嘘も方便 1
ABC
DEF
GHI
JKL
「ねぇねぇ。 聞いていい? 忍者学校の先生になったら、何を教えるの?」
「何って・・・・ 俺まだ・・・・」
「やっぱり人殺しの仕方ですか? なら、心を殺す方法って事でしょうか?」
「・・・・・・・。」
「忍びは心を持たぬ者、人である必要はない。 まずそういうトコロから入るの??」
「人に頼るのは己が弱さの表れ、弱さを持たぬ為に親しい者を作るな、とかですか?」
「・・・・・・・・・。 あのなぁ・・・・・・。」
人は誰でも弱さを抱えてる。 弱さがあるからこそ、立ち向かう勇気やそれに耐える力がつく。
それこそ親しい人を守る為にな。 もし親しい人がいないなら? そんな時は周りを見るんだ。
そうすると自分を助けてくれる人がいる事に気付く。 特別に親しい人じゃなくてもね。
人が何人かいる道の真ん中で試しに転んでみるといいよ。 全員がスルーする事はあまりない。
誰かが派手にぶちまけた荷物を拾ってくれたり、大丈夫? と声をかけてくれたりするもんだろ。
まあ、その場にいる全員とは限らないけどな。 荷物も持って行かれちゃう可能性もあるけど!
でもそういう事だと思うんだよ。 この世で、まるっきり人と関わらない、なんて事は不可能。
そうやって赤の他人、知らない人であっても、勝手に向こうから関わってくるもんなんだよ。
最初は他人でもいつの間にか親しい人になると、その人に頼ったりする。 それは弱さとは違う。
忍びは心を持たぬ者、人である必要はない、なんて。 どこのどいつが言ったんだ、まったく!
他人の為に自分の気持ちが動くのは、他の生き物にはない感情、人が持ってる特権なんだぞ?
誰かの為に何かを考えたり行動したりしているなら、俺達忍びもそれはもう立派な人という事だ。
現にこうやって里を興してまで、一般人からの依頼を受けてる。 他人の為に実際に動いてるだろ?
「じゃぁサ。 里の為にだけ動く暗部は人じゃない、ってコト?」
「がぁーーーっ!! 今の俺の話の何を聞いていた?!」
「だって。 一般の依頼なんて、直轄部隊には来ないだろうし。」
「何言ってんだっ! 里の為に動いてる時点で、里に住む皆の為に動いてるだろ?!」
「「・・・・・・・・・そうなの??」」
「当たり前だっ! 例えばだなぁ・・・・ ウチの里の暗部が道で転んだとする。」
「「・・・・・道で転ぶはずない。」」
「まあ、聞け。 そこに誰かがいたら何人かは声をかけるぞ? 荷物も拾ってあげる。」
「「暗部が里内で荷物をぶちまける・・・・ もっとあり得ない・・・・。」」
「だからっ! いいんだよ、例え話なんだから!」
「「・・・・・・・・・・。」」
「つまり、里に住む皆は、暗部が自分達の為に頑張ってるのを知ってる、って事!」
「「・・・・・。」」
「下忍でも暗部でも関係ない。 民からみたら皆同じ “木の葉の忍び” なんだよ。」
「「・・・・・・・。」」
「親しい者を作らなくても里に住んでいる以上、人と関わりを断つ事は出来ない、そうだろ?」
「「・・・・・・・うん。」」
きっと今年、アカデミー入学を控えたどこかの有名一族の子だろう。 見てくれは随分と可愛いが。
言ってる事は一昔前の忍びの心得っぽい。 忍界大戦中かと思うほどの、時代錯誤の教えだ。
こんなのを吹き込んでいるのは多分・・・・ この子らの親や周りにいる取り巻きどもだろうな。
この子らが自分の考えでそういう結論に至ったとは思えない。 これじゃまるで洗脳教育だよ。
俺はこの前、確かにアカデミー教員試験を受けたけど、教職にこだわりがある訳じゃなかった。
昔っからお世話になりっぱなしの三代目に勧められたから、が本当の理由なんだよ。
三代目を失望させたくないからアカデミー教員になろうと思ってた。 でも今は違う。
こんな考えを持った忍びが木の葉の次代を担うと思うと・・・・ それだけでゾッとした。
今更だけど自分がなすべき事が明確になった気がする。 何が何でもアカデミー教員になるぞ。
人との繋がりを大切にするのが里の忍び。 それを人である必要はない、だと? ふざけるな!
人である必要がないなら、とっとと無人島にでも行って人としての生活を捨てればいいだろ?!
そんな事を当然の様にお前らに吹き込んでいる親なんて親じゃない! そっちこそ必要ないよ。
肉親だろうがなんだろうが関係ないね。 里の忍びの子は皆、火の意志で繋がった家族なんだ。
俺は年の離れたお前らの兄貴だと思え。 忍びも人の子、里に住む者は皆が家族だ、いいな?
「・・・・クスッ! なーるほどネー。」
「・・・・うん、納得です。 ふふふ!」
「そうか、やっと分かってくれたか、うんうん!」
「「暗殺ターゲットにされちゃう訳だ。」」
「あ・・・・ 暗殺?? 何の話??」
「火影が何かと世話を焼いている海野イルカの話。」
「この前、アカデミー教員試験を受けた中忍の話。」
「・・・・・・・・・・・お・・・俺??」
「「・・・・・・解っ!!」」
「?! ぇ? え?! え゛〜〜〜〜っっ!! 」
どっかのおぼっちゃま達だと思ってたら、とんでもなかった。 子供に変化した暗部だった。
どう考えても不味い。 例え話であっても、道端で転んだら・・・・ とか。 駄目だろ、それ!
・・・・・・というか。 今、暗殺ターゲットとか何とか・・・・・ 言わなかったか? マジで?!