根からの刺客 11   @AB CDE FGH IKL




餌はまいた。 後はダンゾウが喰いつくのを待つダケ。 サイを、まだ利用価値のある駒だと思わせた。
ただ暗殺に失敗して戻っただけだと、サイは殺されてしまう可能性がある。 あの子は殺させないヨ。
だって七班の一員にするって、決めたし。 感情を忘れた当初のオレ達にも、チョットだけ似てるしネ。



サイとの会話で、洗脳内容もだいたい想像がつく、その方法も。 ダンゾウが集めたのはほとんどが孤児。
根は表向き解散させられているから、里の極秘の組織であると機密重要性をほのめかす。 無知の子供に。
火影の直属部隊の暗部は、里の為に自ら汚れる冷酷で強い武器なのだと、繰り返し信じ込ませるんだ。
純粋な里への忠誠心を利用し、全ては里の為、最終目標は暗部への昇格であると、組織に誇りを持たせる。

“僕の呪印は刺青に移行しないんですか?”って、サイが聞いた時、一つあれば問題ないと言っておいた。
暗部の刺青も情報漏洩阻止の為の呪印だと、思い込ませていたんだ。 どこまで仲間の命を軽視するのか。
それら全てを里の為になるコト、里の為に働いているコトだと思わせ、自分の為に働く駒を作ったんだヨ。

火の意志は、自らの手を汚す事を恐れない志し。 一流の忍びとは、同胞を殺してやる強さを持つ者。
きっとそんな風に教えているんだろう。 聞けばダンゾウも、心を持てと教えているらしいヨ?
アイツの事だ、強い心とは全ての感情を捨てられる事だ、とかなんとか言っているに違いない。

一つの小屋に二人で住まわせ、互いを依存し合う存在にする。 彼らの知っている世界はその中だけだ。
里や外界から切り離された世界で、ダンゾウの与える教えだけが、彼らが知る事の出来る里の姿。
皆、自分達は選ばれた存在で、将来は里を影から背負う忍びになるのだと、暗部昇格を目指すだろう。
もしも、もう一人の自分とも言える、その依存していた相手を殺させたとしたら? いや、多分そうだ。

自分の大切なモノを自分自身の手で壊せば、思考をすり替えられる。 それが・・・ 本当の強さだと。
おそらくサイは、その相手の名も顔も思い出せないだろう。 忘れなければ自分自身が崩壊するから。
だから少しずつ思い出させていかなくちゃならないのヨ。 自分が誰を殺して忘れていたかを。



一度に記憶操作でもして呼び起こせば、サイは間違いなく崩壊する。 自身が許せず業を背負う。
本当の強さは、自分の感情の全てと向き合うコト。 殺した命の重みを忘れない事、救った命の重みも。
オレ達も勘違いしていたヨ。 心を殺す事が強い事だと。 でもそれが間違いだった、心は感情の集まり。

ずっと見たくないモノから、向き合いたくないモノから目を背けていたダケ。 “忘れたい”という感情。
それは、無かった事にしたい自分の弱さが作りだした、現実逃避という名の都合の良い逃げ道なんだーヨ。



「イルカ先生、何探してんの?? 机の中を引っ掻きまわして・・・・」
「あ、あった! ふふ、これはサイにプレゼントするミニブックです。」
「サイにプレゼント?? ・・・・あれ? これ中が真っ白ですよ?」
「いいんです、自由帳ですから。 暗部入隊祝いのプレゼントです。」

イルカ先生を手に入れれば心が手に入ると思っていたオレ達。 もともと感情は、心はあったのにネ?
もっと単純な理由、恋しちゃったから欲しいと思ったダケv フフ、感情はあってもどんな種類なのか、
その判断がいまいち良く分かっていなかったのヨ。 元おもろい夫婦にも、散々バカにされたしネ。

いいもん、今はイルカ先生と一緒で幸せだから。 オレ達の幸せをたくさんの人に分けている最中だもん!
だから時間がかかるけケド、サイにも幸せのおすそわけ。 オレ達の部下もマジ恋に目覚め始めてるしネ。
ただオレ達が出来るのは、穴を開けるコトであって、自力で見つけて這い上がってくるのはサイ自身だヨ。
七班の一員になれば、ナルトやサクラ、他の班の子達と触れあえる。 たくさんバカをやって気付けばイイ。

「ほら、サイは絵が上手だから。 術の為じゃないモノを描けば、楽しみを感じるはずです。」
「ふふ、戦う為ではなく、自分の好きなモノ、興味のあるモノを描かせる、って事ですね?」
「それはイイかも。 いつも持ち歩けるミニサイズだしネ。 さすが、アカデミーの先生v」
「そしていつか、あの子の心の中にあるお兄さんを・・・・ 描けるようになればいいな、って。」
「「・・・・・・・うん。」」

先生、ねえ、イルカ先生。 オレ達、先生と一緒にいて、本当に幸せ。 “言いたい事を言う”でショ?
だから何度でも言いたい時に言うヨ? オレ達と一緒になってくれてありがとう、愛してる、大好き。
大丈夫、サイは絶対強いヨ。 ダンゾウの洗脳の壁を打ち破って、いつか自分から這い出てくる。
だって、なんだかんだ言って人の話を聞いちゃうような素直な子、イルカ先生を殺せなかった子だもん。

「オレ達から“根のスパイのサイ”に与える情報は一つだヨ。 オレ達の愛のメモリアル〜vv」
「サイの前ではイルカ先生の話しかしませんから。 愛の素晴らしさをひたすら語るつもりです。」
「って事は・・・・ ダンゾウが耳にする暗部内の情報は、どうでもいい惚気だけ・・・ ですか?」

「先生っ! どうでもよくないです!!」
「ダンゾウにはもったいないでショ?!」
「あははは! ではたくさん惚気て下さい、羨ましがらせちゃいましょう! くすくす!」

うん、大賛成! これから・・・・ 多分ナルトが帰ってくるまでの間、ずーーーーと惚気ちゃる!
ま、チョロと当たり障りのない情報も聞かせてやるケド。 そうしないとサイのスパイ価値が無くなるもん。
毒を持って毒を制す、目には目を。 暗部を舐めちゃいけない、裏を歩くのはアンタより遥かに上手いの。
こめーんネ、アンタのクソみたいな計画を利用しちゃうから。 喰いついて来るのは目に見えてるからネ。

「「んー イルカ先生に一杯かけた〜い〜vv ぬったくりた〜い〜vv」」
「ぶっ! ほんと、あの時の紳士達はどこへ? ・・・・でも俺、今の方が断然好きですv」
「「言いたい事を言う、だもん! イルカ先生、大好き〜〜vv」」
「はい、俺も大好き・・・・ん、 です・・・・たくさん惚気題材を提供しましょう? ちゅv ちゅv」

ダンゾウ、三代目や五代目とアンタが決定的に違う所は、自分の弱さに向きあえるかどうか、だヨ。
確かにオレ達は任務なら何でもやる。 でも向き合うよ、自分のした汚いコトも全て。 仲間の為にネ。
火影だって人間、必ず間違うし、一人じゃ出来ない事だらけ。 だからと言って仲間を切り捨てない。
仲間を捨て駒扱いすれば、必ず同じ扱いを受ける。 アンタは、どうやったって火影の器じゃない。