闘犬島〈とうけんじま〉の秘密 3   @AC DEF GHI JKL




先輩の忍犬を追って来て、着いたところに、ツメさんと黒丸がいた。 火の国国境 水の国方面への沿岸。
カカシ先輩が言ってた通り、侵入者と思われる奴らは、すでに忍犬チームが捕縛していた。
後で拷問部に連行して、情報を取り出そう。 ん? あれは・・・・ あの犬は見た事ないけど・・・・?
なるほど。 ツメさんが黒丸といたのにも関わらず、別行動していたのは、あの瀕死の忍犬のせいか。

「どこの忍犬なんでしょうね。 ボクは見た事ありません。」
「オレも知らない。 ・・・・でも、アレは忍犬じゃないヨ。」
「? 普通の野良、ですか? それとも、飼犬でしょうか?」
「あ、でもツメさんは知ってるみたい。 名前を呼んでるカラ。」

捕縛し終わった黒丸が、ツメさんの側に行き、その犬に同じように呼びかけた。 “牙、頑張れ!”と。
どうやら犬塚一族の知り合いの犬らしい。 数か所に切り傷を負い、たくさん血を流していて危険な状態。
前足も折られ、変な風に曲がっていた。 ツメさんは片時も離れず止血し、救命処置を施していたんだ。
到着したボク達に気付いた黒丸が、手の放せないツメさんに代わり、お礼を言いに来た。


「里に向けて応援の念を飛ばしていたんだ。 パックンが感知してくれて助かった。」
「突然、スポーンって巻物から飛び出て、何事かと思ったヨ。」
「でもさすが黒丸、応援が来るまで持ちこたえようとしていたんだね?」
「・・・・あいつは10年前、家に来てリハビリを受けていた、闘犬島の犬だ。」

闘犬島の? だったらあの犬は、闘犬なのか。 どこか普通の犬っぽくはないな、と思ったけど、そうか。
なら今回の国境での戦闘騒ぎの元は、この牙を追って来た闘犬島の奴ら、という事になるが・・・・。
なんでそこの闘犬が追われているんだろう? まあ、追手か牙のどちらかに確認すれば判明する。
あ! なんとか命を取り留めたみたいだ。 微かだが心臓の鼓動が聞こえ出した。 さすが大陸一の獣医。

「ツメ! 牙は・・・・。」
「ふう・・・・。 大丈夫だ黒丸。  牙、よく頑張ったね、お前はやっぱり凄い犬だよ。」
「牙、お前の声が聞こえて、ツメと一緒に飛ばして来たんだ。 間に合ってよかった。」
「・・・・・・・ゥゥ。」

「その犬から事情を聞くのは、まだ無理みたいだネ。 アッチから聞くヨ、伝令に走らせるか。」
「パックン、拷問部に走って・・・・・ って、先輩。 もうビスケが行ってたみたいですよ?」
「う〜ん、さすがオレの忍犬チーム、連携バッチリ! んじゃ、そろそろ拷問部も到着だーネ。」
「あははは! 何気に自慢してるし! ツメ黒コンビに対抗してるんでしょ、先輩、クスクス!」

カカシ先輩は忍犬使いだから、忍犬チームの監督的存在。 一体化して術を繰り出す獣術使いとは違う。
でもやっぱり、そこは同じ忍犬を持つ者として、張合いたくなるんだろうな。 これはライバル心だね。
夫婦コンビが言った通り、ボク達に心はちゃんとあった。 色々な感情を、ただ忘れていただけだった。
上忍仲間は、今のボク達の方がフレンドリーで話しかけやすい、と言ってくれる。 そういうもんかな。

「・・・・・ヤマトはオレの感情とシンクロし過ぎるからねぇ。 あー ヤダヤダ!」
「何言ってるんですか、もう一人シンクロする人間がいるじゃないですか、ははは。」
「ウン。 ・・・・イルカ先生。  オレ達の・・・・・・ 先生、愛してマース!」
「あはは! ボクも! イルカ先生、愛してまーすっ! 今から帰りますよーv」

「うるさいよ! 木の葉の暗部の長が、ところ構わず叫ぶな! まったく・・・。」
「ツメ殿っ!! よくぞ・・・・ よくぞ言って下された!」
「パックン! お前はカカシのチームの頭だろ! それぐらい言っておやりっ!」
「いや、拙者達の口からは言えん。 主人が幸せそうに惚気ているなら聞いてやるのがチームじゃ。」

「・・・・・そうだな、それも立派な任務だ。 頑張れ。」
「黒丸っ! お主だけは分かってくれると思っていたぞ!」
「黒丸さんっ!」 「黒殿っ!」 「黒丸〜っ!!」

む! ちょっとパックン! ボク達の愛のメモリアルを聞くのが任務だって?! 失礼なっっ!
いつだって。 好きな時に言え、愛を伝える言葉は出し惜しむもんじゃない、って夫婦コンビが言った。
“言いたい事を言う” ボク達のモットー。 だからね? 仕方ないじゃない、言いたくなったんだから。
あの時言ってれば、とか。 せめて口に出していれば、とか。 そんな事思いながら死ぬなんてご免だ。

「しかし凄いですね、10年前に診ただけの犬の名前を、まだ覚えているなんて。」
「もちろん覚えているさ。 義足を作りに来て、リハビリに耐えた。 強い犬で、闘犬じゃない。」
「この曲がっているのは、義足なんだ? しかも闘犬島にいて闘犬じゃない、それは凄いネ。」
「このコはアタシの息子と同じキバだから、忘れたくても忘れられない。 牙、坊やは元気かい?」

ツメさんがそう聞いた途端、唸るだけだった牙が、苦しそうな息の中、かすれた声で遠吠えをした。
言葉を話せなくても牙の悲痛な叫びだと判る。 ・・・そうか。 飼い主はもう、この世にはいないんだね?