧嘩、買ってやろうじゃないか。 影で動くのなら影で動き返すまで。
毒をもって毒を制す、目には目を。 これはね、三代目から引き継がれたボク達暗部の精神なんだ。
裏を歩くは誠実に。 この意味が感情の戻った今ならはっきり分かる。 暗部の火の意志だと言ってもいい。