根からの刺客 10
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火の国のとある大名家のお姫様が攫われた。 里への依頼はその大名家から。 誘拐犯との交渉だ。
人質交渉はBランク任務。 だから今回も中忍三人の小隊を派遣した。 特に問題もなく交渉成立。
大金と人質を交換して、大名家に無事お姫様を届けたところで、追加の任務依頼が入った。
怒った大名が、誘拐犯の暗殺を希望したからだ。 お姫様はどうやら味見されていたらしい。
で、その暗殺依頼がボク達に回された。 全く、欲を出さないで、金だけにしておけばよかったのに。
大名は金なんかどうでもいい、腐るほど持ってるし。 ただ無事に娘が帰ってくればそれでよかった。
品の良いお姫様にクラリとくるような輩が誘拐なんか試みるモノじゃないよ。 本末転倒だ。
命が無くっちゃ、金なんていくらあっても意味が無いでしょう? 大名を怒らせたのは失敗だったね。
要求通りに金を用意し、忍びは交渉役のみ。 全ては、姫を五体満足で無事に返すという前提での取引。
それを破ったのは愚かな誘拐犯のヤツら。 どこの流れ者かは知らないけど、ハッキリ言って馬鹿だね。
即座に見つけ出し始末しろとの勅命。 ウチの忍びも泥を塗られたも同然、綱手様も怒っていたよ。
昨日のその、暗殺任務の呼び出しの時、サイの今後について先輩と決めた事を報告したんだ。
サイを七班の一員にしたい、って。 その為には綱手様の協力なくしてはできないんです、と。
今のままサイを騙して下さいと言ったら、綱手様の返事は即答だった。 “面白そうだな 乗った!”だ。
『まず、サイの暗部入隊ですが、綱手様に顔合わせに来ますので、直々に認めてやって下さい。』
『サイは、イルカ先生が暗部だと思い込んでますカラ、先生の引退受理も同時にお願いシマス。』
『分かった、任せておけ。 ところでさっきの報復任務だが。 獲物の舌を大名に届けろ。』
『『了解です。 口先だけの取引の・・・・ 代償ですね?』』
『そういう事だ。 木の葉の忍びをコケにする事は許さん。』
まあ、先輩とボクがそんな任務をこなして来ても、イルカ先生はいつも通り、笑顔で迎えてくれた。
不思議なんだよ本当に。 先生が刺青にキスしてくれる時って、ああいう報復目的の暗殺任務だったり。
どんな事をして帰って来ても、例え先生に話せない任務内容でも、先生は分かってる気がするんだよ。
早速“サイを七班に引き入れよう作戦”開始。 サイはダンゾウに、洗脳教育を受けて育ってきた。
今の根の者は皆そうだろう。 フーさんやトルネさんも、根の再組織化に加担している可能性がある。
一度洗脳された人間は、なかなか元には戻れない。 自分からその呪縛を打ち破るしかないんだ。
彼らは長く洗脳され続けた。 まだサイなら。 年齢から逆算すると、8年程の洗脳教育だから。
「綱手様。 部隊長カカシの名において、サイを暗殺戦術特殊部隊に推薦します。」
「同じく。 部隊長補佐ヤマトの名において、サイを暗殺戦術特殊部隊に推薦します。」
「よかろう。 お前達が推薦するのなら、木の葉の折れない武器である事に間違いない。」
「はい。 里の為、どんな事でもやり遂げてみせます。 よろしくお願いします。」
一朝一夕にはいかない。 長丁場になるのは覚悟の上だ。 その間、サイの命を守れるのは一つだけ。
スパイになる事だ。 正式の暗部の隊員となり、ダンゾウが利用しやすい立場を確立してやればOK。
これは相手がダンゾウだから仕掛けられる作戦。 サイには、ダンゾウに渡す書簡を作ってある。
・・・・・と、これはイルカ先生にお願いしたんだけどね。 サイの保護者に宛てた手紙を。
ダンゾウは、ボク達が先生をみすみす殺させるはずがないと知っている。 暗殺阻止は視野に入れてるはずだ。
イルカ先生暗殺を企てたサイをボク達は殺そうとするが、先生に懇願されてその命を助ける事にした。
この子は誰かに操られてただけです、木の葉の額当てをしてるじゃないですか! ・・・・なんて。
いかにもイルカ先生が言いそうな事でしょう? で、先生に説得されたボク達はサイの能力に着目する。
サイはボク達が偶然発見した、磨けば光る忍びだ・・・・ ってな筋書きにしておく。 完璧だろう?
ボク達はあくまでも、サイが根の者だと知らずに五代目に推薦した形。 だから保護者に宛てた手紙だ。
稀に見る能力の高さと可能性を秘めた忍びです、暗部入隊が決まりました。 一度火影様に会い、お話を。
当然そんな手紙を受け取ったダンゾウは、五代目に会うはずがない。 むしろその立場を利用するはず。
「ではイルカは暗部引退を認める。 優秀な人材を補充できたからな。」
「え。 イルカ先生は、暗部を引退するのですか?」
「誰かが入隊するのなら、誰かが引退しなければ。 暗部の数の調整だ、なぜだか分かるか?」
「・・・・・・えっと・・・・ 分かりません、イルカ先生は完璧な・・・・」
「サイ、ヒント1。 ・・・・・暗部の隊員は皆精鋭揃い、必ず生き残る。」
「・・・・それは・・・・・ どうなんでしょう??」
「仕方ない、ヒント2。 さっきも言ったヨ? “いかにそう思わせるか”」
「あ。 数が変わらなければ・・・・・ 誰も死んでないと・・・ 思うから、ですか?」
「正解! やっぱりサイは頭がいいなぁ! 俺も安心して引退が出来るよ。」
「そういう事だ。 また誰かが死ぬか、引退すれば誰かを補充する。 ・・・死ぬなよ、サイ。」
「はい! 僕、サイは火影直属 暗殺戦術特殊部隊の一員として、五代目 綱手様に忠誠を誓います。」
こうしてサイは正式に暗部に入隊した。 イルカ先生の書いた、保護者に当てた手紙を預かって。
後はダンゾウが引っ掛かるのを待つだけ。 おそらく、ボク達に信頼されている暗部の隊員という立場は、
ダンゾウがある意味一番欲しい情報の入手先でもある。 つまり、火影に関する情報、暗部内の情報の。
それに。 ダンゾウは根の者の洗脳教育に“里の大木の根であれ”という言葉を使っているらしいから。
実際に暗部への昇格者が出たとなれば、ヤツの話術はさらに説得力を増す。 大々的に公言するだろう。
サイ本人には祝っておきながら、その後も根に出入りさせ、上手く情報を聞き出そうとするはずだ。
サイは知らず知らず、ダンゾウによって暗部内を探るスパイとして根に飼われる事になる。
そんなの分かりきってる事だから。 サイにも言ったけど、いかにそう思わせるか、が重要。
ダンゾウに、サイはあくまでも自分の持ち駒、火影や暗部の情報を聞き出せるスパイ、そう思ってもらう。